結局三つ編みに髪飾りを付けると言うどっちつかずの髪型にしたミオは朝食前に畑の様子を見に行こうとしていた。 朝食前に畑の様子を見て、気温やジャガイモの生育の様子で今日の予定を立てるのである。 当初はすぐに畑の様子も確認出来た。だが畑も広くなった今ではちょっとした散歩になっている。(こっちの区画を収穫して……それからあっちの区画の土壌改良をしてから新しい野菜作りをしようかな) こんな寒い北の地でもニンジンは育つと言う。それを育ててみようと思うのだ。 そうやって今日の予定を立てていると俄かに船着場の方が何やら騒がしいことに気づいた。今日は定期船が着く日ではない。どうやら臨時の船が着いたようだ。「エクラ様!」「エクラ様、どうかこの子の治療を!」 船着場から下船してくる人々は地上に降り立つやいなや口々にエクラの名を呼び始めた。どうやら幽霊島にエクラが住むと言う噂を聞いて皆遥々やって来たらしい。(やっぱり凄いなあ、エクラさんは) 奇跡の聖女はこんな辺境の地に人を呼べるほどとてつもない影響力をもった存在なのだ。 別次元の存在過ぎてもはや嫉妬すら抱けない。 当然である。自分はただの変わり者の地味で冴えない女で、彼女は聖女だ。比べることすら無礼と言うものだ。「待て、まずはここで待機だ! まずは医者が診察し病状の重い者から聖女の治癒が始まる!」 人々が口々に騒つき始める船着場の中、よく通る男の声が響き渡る。 するとしんと周りが静かになった。 様子を見にミオも船着場の方へ近づいて行く。「か、金ならあるんだ! 先に私を聖女の元へ連れて行け!」 静かになり始めた船着場だったが、しかしよく肥えた男が札束をこれ見よがしに見せつけながら黒い衣服の男に近寄る。 札束を見せつけられたのは黒いコートに燃えるような紅い髪をした男だ。「愚か者! 汚れた金で聖女を穢すことは罷りならん! 人の欲は聖女の奇跡を弱めるぞ!」 しかし紅い髪の青年は有無を言わせぬ迫力でピシャリと言い放つ。その紅い髪からは二本の角が生えている。魔族だ。 しかし不思議な魅力のある男だ。皆が、ミオも含めてだがその紅髪の男に注視している。札束を持った男も抗議して食い下がりそうなものだが、魔族の男を黙って見つめているだけであった。黙って話を聴きたくなるような、その場にいるだけで皆の注目を集めてしま
Last Updated : 2025-06-20 Read more