Semua Bab 変わり者令嬢がやさぐれ勇者の嫁になりまして: Bab 21 - Bab 30

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第3話・勇者の嫁として頑張ると決意しまして 7

 門番が答えるとほぼ同時にそう門番に頼み、ミオは門外へと出る。久しぶりの地上は初めて見た時と同様に重苦しく今にも嵐が起きそうな鉛色の空であった。コートも何も着てこなかったせいで寒い。北の果ての海風が容赦なくミオに吹き付けてくる。 寒さを堪えながらとりあえずそのまま船着場の方まで歩いていく。何もない地上の地面は一面の岩場でやはり歩きにくい。こんなところに本当にピラートはいるのだろうか。 ごつごつとした岩場では渡り鳥が群れをなして止まっていた。 天の助けだ。 そう思い、渡り鳥たちに向かって唯一の特技をミオは使うことにした。『誰か女の子を知らない?緑髪の女の子で精霊と人間の子なの』 渡り鳥たちに向けてミオが口にしたのは鳥言葉である。ロクな魔法も謎の植物しか召喚出来ないが、唯一まともに使えたのがこの鳥と話す魔法であった。何を隠そうレイたち勇者一行の活躍もこうして鳥たちから聞いたのである。鳥たちはミオの数少ない友人であった。 渡り鳥たちはミオの言葉にけたたましい驚きの声を上げた。突然人間から自分たちと同じ言葉が聞こえたのだから驚くのも無理はない。しかし、しばらくすると彼らも落ち着いたのかやがて口々に言葉を返し始めた。『人間、探してる』『困ってる?』『精霊の子だって』『風の精霊の子、我らの同胞だ』『人間きらい』『風の精霊の子は好き』『風の精霊の子なら北で見たぞ』『北の向こう』『北ってどっち?冬の方?』『高い山に登っていた』 北の高い山と言われミオは北の方角を向く。視線の先にはまるで針のようにとんがった大きな岩山があった。 恐らくあの岩山にピラートはいる。『ありがとう!助かったわ!』 渡り鳥たちに礼を告げてミオはまた走り出した。 だが近付くにつれ岩山は遠目で見たよりずっと険しいことに気付く。ミオの体力も限界に近い。その険しい岩山の急斜面を登るのに躊躇してしまうがピラートを探すためである。 なんとか這うようにして一歩一歩とミオは登っていく。スカートが汚れることなんて気にしてられない。それより気を抜いたら自分の身体が転がり落ちそうなのだ。ドレスが汚れたり破れるくらい気にしていられない。 そうやって登った途中の崖の下、足場とも呼べぬ僅かな窪みにピラートはしゃがみ込んでいた。「ピラート!どうしてこんなところに!」「ミオ!」 ミオが呼
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-10
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第3話・勇者の嫁として頑張ると決意しまして 8

「ったくさあっ!」 突然、ミオの体の重力がなくなったかのようにふわりと浮き、ごつごつとした硬い斜面を転がる痛みが消えた。 恐る恐る目を開ける。するとレイがピラートごとミオを抱き上げていた。「危ないことすんなバカっ!」 そのままレイは危なげなく、ミオ達を抱き上げたまま斜面を滑降し、時にはひょいひょいと軽々跳ねながら地上へと一直線に下りていく。 そして地上に着くと安全なところでミオたちを下ろした。 礼を言おうとしてミオは息を呑んでしまう。 レイの肩から血が出ているのを見つけてしまったのだ。恐らく自分達を助ける際に怪我をしてしまったのだろう。 自分たちのせいでレイに怪我をさせてしまった。「す、すみません……」 青い顔で頭を下げる。しかしレイは一瞬肩の傷を一瞥しただけで、ミオとピラートを見やった。「いいよ別に。それより怪我ない?あとでグリモワールに治癒魔法かけてもらって」 先程の激昂とは打って変わった普段通りの素っ気ない態度でレイはふいと横を向く。伸びた髪が顔を隠して表情が見えにくい。「わ、私は大丈夫ですけど、でもレイ様が、」「いいって……なんだから」「え?」 レイの言葉が聞こえづらくミオは聞き返したが、レイは無言で小さく首を横に振る。「別に、なんでもない」 それだけを早口で言ってレイはミオたちを置いてさっさと帰ってしまった。 慌てて追いかけるもレイの背中はどんどんと遠ざかっていく。豆粒大ほどになってしまったレイの背中に向けてミオはぽつりと呟く。「また怒らせてしまった……」 泣かせたり、怒らせたり。 未だにミオは彼が笑った顔一つ見たことない。押しかけでも一応嫁なのに、未だに夫と打ち解けられていない。 自分の不甲斐なさに表情を曇らせるミオを顔を覗き込んだピラートがその緑色の髪の頭を下げる。「ごめんなさい、私のせいでケンカさせちゃって」「ち、違うの、ピラートが悪いわけじゃないの!」 勘違いしているらしいピラートにミオが慌てて弁明をしようとする。するとレイと入れ違いにアルマがバンディを担いでやってきた。バンディは恰幅がいいのにアルマはまるで意にも返さずに、まるで小麦の大袋のように彼を肩に担ぎ上げてきたのである。「無事かいお二人さん」「アルマ!パパ!」「アルマを先に呼ぶんかい!とにかく無事で良かった!」 満面の笑顔を向け
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-11
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第4話・三歩進んで二歩下がりまして 1

「はい! 私は勇者レイ・シュタインの嫁としてこの島を豊かにしたいです!」 そう言ってミオが高らかに宣言した翌日の朝のことである。幽霊島の地上は今日も今日とてどんよりとした曇り空で、冷たい海風が吹き荒ぶ。そして見渡す限り草木一本も生えていない岩だらけの荒野である。 その荒野を一望出来る場所でミオは魔術書を片手に立っていた。ミオの背後にはレイ達がその様子をじっと見守っている。「大地神の祝福あれ! この地に恵みを!」「……!」 ミオが呪文詠唱した直後、岩肌だらけの大地が一面白く光り輝く。バチバチと雷のような音が大地全体から鳴り響いたかと思うと、やがて光は収束して消えていった。 そしてその光が消えた後の大地は荒野ではなくなっていた。「わあっ地面が畑になった!」 突然変わったその地面の様子にピラートが歓喜の声を上げる。荒野の岩だらけの大地が見るからにふかふかとした柔らかな土の大地に姿を変えていたのだ。それも畝まですでにある状態である。 ミオが使える魔法の内、一番冒険に使えそうな魔法である「毒沼を普通の大地に変える魔法」を応用したものだ。わざわざ洗濯に使った石鹸がたっぷり含まれた排水を地面にかけてそれを元に戻すよう練習していた甲斐があった。 正直言って都市部では何の意味もなさないこの魔法もこの荒野では効果覿面である。「土壌改良か……それもとても良い質の土だ」 グリモワールが畑となった大地の前にしゃがみこみ、眼鏡越しに土を注意深く観察する。どうやらまず第一段階は成功したらしい。「でも畑が出来たところで作物がないと意味ないだろ」 アルマが至極もっともなことを口にする。 確かに作物は土が大切だが、土さえ良ければちゃんも育っわけではない。「それもこれからします!」 とても魔術の調子がいい。この土地の魔力はどうやらミオと相性が良いようだ。これなら期待できる。 ミオは深呼吸をして気合いを入れた。「出でよ! 作物!」 長い呪文詠唱の後、そう叫ぶ。ミオの召喚魔法である。失敗続きの魔法だが今なら成功するかもしれない。 ミオは全身をバチバチと鳴る雷のような光に包まれながら強く願う。 麦が出て来て欲しい。麦が駄目でもせめて異界のコメと言う植物が出て来てほしい。この島のために。「お願い!」 しかし現実は無常だった。 光が消えた後、畝に規則正しく無数に
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-11
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第4話・三歩進んで二歩下がりまして 2

 ほかほかと半分に切られたジャガイモが蒸し器の中で湯気を立てる。 皿に盛られて塩を振られたジャガイモをミオは訝しげに見つめていた。毒味役を買って出たは良いが、本当に食べられるのだろうか。 恐る恐るミオはフォークに刺したジャガイモを口に含む。 熱々のジャガイモが口の中に広がった瞬間、ミオの表情がパッと輝いた。「はふっ……美味しい!」 熱くてホクホクとして、甘みがあって美味しい。 シンプルな塩気が余計食欲を掻き立てる。 ミオの反応に皆がジャガイモにかぶりつき、次の瞬間その美味にキラキラと目を輝かせた。 レイが自ら作って皆に振る舞っているのはジャガイモを蒸して塩を振っただけの所謂、蒸かし芋だ。幽霊島ではバターは高級品なのでじゃがバターにはできなかったのである。 しかしシンプルな蒸かし芋でも十二分に美味しい。 ミオは初めて食べたジャガイモの味に感動し頬を紅潮させている。「うん味も良いし、これは腹持ちも良さそうだ。これは量産出来ればちゃんとした食糧になりますね。レイの言う通り主食としてパンと併用してもいいようだ」 グリモワールが蒸かし芋に舌鼓を打ちながらも嬉しそうな顔を見せた。「涼しいところに置いておけば保存も効くし、丈夫だから育てやすいんだ」 レイの言葉にミオは訊ねる。「このじゃがいも?と言うものはそんなにすごい作物なのですか?」 ミオの問いにレイは微笑んで答える。至近距離で見たその優しげな微笑みにミオの心臓がドキリと高鳴ってしまう。「あぁ寒冷地でも育つし、さっきも言ったけど飢饉の際には小麦の代わりとして主食として食べられていたんだ」「小麦の代わり?」 そんなに凄いものを自分は召喚していたのかとミオは内心で驚いた。「あぁ、まあ芽が生えたり緑色になったジャガイモは毒だから食べられないけどね」 そう言ってレイは破顔する。初めて彼の笑顔を見た。男性にこう思うのは失礼かも知れないが、なんだかとても優しくて可愛らしい笑みである。思った以上に優しい笑顔にミオはついドギマギしてしまう。(笑ってくれた……!) 彼を怒らせたり泣かせたりはしたけれど、ようやく笑わせることができた。 生まれて初めてちゃんと人の役に立ったかもしれない。 そう思い至るとミオの頬がかあっと熱くなった。「そう……ですか」 レイだけではない。アルマやグリモワール、ピ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-12
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第4話・三歩進んで二歩下がりまして 3

 ジャガイモの存在は瞬く間に幽霊島中に広まった。 憎っくきフロード王国からやってきたこれまた憎い貴族の娘が作った作物など、と最初は敬遠されてしまったがそれも一瞬のことである。 何せとにかく味がいい。流石はレイの、いや我々の世界では救荒作物と呼ばれ世界中の飢饉を救った奇跡の作物である。 北の果てにある寒い幽霊島でもちゃんと育つし、蒸しても茹でても煮込み料理に入れてもいい。小さなものは潰して焼いてもいい。パンの代替品としてジャガイモは島の食生活を一変させたのである。 それだけではない。赤竜が放っていた毒気のせいで荒野と化していた地上の土地を有効活用しているのだ。 それはジャガイモだけでなくミオが毎日例の土壌改良の魔法で畑を拡張しているからである。妹のエルフェが揶揄した通り荒野に緑が増えていく。しかしそれは島の皆の喜びに繋がるのだ。 もっと良い畑を作れば、もっと品質の良いジャガイモを沢山作れば、とミオは目標を定めた。そうすればいつかはこの幽霊島からジャガイモの輸出が出来るかも知れない。つまり島はもっと豊かになるのだ。(もっと頑張らないと……!) そうしてジャガイモ量産に向けて毎日朝から晩まで土壌改良とジャガイモ召喚に精を出していた結果、ミオは過労で倒れた。 「何してんだよ」 呆れた顔でレイがベッドの上のミオを見下ろす。漸く見慣れてきたミオの自室の真ん中にあるベッドの上でミオは横になっていた。 ベッド脇に立つレイに心底呆れたと言う顔を向けられてしまっては、ミオはベッドの上で小さく丸まるしかない。「すみません……」 やっと勇者の嫁として、この島の役に立てると思ったのにこれだ。つくづく自分は役立たずだとミオは自己嫌悪に陥ってしまう。「何をそんなに焦ってんの。確かにこの島は貧乏だけどさ、今日明日にもどうこうなるって訳じゃない。そんな慌てて頑張るほどのことじゃないでしょ」 レイの言葉はぶっきらぼうだがミオのことを慮っていてくれる。それは最初にこの島で会った時からそうだ。彼が怒るのは大体ミオが嫌なことを我慢したり、無茶をした時だった。 ミオはレイの問い詰めようとする視線から逃げようとシーツを頭から被り、やはりそれは失礼だと顔を出しかけて、やっぱり恐いとシーツを被る。「何がしたいのそれは」 完全に挙動不審になるミオに片眉を上げたレイが冷ややかな突
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-12
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第4話・三歩進んで二歩下がりまして 4

「分かった。それは最初にオレがフロード王国との交渉窓口を期待してるなんて言い出したせいでもあるな?」「いっいえ! それは違います!」 レイの静かな言葉にミオは慌ててシーツから顔を出して否定する。「レイ様が交渉窓口とお考えになるのはご尤もなことです、でもその私が、その……不甲斐ないからで……」「だからこうして無茶したんだろうが」 はあと再度これみよがしな溜め息を吐かれて、ミオは小魚のように口をパクパクとさせた。何も言い返せないのである。「追い詰めてしまってすまなかった。まあ確かに最初にそうは言ったけど、別にそこまで頑張る必要は全くない。そもそも努力しないのが悪だとか、努力出来ない人間はいらないとか、そう言う……何と言うか、人を追い詰めるような島にはしたくない」 レイはポツポツとミオへと語りかける。レイがこの幽霊島に対してどう思っているのか初めて聞いた。 そして努力しない人がいても良いというレイの考えにミオは目を丸くしてしまう。確かに努力する人、努力し続けられる人は素晴らしい人だ。しかし逆の場合、努力出来ない人がイコール罰せられるべき悪人と言う訳ではない。 努力が善としたら例えば怪我や病気で頑張れない人間は悪なのか、体力のない子供や老人は悪なのかという話だ。モチベーションがあれば頑張れると言うが、夢や希望も特になく強いて言えば毎日をのんびり暮らしたいと願う人間は罰を受けなければならない程の害悪かと言う話である。 答えは否だ。そう言う人間だって当然世の中には存在していいし、楽しく愉快に笑って幸せになっていいのである。「ならレイ様はどのような島にしたいのですか?」「うーん。理想は皆が皆適当にちょこっと働くだけで、そこそこ裕福に楽しく遊んで暮らせる島だったら最高」 それは確かに最高な島だ。食卓に肉すら満足に出ないような島では夢のまた夢だが、理想は理想だ。「まあ現状、皆に頑張ってもらわないと回らないのが情けないところなんだけどさ」「そう、ですか……」「だから、気にしなくていい。むしろ仮にも勇者の嫁が働き過ぎてると……その……周りが休みにくい」「あ……」 言われてみればそうだとミオは俯く。そう言う気遣いが自分は出来ないのだ。周りのことを全然考えてずに突っ走ってしまう。どこまでいっても自分のことばかりだ。妹のことを我儘だと思っているけれど、ミオ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-13
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第5話・二人きりでお出かけしまして 1

「ミオ、ちょっといいか」 レイから額にキスされた日から、数日後のことである。ミオが屋敷の廊下を歩いているとレイに呼び止められた。 あの日以来彼の雰囲気がすっかりと変わっている。ぶっきらぼうな態度ではあるが、表情や言葉が以前よりもずっと柔らかいものになっていた。 いや恐らくこの穏やかで柔らかな対応こそが本来の彼なのだろう。「はい。何でしょう?」 ミオが立ち止まりレイに向かって振り返る。彼は重装備ではないが、普段着の上に胸当てや剣を装備していた。「依頼を頼まれたから、出かけるぞ」 突然そう言われてミオは思わずきょとんとしてしまう。レイが勇者として他国や島の住人から依頼を受けるのはいつものことである。そして今まで任務に行く時にミオに断りを入れたことはなかった。「はい……いってらっしゃいませ」 そう送り出そうとすると、レイは視線を少し泳がせた後でいや、と控えめに首を横に振った。「いやミオも一緒に、行かないか?」「私も……ですか?」 こくりと頷くレイにますますミオが不思議そうな顔をする。何故レイは自分に声をかけたのか真意がまるで掴めないのだ。「や、予定があるんなら別にいいんだけどさ」 答えあぐねているミオにレイは早口でそう告げる。そのぶっきらぼうな物言いに慌ててミオはぶんぶんと首と両掌を横に振って否定した。「いえ、急ぎの予定はありません、すみませんびっくりしてしまって。今支度してきますね」 畑の拡張もとりあえずはひと段落している。ミオの手は空いていたからレイの誘いを断る理由はなかった。 そしてその一時間後、誘いに乗って良かったと心から思うのである。 「わぁぁぁっ!!」 巨大な白い鳥の背に乗せられたミオは満面の笑みで子供のような歓声を上げた。その巨鳥は勇者が所有するルフと言って、古代魔法で生成された鳥である。確か灼熱の砂漠に眠る神鎧の捜索の時に見つけた鳥だったかと思う。 そんな巨大な鳥の背に乗りながら、ミオとレイは何処までも続く大空を飛んでいる。 空は何処までも広く、青い。 いや遠くの空では曇り空が見えた。ミオの眼前に世界が何処までも広がっている。その事実に胸が高鳴りっぱなしであった。「あまり暴れるなよ、落ちる」 ルフの背に鞍を乗せてミオを前に乗せる。そしてその背後から抱き抱えるような形でレイはルフの手綱をとっていた。 密着
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-13
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第5話・二人きりでお出かけしまして 2

 フォルス平原も、空には及ばないがそれでも地平線が見渡せるくらいには広大な平地が広がっている。どこまでも続く、本当に平らかで鮮やかな緑の草木以外何もない平原であった。 レイの手綱により目的地、平原の端にある小川の近くへとルフは着地した。魔法の白鳥は瞬く間にレイが服の下に隠していたロケットペンダントの中に収納されてしまう。「えーと……」 これからどうしたらいいのか分からず突っ立ったままのミオをそのままにして、あっと言う間にレイは同じく魔法で加工されただろう袋の中からテント道具を取り出す。するとミオが困惑している内に一人で手際良くテントを組み立てた。「オレはそこらに出てくるショゴスを倒してるから、ミオは安全そうなところでこう言う魔石とか宝っぽいものを拾って」 そう言うとレイはお手本なのか赤く光る石を目の前で拾って見せる。そしてそれを同じく袋の中から取り出した籠の中に入れミオにその籠を手渡した。「はい」「半日はきっとかかるから疲れたらミオはそこで休んでて。喉が渇いたらそこの小川の水もあるし、何かあったらこの笛を吹けば駆け付けるから」 テントを指差さすレイに小さなホイッスルのような形状の笛を渡されてミオは戸惑いながらも頷く。 これは一体何なのだろうか。「じゃあ行ってくる」 そう言うなりレイは風のように颯爽と平原の真ん中へと駆け出す。「エクス……カリバー!」 そう叫ぶなり大きな光線が平原を一文字に焼き尽くした。 その光の中、確かに平原の草に混じって泥状のものがいくつも黄金の光線に飲み込まれて消えて行くのが遠目からでも見えた。(あのエクスカリバーって言葉、何なのかな……) ミオはその壮観な光景を眺めながら、かねてからの疑問を思い浮かべる。彼が手にしている聖剣は聖剣であり名前などない。強いて言えば「聖剣」と言う名前の剣である。けっしてエクスカリバーと言う名前ではない。よしんばエクスカリバーと言う名前であったとしてもわざわざ攻撃する時に剣の名前を叫ぶ理由が分からない。 彼がいた世界ではそう言うルールがあったのだろうか。 ミオは光線から取りこぼしたショゴスを追いかけては宙を舞うように跳んで切りかかるレイの姿を目で追いながら、不思議そうに首を傾げた。 彼の世界でもそんなルールは一切ないが、必殺技を叫びたがる年齢層の人間は一定いる。彼はその年齢層か
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-14
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第5話・二人きりでお出かけしまして 3

 二人が黙々と仕事をこなしている内にやがて日は空の真上に上り、昼の時間帯を迎える。休憩と言ってレイがテントの方へと戻ってきた。「あぁ弁当持ってきたよ」「お弁当ですか?」 レイがテントの隅に置いてあったバスケットを指差す。嫁の癖に何も用意せず、手ぶらで来てしまったことを内心焦っていたミオはレイの言葉にほっとした。 しかし、レイがバスケットから取り出した食べ物は見慣れない食べ物だった。それはパンとパンの間ににキャベツと円形の肉のようなものが甘辛いソースと共に挟まれた物である。そして付け合わせはジャガイモだ。それも細長く切られたジャガイモが油で揚げられているようだ。 どちらの料理もミオは見たことがない。 それどころかフォークとナイフも使わず手づかみで物を食べると言うのもサンドイッチ以外では初めてのことだった。サンドイッチに似た、しかし丸いパンに肉を挟んだものはまだなんとなく理解できる。しかし揚げたジャガイモまで手掴みなのは手拭き用のハンカチを渡されても戸惑ってしまう。 レイが昼食として出したものはこちらの世界はお馴染みのファストフード、ハンバーガーとフライドポテトである。 本来なら捨てるような骨や筋のギリギリについた屑肉を集めて叩いてミンチにした肉を焼いて甘辛いソースとピクルスを付け合わせにしたハンバーガーは、簡素だが簡素故に幽霊島の事情と相性が良い。またフライドポテトを揚げた油は以前レイが倒した海竜から採れた脂から作られたものである。 レイが食べる姿を真似てミオはハムっと大きなハンバーガーにかじりついた。シャクッとレタスの歯応えがする。「美味しい!」 ミオはパアッと目を輝かせる。柔らかい肉の旨みとソースがパン生地に染み込んで余すことなく食べられる。レタスののシャキッとした食感も口の中がさっぱりしていくらでも食べられそうだ。 フライドポテトも外側はカリカリしていて香ばしいのに中はジャガイモのホクホクとした食感が両方味わえる。シンプルに塩で味付けしただけなのに、これもいくらでも食べられてしまう。「美味しいです!」「やっぱ竜の脂はなんか生臭いな………植物油か……ナタネ油とか紅花油……あとゴマ……高いよな」 ミオが感想を述べるもレイは眉間に皺を寄せフライドポテトを凝視したまま、何やらブツブツと独り言を呟いていた。「レイ様」「ガツーンと儲かる方
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-14
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第5話・二人きりでお出かけしまして 4

「聞いてもいいですか?」「何?」 真っ直ぐ見つめ返すレイの漆黒の瞳にミオは一瞬たじろいだが、質問を投げかけてみる。「どうして今日、私をここに連れて来てくれたのですか?」 その問いにレイは一瞬だけ目を軽く見開いて、それから水筒の中のお茶を一口飲んだ後で答えた。「うん。前にグリモワールからミオが冒険したかったって、聞いたから」 予想外のレイの答えにミオは思わず目を丸くしてしまう。「グリモワールさんからそんな話を聞いてらしたのですか?」「まあ冒険と言うにはちょっと楽過ぎる感じだけどね。でももっと難しくするとそれなりの装備も必要になるし。今回は初心者向けってことで」 レイの言葉にミオは目を丸くしたまま思い出す。確かに巨大な鳥に乗って空を飛ぶのは間違いなく冒険と言う感じがするが、魔石集めが冒険になるのだろうか。 冒険と言うのは前人未到の地を踏破することじゃないのだろうか。「……これが冒険……」 納得いかないと言いたげなミオの顔にレイは苦笑いする。「地味と言えば地味だけど、冒険者って大体こんなもんだよ。地道にコツコツ使えそうなアイテムを拾って真面目にコツコツ与えられた依頼をこなす。そんでお金を貯めて武器防具を道具を揃えて次の冒険に向かう」「はあ……」 まだ納得いかなそうなミオに少し俯いてレイは告げた。「それに、ミオとは落ち着いた場所で二人で話したかった」 レイの言葉にミオはこてんと首を傾げた。「……それはどのような件でしょうか?」 その返答にレイはミオの真正面から向き直り、座ったまま背筋を伸ばした。「この前はごめん、ミオは何も悪くないのに八つ当たりしてしまって傷つけてしまった」 そう言ってレイは深々と頭を下げる。「この前……?」「初めて会った夜」 レイの回答に慌ててミオを首を横に振る。「いえ、いえ……それは、仕方ないことです」「いや許されないことだった。本当にすまなかった」 真摯な声色にミオもどう返したらいいか悩んでしまう。一方的に傷付けられることしかなかったから彼女には仲直りの仕方が分からないのである。「だからもし……ミオが望むなら、フロード王国に帰ってもいい」 真摯な声色のレイの発言に思わずミオがぎょっとしてしまう。「か、帰れないです! それに、帰ってもその……居場所が……ないです……」 思わず大声を出してしま
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-15
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