Alle Kapitel von 夫も息子もあの女を選ぶんだから、離婚する!: Kapitel 1641 – Kapitel 1650

2151 Kapitel

第1641話

仁志は事前に宮殿の地図を手に入れていて、巡回車の位置まで把握していた。あの腕なら、気づかれずに一台奪うくらい造作もない。二人はすぐに車へ乗り込む。星の腕では、こういう高負荷の運転は難しい。ハンドルを握るのは仁志だ。星は銃を手にし、助手席で援護に回った。三十分ほど走ったところで、仁志がふっと窓の外に目をやる。その瞳に冷たい光が走り、漆黒の眼差しが鋭さを増した。「星……来たぞ」星がバックミラーを見ると、案の定、追撃の車両が何台も迫っていた。その直後、車が急ブレーキをかける。星が前方を凝視すると、道にはスパイク帯と検問が設けられていた。しかも、向かい側からは武装した一団が現れ、二人の車へ向かって容赦なく銃撃を浴びせてくる。激しい銃声が響き渡る。それでも車は微動だにしない。窓ガラスにさえ、ひびひとつ入らなかった。星は思わず仁志を見る。彼女の考えを読んだように、仁志が言った。「これは隊長用の車だろ。見た目は普通でも、防爆仕様で……防弾だ」数ある車の中から、彼がわざわざこれを選んだ理由がようやく分かった。もちろん、星だって撃たれっぱなしでいるつもりはない。安全装置を外し、撃ち返そうとした、その時――仁志が低く制した。「星、まずしっかり掴まれ」星は小さくうなずく。次の瞬間。仁志がアクセルを踏み抜いた。タイヤが白煙を噴き、車は弦を離れた矢のように一気に百八十度回転する。そしてそのまま、後方の車列へ真正面から突っ込んだ。衝突の刹那、凄まじい轟音と衝撃が炸裂する。同時に仁志が身を翻し、星に覆いかぶさるように庇った。天地が揺れるような爆音の中、星は激しい揺れに叩きつけられ、しばらく眩暈が収まらなかった。仁志が選んだ車の頑丈さは伊達ではない。四散こそしていないが、車体の前部は大きく潰れ、フロントガラスは粉々になっていた。「星、平気か?」すぐ傍で、仁志の声がする。「大丈夫……」星は首を振り、顔を上げて彼を見た。仁志の顔色はやや青い。だが、一見した限りでは目立った外傷はなさそうだった。彼はある番号に電話をかけ、短く指示を出すと、すぐに切った。そして星に向き直る。「星、奴らはすぐ追ってくる。ここから門まではそう遠くない。先に行け。雅人が迎えに来る」星が問う。「……あなたは?
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第1642話

仁志の腕の傷は、長く、深かった。止血が遅れれば、出血多量でショックを起こしてもおかしくない。それなのに彼は、この状態で敵を引きつけに行こうとしている。星の目元がじわりと赤くなった。「溝口仁志……命、いらないの?」星が彼を名指しで呼ぶことは滅多にない。それだけ今、本気で頭にきていた。星は仁志を支え、車から降ろした。彼も、こうして見つかった以上、彼女が離れないと悟ったのか、もう押し切ろうとはしなかった。二人が車を捨てて離れようとした、その時だった。仁志が冷えた眼差しで、少し先を睨みつける。星もそれを察し、同じ方向へ視線を向けた。案の定――また数台の車が、こちらへ追ってきている。仁志は負傷している。しかも車はもう動かない。追いつかれれば、二人とも助かる見込みは薄い。星は周囲を素早く見回した。彼らを止めようとしていた車が、近くで横倒しになって散らばっている。タンクから漏れた燃料が地面を流れ、細い川のようにうねっていた。迫ってくる車を一瞥し、星は腹を決める。拳銃の安全装置を外し、撃とうとした瞬間――隣の仁志が、その動きを止めた。彼は星の手から銃を受け取り、低く言う。「俺に任せろ」仁志は拳銃を掲げ、漏れている燃料タンクへ狙いを定めた。「――パンッ!」弾丸は寸分違わず、タンクを撃ち抜いた。「ドカーン――!」爆音とともに火柱が天へ噴き上がる。燃え上がる炎は数メートルに達し、地面に広がったガソリンも爆発の勢いで一気に燃え広がった。たちまち、進路を塞ぐ火の壁ができあがる。仁志の黒い瞳は、墨のように深かった。火の明かりに照らされるその眼差しには、薄い夕靄がかかったような陰りが宿り、整った顔立ちは明暗の中に沈んでいた。危機は、ひとまず遠のいた。星は仁志に簡単な止血処置を施す。そして、小さな声で言った。「仁志……私、自分で片づけられることは、自分でやるわ。何でもかんでも、あなたが背負わなくていいの」星が撃とうとしたのは二度。その二度とも、仁志は止めた。――たぶん、彼は彼女の手を血で汚したくないのだ。星はそう察していた。仁志も隠さず、静かに言う。「殺しはな。一度踏み込めば、もう戻れない。星……お前は、俺たちとは違う」星は首を振った。「全部、誰かに代わってもらうなら……
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第1643話

レイル国王は自ら現場の指揮を執ってはいなかったが、全市に指名手配を出していた。仁志の側も、星の側も、手勢は多くない。本来なら、逃げ切るのは至難の業だった。星も含め、全員がすでに――命を懸けてでも突破する覚悟を決めていた。ところが、その時だった。ヘリから見下ろしたD国の王宮に、黒い煙がもくもくと立ち上っているのが見えた。その光景に、雅人の目がぱっと明るくなる。「イーサン王子は生死不明、そのうえ王宮で火災……これなら、D国を問題なく出られます!」火の手は空へ突き上がり、王宮はかなり大規模な火事に見えた。こんな離れた場所からでも、星にはその凄まじさが伝わってくる。星は雅人を見た。「……この火、あなたたちが手配したの?」あまりにもタイミングがよすぎる。しかも火元はD国の王宮だ。そんな場所が、そう簡単に燃えるはずがない。雅人は首を振った。「違います。俺たちは到着してすぐ、星野さんを探しに来ました。今回、連れてきた人数も多くない。時間もなかった。仕込みなんてしてる余裕はありません。それに、D国の王宮は……誰でも簡単に潜り込めるような場所じゃない」事前に十分な準備さえあれば、彼らの人員でも潜入は不可能ではなかっただろう。だが問題は、その準備をする時間がなかったことだ。仁志は、星に異変が起きたと知った瞬間、真っ先に王宮へ向かったのだから。その言葉を聞き、星は考え込むような顔になる。――仁志でもないなら、いったい誰が?ノアであるはずもなかった。ノアの一族はレイル家と懇意だ。彼が彼女のために王宮へ火を放つとは思えない。そもそもノアの性格で、放火なんてできるはずがなかった。星には、背後で誰が手を貸したのか、まるで見当がつかない。ただ――殺人に放火。D国の国王が彼らを骨の髄まで憎むのは、もう間違いない。雅人の言う通りだった。王宮は炎上し、イーサンは治療の甲斐なく死亡。D国はいま、大混乱に陥っている。消火と王宮内の混乱の収拾で手一杯で、星や仁志たちを追う余裕などなかった。こうして一行は滞りなくプライベートジェットに乗り込み、M国へ向けて飛び立った。星の乗る機体が無事に離陸したのを確認してから、怜央は助手に命じた。「王宮の中に入れた連中を、先に撤収させろ」助手は額の冷や汗を拭う。
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第1644話

助手は、完全に固まってしまった。――これが、かつての怜央なのか?目的のためなら手段を選ばず、野心に燃えていた男が口にする言葉ではなかった。以前、明日香が「強い男が好き」と言った時。怜央は、どんな代償を払ってでも自分が最強になる、と言っていた。それなのに、ほんの短い間で――突然、「自分のやりたいことをやる」と言い出した。彼のやりたいことって、いったい何だ?毎日、星を見張って。星の後を追って。それがやりたいことなのか?助手が説得しようと口を開きかけた、その瞬間――怜央が命じた。「ハッカーを手配しろ。星が王宮にいた時の監視映像、抜き出して俺に回せ」助手「……」いつからだろう。自分の主が、どんどん普通じゃなくなっていく気がしてならない。毎日、星のことばかり。見るか、追うか。彼女の全てに、やたらと興味を示す。なのに、たまに星と顔を合わせても、歩み寄って謝るどころか、冷たい言葉で皮肉を投げつける。……正直、かなり病的だ。……雅人は、かなり優秀な助手だった。段取りはすべて完璧だった。一行がプライベートジェットに乗り込むと、専門の医師たちがすぐに仁志の傷を消毒し、包帯を巻いていく。星の張り詰めていた神経が、ようやく少しだけほどけた。医師たちに囲まれている仁志を遠目に見ながら、星は――自分が見落としていたことを思い出す。「雅人。どうしてD国に来たの?」雅人は、仁志がD国へ来た理由を知っていた。そして、上司のために隠すつもりもなかった。「仁志さんは、星野さんにサプライズをしに来たんです」仁志の方をちらりと確認してから、雅人は声を落として聞いた。「星野さん。驚きました?それとも……引きました?」星「……」あの時は状況が切迫しすぎていて、驚いたとも、怖かったとも言えない。ただ――信じられない、と思っただけだ。自分が厄介事に巻き込まれるたび、仁志が空から降ってきたみたいに現れる。そう思って星が振り返ると、仁志もまた、彼女を見ていた。なぜだろう。星の脳裏に、少し前に彼が言ったあの言葉が蘇る。――「星。俺を踏み台にしてでも、上まで登れ」……その頃、雲井家もレイル家の動きを注視していた。イーサン王子が助からなかったと知った瞬間、靖、翔、明日香の顔色は揃って険し
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第1645話

靖は言った。「俺たち雲井家の人間に対しては、あいつも多少は警戒している。もちろん、それは俺たちを恐れてるからじゃない。あいつは星を押し上げるつもりだからな。事をあまり大きくしすぎるわけにはいかないんだ。怜央や朝陽に使った手を、そのまま俺たちに使うこともできない。できるのは、機会を待つことか、あるいは俺たちがミスをするのを待つことだけだ」翔もすぐに察した。「靖兄、つまり今は軽率に動くなってことか?」靖はうなずく。「あいつは星を正当な存在にしたい。だから俺たちに対して露骨な真似はできない。だが、手を汚さなきゃ成立しない計画もある。逆に今、俺たちがあいつに手を出せば、少しでもミスをした瞬間に隙を突かれる。だから当面は静観だ。他の連中を先に動かせて様子を見る。たとえば鈴木航平とか……それから――」そこで靖は、明日香を見て、ゆっくりと二文字を口にした。「怜央だ」その名を聞いた瞬間、明日香の目がわずかに沈んだ。靖は続ける。「明日香、お前と優芽利の関係はもう昔とは違う。あいつは仁志に相当入れ込んでる。何か吹き込まれてる可能性もある。あいつの言葉を、全部鵜呑みにするな。だから何があっても、一度は怜央に会え。直接、態度を探るんだ。もし本当に星に惚れているなら――あいつを利用して仁志を叩くのも悪くない」明日香の赤い唇に、意味ありげな笑みが浮かんだ。「星の手腕、私たちの想像以上ね」靖と翔は、同時に黙り込んだ。もし怜央が本当に星に惚れているのだとしたら――それだけで、彼女の恐ろしさは十分すぎるほど分かる。靖は言った。「あとで怜央の居場所を調べさせる。分かったら、すぐ会いに行け」明日香は拒まなかった。彼女自身も知りたかったのだ。怜央が本当に、優芽利の言う通り心変わりしたのかどうかを。「……わかったわ」D国。王宮の火災が鎮火した後、レイル国王は息子の後始末を終え、ようやく真相の調査に乗り出した。ほどなくして、ウィンザー姫の落水にはたしかに大きな疑いがあることが判明する。だが、痕跡はあまりにもきれいに消されていて、有力な手がかりは何ひとつ見つからなかった。しかし、手がかりがないということ自体が、むしろ異常だった。その時、側近が報告に来た。「国王陛下、王宮内で逃げ遅れていた放火犯
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第1646話

M国の空港。明日香は、ここでもう三時間も待っていた。靖から、怜央の行方は聞かされていた。怜央もD国にいたのだ。彼らは当初、D国の王宮で起きたあの火事は、仁志の仕業だと思っていた。だが、調べて出てきた結果は、再び全員を沈黙させた。あの火を放ったのは、まさかの怜央だった。なぜ怜央が放火したのか。もし以前のままだったなら、雲井家の人間はきっと、怜央が恋敵であるイーサン王子を消そうとして、怒りのあまり王宮に火を放ったのだと考えただろう。だが今は――違う。星と仁志がイーサン王子を殺し、相手から追われていたその時、怜央はD国の王宮に火を放った。どう考えても、それは嫉妬ではなく、星を助けたようにしか見えなかった。明日香は、空港で何機もの飛行機が降り立ち、また飛び立っていくのを見つめながら、深く考え込んでいた。優芽利は言っていた。怜央は、星がsummerだと知って以来、彼女を異常なほど気にかけるようになり、もしかすると好きになっているかもしれない、と。だが前回、怜央が彼女に会った時、彼が口にしたのは、かつて集めていた絵を自分の手で処分したという話だった。二人の言葉――いったいどちらが本当で、どちらが嘘なのか。彼女が怜央と優芽利を知る限り、本来なら怜央のほうを信じるべきなのだろう。けれど、このところ怜央のしてきたことは、あまりにも不可解だった。だからこそ、優芽利の言葉を信じざるを得なくなっていた。怜央がM国へ戻ってくるのを待ち、直接確かめるしかない。レイル家のことを思い浮かべると、明日香の眉間には暗い影が差した。今回、彼らは周到に準備を重ね、レイル兄妹を一気に仕留めるつもりでいた。結果として、イーサン王子はそのまま死んだ。それだけでなく、レイル家まで敵に回すことになった。このところ彼女たちは何度も星に押さえ込まれ、今また重要な一手まで潰された。そのせいで、明日香の気分は最悪だった。これまで彼女は一度も星を眼中に置いていなかった。それなのに今や、星は彼女にとって最大の障害になっていた。どれほど時間が経った頃だろう。明日香の携帯が鳴った。翔の声が響く。「怜央の飛行機、もう着いた」明日香は、まとまらない思考を引き戻した。「わかったわ」電話を切ると、彼女は空港の出口へ向かい、怜央を待った。
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第1647話

怜央は振り返り、後ろにいた秘書へ言った。「明日香と話がある。スーツケースは家まで運んでおけ」つまり、秘書に運転させるつもりはないということだった。秘書は返事をし、明日香にも丁寧に挨拶してから、その場を離れた。今日の怜央は、手袋をしていなかった。明日香は、怜央の義手はもっと目立つものだと思っていた。どこか痛々しく、ひと目で分かるようなものだと。だが、こうして間近で見てみると、その人工皮膚は本物と見分けがつかないほど精巧だった。肌の色まで怜央本人のそれに自然になじんでいて、ほとんど違和感がない。彼自身も、もうこの義手に完全に慣れているのだろう。歩く姿まで、以前よりずっと自然に見えた。この半年の間にも、怜央の義手は絶えず改良されてきたに違いない。今の科学技術なら、こうした義手も本物とほとんど変わらない精度で作れる。完全に適応してしまえば、物をつかむことも、車を運転することさえ、ほとんど支障はないのだろう。それでも――どれほど本物そっくりに作られていても、偽物は偽物だった。怜央は空港を出て車を走らせながら、ようやく口を開いた。「それで、俺に何の話だ?」明日香はためらいもなく、優芽利を売った。「二日前、優芽利と会ったんです。そこで聞いたのだけれど……司馬さん、星のことを好きになったみたいだって。本当ですか?」怜央は薄い唇をきゅっと引き結び、長く沈黙したあと、ようやく一言だけ口にした。「お前に関係ないだろ?」否定はしなかった。怜央という男にとって、否定しないというのは、認めたも同然だった。心の準備はしていた。それでも、その落差はあまりにも大きすぎて、明日香はしばらく呆然としてしまった。本当に――星を好きになってしまったのだ。ただ、星が自分の評価していたsummerだったからなのだろうか。けれど彼は以前、summerはそこまで重要じゃないと言っていたはずだ。明日香は、その理由を知りたかった。だが、自分から誰かに本気の感情を向けたことのない彼女には、その答えがどうしても分からなかった。しばらくして、ようやく小さな声で言う。「星が本当に素敵な人なのは確かです。今はもう独身ですし、彼女を想っている人もたくさんいるでしょう。ただ……」彼女はそっとため息をついた。「星は司馬さんを深く
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第1648話

明日香がさらに何か言おうとした、その時だった。不意に後ろの車がぶつかってきて、車体が大きく揺れた。それと同時に、バックミラーが一発の銃弾で砕ける。鋭い破裂音が車内に響いた。明日香の顔色が変わる。「司馬さん、何が起きているんですか?」怜央は、後方のナンバープレートのない車を一瞥し、表情を冷たく沈めた。相手が善意で来たのでないことは、見れば明らかだった。彼は淡々と告げる。「しっかりつかまっていろ」弾丸が車体に当たり、乾いた金属音を立てる。幸い、怜央が運転しているこの車も特製の防弾車だった。ひとまず二人の安全は確保されている。それでも、こういう場面に慣れていない明日香の顔は、どうしても青ざめていた。だが彼女も名家の娘だ。顔色こそ悪かったが、完全に取り乱すことはない。怜央は追撃をかわしながら、同時に秘書へ電話をかけた。「襲撃を受けている。すぐに応援を寄こせ」だが、ほんの数秒気を取られただけで、後続車は一気に距離を詰めてきた。そのまま二人の車に向かって、激しく体当たりを繰り返す。車体はたちまち大きく揺さぶられた。左右へ傾き、まともに走るのも危ういほどだ。さらに数台が、挟み込むように突っ込んでくる。明日香は窓越しに相手の車内を見て、思わず声を上げた。「司馬さん、相手の車に乗ってるの、みんな外国人ですよ!」怜央の目が沈む。わざわざM国まで来て自分たちを襲う人間が誰なのか、彼はすでにおおよその見当をつけていた。低い声で言う。「たぶんレイル国王の手の者だ。だが、長くはもたないはずだ」ここはあくまで彼の勢力圏内だ。援軍も、そう遅くは来ない。明日香への愛情は、もうとっくに消えていた。それでも、自分のせいで彼女まで巻き込まれたことを思えば、怜央は口を開かずにはいられなかった。「長くてもあと十分だ。俺の部下が来る」相手もおそらく、長期戦が自分たちに不利だと理解していたのだろう。襲撃の火力は、さらに激しさを増していく。レイル側の人間も、もとは相手を殺すつもりまではなかった。だが、狙っている車が防弾仕様で、しかも短時間では確保できないと分かると、ついに手加減を捨てた。そのまま、ロケットランチャーまで持ち出してきたのだ。明日香だけでなく、怜央の顔色まで一変した。一度照準を合わ
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第1649話

「司馬さん。お父様と兄を呼んで、必ず応援に向かわせます」明日香はそう真剣に言い残すと、車のドアを開け、足早に立ち去っていった。怜央は、遠ざかっていく明日香の背中を見つめながら、なぜか少し呆然としていた。脳裏に浮かんだのは、星だった。もしここにいたのが星なら――彼女は絶対に離れたりしない。飛行機の中で、怜央は星と仁志が王宮から逃げ出す時の監視カメラ映像を見ていた。今の自分の状況は、あの時の仁志と星に、あまりにもよく似ている。それでも星は、仁志を置いて一人で逃げたりはしなかった。いや――星は最初から一度だって、仁志を見捨てたことなどなかった。その瞬間、怜央はふいに理解した。仁志にはもっと多くの選択肢があったはずなのに、それでもなお星だけをひたむきに想い続けた理由を。仁志は、自分が求めていた答えを手に入れたのだ。だが、彼は違う。彼には何もない。何ひとつ、ない。彼が得たものは、ほんのわずかな、滑稽な施しだけだった。怜央は車内にもたれたまま、明日香の後ろ姿が視界から少しずつ消えていくのを見つめていた。彼の傷は浅くなかった。脚はほとんど感覚を失っていて、自力で車から降りることすらできない。明日香がもう少し注意深く見ていれば、彼が負傷していることに気づけたはずだった。だが、彼女は気づかなかった。怜央は視線を引き戻し、頭上の空を見上げる。けれど、その胸には何の波も立たなかった。悪事を重ねれば、いずれ報いを受ける。だが彼は、その報いそのものを恐れたことは一度もない。むしろ、その報いがなければ、彼は今日まで生き延びることすらできなかった。因果応報。これまで幾人もの人間が彼の手で死んでいったように、いつか必ず、自分も同じように誰かの手で死ぬ日が来る。……怜央が目を覚ました時、自分が死んでいないことに気づいた。それどころか、彼は病院のベッドに横たわっていた。秘書は、彼が目を覚ましたのを見ると、ほっと息をついた。「よかった……司馬様、ようやくお目覚めになりました」怜央の傷はすでに手当てされ、包帯も巻かれていた。命に関わる傷ではなかったらしい。秘書は続けた。「すでに調べはついております。司馬様と明日香様を襲った者たちは、レイル国王が差し向けた人間です」ここはM国であり、しかも
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第1650話

秘書は言葉を失った。……また星を見に行くんですか。朝、目を開けば星。夜、目を閉じても星。いったいあの星の何が、そこまで人を惹きつけるのだろう。心の中ではそう思いながらも、秘書は車椅子を用意し、怜央を仁志の病室の前まで押していった。窓越しに、怜央は見た。星が、仁志に食事を食べさせている。星が仁志を見る眼差しには、はっきりとした痛ましさといたわりがにじんでいた。対する仁志の唇には、淡い笑みが浮かんでいる。その表情は、この上なく満たされているように見えた。食事を終えると、星はティッシュを一枚取り、気遣うように仁志の口元をそっと拭ってやる。二人の仕草に、露骨な甘さはない。けれど、誰の目にもわかるほど、二人の距離はまた一段と近づいていた。それどころか、前に仁志が怪我で入院した時よりも、さらに親密になっているようにさえ見えた。怜央の右手に力がこもる。鈍い痛みが、胸の奥からじわじわと広がっていった。彼は呆けたようにその光景を見つめながら、胸の奥に、名づけようのない渇望が湧き上がるのを感じていた。車椅子の肘掛けを強く握りしめる。全身の力を振り絞って、ようやく衝動を抑え込んでいた。病室へ飛び込み、仁志を放り出して、自分がその場所に取って代わる――そんな衝動を。怜央の目つきがどんどん危うくなっていくのを見て、秘書は思わず唾を飲み込んだ。小声で言う。「司馬様、もう戻りましょう。このままいたら、仁志に気づかれてしまいます」仁志も怪我をしているとはいえ、あの男の腕はあまりにも恐ろしい。今の怜央では太刀打ちできない。しかも怜央は、脚まで負傷していて自由に動けない。仁志がその気になれば、怜央を殺すことなど何の苦労もないだろう。怜央は黙ったまま、まるで秘書の言葉が耳に入っていないかのようだった。このままでは何か起きる――。そう直感した秘書は、返事を待つことなく、そのまま怜央を押してその場を離れた。怜央も、止めはしなかった。ただ、病室へ戻るまでの道のり、彼はずっと異様なほど無言だった。まぶたを伏せたままで、その瞳にどんな感情があるのか、誰にも分からない。病室に戻ってまもなく、明日香がやって来た。今回は、自分で作ったお粥と小鉢を持って、怜央の見舞いに来たのだ。「司馬さん、お加減はいかがですか?」
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