けれど、どれだけ彼が尽くしても、夜の態度は終始淡々としていた。その後――もし星野家が危機に陥り、夜が嘲笑われたとき、彼が迷いなく夜の側に立たなかったら。彼はきっと、永遠に夜の心に入り込めなかった。ようやく夜が彼を愛するようになり、二人は二年だけ幸せな時間を過ごした。誰も想像しなかった。その二年が――永遠になってしまうなんて。そこまで思い至ると、正道の瞳に痛みが滲んだ。星は黙って聞いていた。星野家が平然と嘘をつくはずがない。しかし正道にも、嘘をつく理由がない。母が、前にも狼、後ろにも虎という進退窮まる状況で、どうやって耐え抜いたのか。星には想像すらできない。そしてようやく理解する。夜が最後に、逃げるしかなかった理由を。あの頃、星野家は落ち目で、何をするにも人の顔色をうかがっていた。彼らが夜と正道の離婚を認めるはずがない。むしろ、夜が実家に助けを求め、身を寄せたとしても――彼らは夜を再び正道のもとへ送り返しただろう。夜は、あれほど誇り高い人だった。愛していない時は、正道が初恋と絡んでいようと、冷めた目で見ていられた。関心がなければ、心は波立たない。初恋が何度も挑発してこなければ、夜は手を出すことすらなかったはずだ。だが正道を愛してしまった後で、どうして耐えられるだろう。正道が別の女と「夫婦」として三年も暮らし、子どもまで作った事実を。子ども以外、夜にはもう何の未練もなかった。手足がある。自分で生きていける。栄華のために、辱めを飲み込む必要などない。彼女は逃げた。息が詰まる場所から、離れた。靖たち三兄弟のために、正道に少しずつ権限を奪われながらも、株を雲井家に戻した。それが――彼女が残せた最後の母の愛だった。……羽生社長との契約がまとまり、星の重要な仕事はひとまず一段落した。しばらく休めるはずだったが、星は休まなかった。空いた時間は、ビジネスの勉強か、スポーツクラブ通い。格闘と射撃の技術を学んだ。職場の女性は、厄介な男に遭遇しやすい。最低限、自分を守れる力が必要だ。ジムに着いてから、星は気づく。格闘担当のトレーナーが辞めていた。スタッフが申し訳なさそうに言った。「星野様、当クラブには他にも優秀な女性格闘トレーナーがおります。ご覧になりますか?」星が考え込んだそのとき、隣の仁志がふいに言った。「不要です」
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