「どんなことがあっても、落ち着いて笑ってみせる。喜んでも、怒っても、顔には出さない。最初のころは、本当にくたくただった。分厚い仮面をかぶったまま息をしているみたいで、苦しくてたまらなかった。それでも時間がたつうちに、わたしはその仮面にも慣れてしまった。そしてようやく気づいたのだ――仮面って、一度かぶったら、かぶり続けるうちに外れなくなってしまうんだって。」きっと、夜の育て方のせいなのだろう。星のふるまいは、いつも落ち着いていて、品があった。皮肉を言うときでさえ、決して下品にはならない。仁志はその言葉にぴくりと反応し、思わずつぶやいた。「仮面をかぶり続けると……外れなくなるのですね」そよ風が吹き、淡い香りが流れてくる。強すぎず、けれど心地よく鼻をくすぐる香りだ。色とりどりの花が風に揺れている。有名な花のような派手さはないのに、なぜか心が洗われるように美しい。見渡せば、ぽつぽつと咲く花々が、群生とは違う、静かな華やかさをつくり出していた。「ここ、本当に素敵な場所だね」星は澄んだ空を見上げながら、瞳に柔らかな光を宿す。「街の喧騒から離れると、心も身体も、ふっと軽くなるわ」仁志は、そんな彼女を横目で見た。たしかに、さっきまでよりずっと穏やかな表情をしている。陽ざしは暖かく、午後の光が心地よく体に降り注いでいた。やがて星は、静かな香りに包まれたまま、いつの間にか眠りに落ちていた。手が不自由になってからというもの、彼女には眠れない夜が続いていた。あれこれ試しても、やっぱり眠れない。そのどうしようもない感じには、もう慣れている。そこへ清子が戻ってきてからは、胸のざわつきがひどくなり、毎晩のように眠れなくなった。不眠のつらさは、誰よりも知っている。目を覚ましたときも、陽ざしはまだ彼女の上に降り注いでいた。星はゆっくりと目を開ける。すぐには起き上がろうとしなかった。こんな静かで澄んだ空気の中にいると、やっと心に安らぎが戻ってくる。このままずっと眠っていたくなるくらいに。重たい悩みも心配ごとも、今だけは何ひとつ思い出したくなかった。少し首を傾けると、仁志がまだそばに座っているのが見えた。彼は頭を垂れ、手の中の何かをじっと見つめている。黒い瞳は真剣で、指先だけが器用に、すばやく動いていた。その所作はどこか優雅で、こんなに集中して
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