星は少し考えてから、扉を開けた。ドアの外には、明日香が立っていた。彼女は微笑みながら尋ねる。「星、今ちょっと時間ある?少し話したいことがあるの」星は明日香を書斎の中へ招き入れた。「何か飲む?」「水でいいわ」星が雲井家に戻ってきてからというもの、彼女と明日香が二人きりでまともに話をしたことは一度もなかった。お互い、ある程度のことは察している。だからこそ、今さら表面だけ取り繕っても仕方がない。そんなことをすれば、かえって白々しくなるだけだ。明日香も、そのあたりはよく分かっていた。偶然顔を合わせた時に挨拶を交わすことはあっても、彼女の方から星に近づいてくることはなかった。雲井家の人間の前で、わざと気を遣うような態度を見せて好感を稼ごうとすることもない。だから立場の違いを別にすれば、星は明日香のことを好きにはなれなくても、清子ほど嫌ってはいなかった。星はよく分かっている。明日香は賢い女だ。清子のようなやり方は、尻尾をつかまれる危険が高すぎる。それに明日香は、もともと家族全員から偏愛されてきた。わざわざ誰かを徹底的に踏みつける必要などない。たとえ自分から策略を巡らせたり、誰かを陥れたりしなくても、雲井家の人間は原株のために勝手に動く。彼女にとって、そんな割に合わないことをする理由はなかった。だからこそ明日香は、いつだって俗世の埃ひとつついていないような顔をしていられるのだ。星は明日香に水を一杯注いでから、口を開いた。「わざわざ私に会いに来るなんて、一体何の話?」明日香は、目の前のグラスを見つめたまま、何かを考えているようだった。星は急かさない。しばらくしてから、明日香はようやく顔を上げた。「この前、仁志がいなくなった時、もう戻ってこないと思ってたの。だから、あなたに話していないことがあったわ」そこで一度言葉を切り、静かに続ける。「でも今日、仁志を見て……やっぱり、いくつかの真実は早めに知っておいた方がいいと思ったの。心の準備もできるでしょうし。何も知らされないまま、最後に知る立場でいるのって、つらいもの」遠回しな言い方ではあったが、それだけで十分伝わった。明日香は、仁志の身の上についてずっと前から知っていた。そして、自分だけが最後まで知らされなかったのだと。星は淡々と尋ねる。
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