仁志が今回、葛西家に対して取った手は――正直、得なんてひとつもない。むしろ、損しかしていないと言っていい。「敵を八百討ち、自らを千損なう」まさにそんなやり方だ。だからこそ、こんなコスパ最悪の真似をしようとする人間は少ない。商売人は損得に敏感だ。儲からないどころか損をするなら、普通はやらない。彩香が言った。「それに、仁志があれだけお金を突っ込んでるのに、ここで『撤退する』なんて言ったら……仁志のお金、全部ムダになっちゃうじゃない?確かにあの人はお金持ちよ。でも、空から降ってきたわけじゃないの。冥札みたいに、勝手に燃やしていいと思ってるの?」航平が熱くなって返した。「ムダ投資だって?ちがう。あれは元々、星に対する借りなんだ!あの人が星にあんな酷いことをしたんだから、財産全部注いだって、まだ足りないくらいだ!」その言葉が出た瞬間、空気がすっと冷えた。星と彩香が同時に眉をひそめ、航平を見た。航平も、言い過ぎたのを自覚したのだろう。軽く咳払いをして、表情と声のトーンを落とした。そして息を吐き、言った。「……ただ、星があの人に借りを作るのが嫌なんだ。星が助けを必要とするなら、私も雅臣も助けられる。それに――仁志は、星に一番深い傷を残した人間だ。傷が癒えたあと、痛みまで忘れたらダメだ。あれだけはっきりあいつにやられた傷なのに、最後に恩まで受け入れさせられるなんて……そんな終わり方、絶対にあっちゃいけない」航平は彩香を見つめ、言葉を続けた。「人は何も持ってなくてもいい。でも……意地と尊厳だけは、手放しちゃいけない」――くそっ。彩香は思わず悪態が喉まで出かかった。「航平、あんたさ……理想論すぎない?言ってることが間違いだとは言わないわ。確かに彼は星に傷をつけた。だからこそ、仁志だって補償を惜しまないし、もっと助ける気でいるんでしょ?じゃなきゃ、あんな金の使い方する?遊びじゃないのよ。仁志がバカだって言いたいの?それにね、手元にあるものを使ってこそ、最大限の力が出せるの。みんな俗っぽい人間なんだから、清高ぶる必要なんてないでしょ。意地がないっていうのは、何も持たずに踏みにじられて、好き放題やられて、それでも手も足も出せなくて、必死に助けを乞うしかない状態のことよ。今、誰かが助けるって言ってくれてる。しかも、こっちが卑屈にならず
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