焚き火の赤い光に照らされた仁志の瞳は、夜空の星をそのまま閉じ込めたみたいに澄んでいた。端正な横顔も、揺れる炎に縁どられて、どこか現実味のない金色の輝きを帯びて見える。「大丈夫です。仮眠程度なら取れますが、熟睡はできません」さらりと言われ、星の視線が、そっと彼の顔に落ちる。「……仁志の不眠、まだ良くなってないんだ?」「ええ」星は少し考え、それからぽつりと続けた。「悩みごと、多すぎるんじゃない?」以前の彼女には、眠れない夜なんてほとんどなかった。けれど、問題が増えはじめたころから、いつのまにか眠りが浅くなっていた。仁志は、それを否定しない。「……そうかもしれません」星は焚き火を見つめたまま、静かに言った。「よかったら、話してみる?聞くだけならできるよ」しばしの沈黙。彼は口を閉ざしたまま火を見つめていた。自分が踏み込みすぎたのだと察して、星は慌てて付け足した。「もちろん、言いたくないなら言わなくていいからね。無理に聞き出すつもりは――」言い終わる前に、澄んだ声がふいに落ちた。「……星野さんは、自分を傷つけた人を、許せますか?」星は、少しだけ考えた。「それは……どんなふうに傷つけられたかによるかな。どんな人が、どんな理由で、どうしたのかにも」仁志が、あえて別の名前を出した。「雅臣のことは許せますか?」星は、静かに答えた。「許すことはない。でも、もう恨んではいないよ」清子の件が明るみに出たあと、雅臣は確かに、星に対してかなりの償いをした。星は、それを突き返すような清廉さを求めるつもりはなかった。なにせ、雅臣と五年も結婚して、たとえ「家政婦」だったとしても、あんなふうに何も持たずに去るなんて、本来ありえない話だ。誰の胸の中にも、一つの秤がある。星は欲がないわけじゃない。でも、それを「当然の権利」だと信じているわけでもない。結局、彼が補償したのは、彼自身の良心の問題だ。その秤に従って、彼なりのケジメをつけただけ。――愛の最後に残るのは、結局、良心だけ。そして今の星は、よく分かっている。男の愛情に頼ったり、相手の良心に期待して生きるなんて、どれほど愚かか。彼の良心を利用して、自分の未来や仕事を少しマシにすることはできる。でも、そこに寄りかかって生きることはでき
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