仁志は事前に宮殿の地図を手に入れていて、巡回車の位置まで把握していた。あの腕なら、気づかれずに一台奪うくらい造作もない。二人はすぐに車へ乗り込む。星の腕では、こういう高負荷の運転は難しい。ハンドルを握るのは仁志だ。星は銃を手にし、助手席で援護に回った。三十分ほど走ったところで、仁志がふっと窓の外に目をやる。その瞳に冷たい光が走り、漆黒の眼差しが鋭さを増した。「星……来たぞ」星がバックミラーを見ると、案の定、追撃の車両が何台も迫っていた。その直後、車が急ブレーキをかける。星が前方を凝視すると、道にはスパイク帯と検問が設けられていた。しかも、向かい側からは武装した一団が現れ、二人の車へ向かって容赦なく銃撃を浴びせてくる。激しい銃声が響き渡る。それでも車は微動だにしない。窓ガラスにさえ、ひびひとつ入らなかった。星は思わず仁志を見る。彼女の考えを読んだように、仁志が言った。「これは隊長用の車だろ。見た目は普通でも、防爆仕様で……防弾だ」数ある車の中から、彼がわざわざこれを選んだ理由がようやく分かった。もちろん、星だって撃たれっぱなしでいるつもりはない。安全装置を外し、撃ち返そうとした、その時――仁志が低く制した。「星、まずしっかり掴まれ」星は小さくうなずく。次の瞬間。仁志がアクセルを踏み抜いた。タイヤが白煙を噴き、車は弦を離れた矢のように一気に百八十度回転する。そしてそのまま、後方の車列へ真正面から突っ込んだ。衝突の刹那、凄まじい轟音と衝撃が炸裂する。同時に仁志が身を翻し、星に覆いかぶさるように庇った。天地が揺れるような爆音の中、星は激しい揺れに叩きつけられ、しばらく眩暈が収まらなかった。仁志が選んだ車の頑丈さは伊達ではない。四散こそしていないが、車体の前部は大きく潰れ、フロントガラスは粉々になっていた。「星、平気か?」すぐ傍で、仁志の声がする。「大丈夫……」星は首を振り、顔を上げて彼を見た。仁志の顔色はやや青い。だが、一見した限りでは目立った外傷はなさそうだった。彼はある番号に電話をかけ、短く指示を出すと、すぐに切った。そして星に向き直る。「星、奴らはすぐ追ってくる。ここから門まではそう遠くない。先に行け。雅人が迎えに来る」星が問う。「……あなたは?
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