今の雲井家は、まさに濁流だ。足を踏み入れれば、誰だって臭い泥にまみれる。組める相手はいくらでもいるのに、わざわざこんな揉めごとの多い相手を選ぶ必要があるだろうか。結局、儲けにならないどころか、自社の時価総額まで傷つく。割に合わない。忠の取引先は、次々と彼から距離を置いた。協業の話どころか、会ってもろくに言葉を交わさない。「DV不倫のクズ」というレッテルを一緒に貼られるのが怖いのだ。世間の噂も、止まらなかった。「雲井家の子どもは全員優秀な子って話じゃなかった?なのに、まず第一令嬢が私生児だって暴かれて、そのうえ私生活が乱れてるとか。次は忠がDV不倫?雲井家、鬼の巣すぎるでしょ」「澄玲の家、靖との婚約を発表したばかりだよね。澄玲がこんな家に嫁いだら、一生台無しじゃない?」「澄玲、逃げて!絶対に雲井家に嫁いじゃだめ!」「翔の縁談もまだ話し合い中らしいよ。相手は葛西家のお嬢様だとか……葛西家も巻き込まれるね」「雲井家、こんなにぐちゃぐちゃなら、入った瞬間地獄だわ……」明日香の騒動がようやく朝陽によって沈静化しかけた矢先、忠がまたニュースを起こした。しかも一番許されないDVだ。雲井家が長年作り上げてきた評判は、ほとんど崩壊寸前だった。今や誰もが、「雲井家に関われば碌なことにならない」と思っている。明日香に長年想いを寄せてきた朝陽でさえ、せいぜい明日香と食事をし、記者に撮られた際に、「明日香はそんな人ではない。信じている」と表明する程度。明日香でなければ結婚しないとまでは、口にできなかった。星は玄関先でしばらく耳を澄ませ、大体の事情を理解した。何にせよ、朝陽は怜央ほど無条件ではないにせよ、明日香を一度は助けた。皆が雲井家を避けているこの状況で手を差し伸べるなら、それは明日香にとって本気と言っていい。明日香の評判はいま芳しくない。だが冷静に考えれば、朝陽のような重要人物さえ繋ぎ止めておけば、それで十分なのだ。明日香は気位が高い。凡人に嫁ぐなど、まずあり得ない。ただ、今の流れを見る限り――ここまで揉めごとを起こしてしまった以上、忠が立ち直る余地はほぼないだろう。リビングに入ると、星は結羽が階段を降りてくるところに出くわした。星を見て、結羽は足を止め、微笑む。「星、お帰り」忠を除けば、結羽は雲井家の面々への態度が概ね良い。星
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