星は、自分が仁志に対してひどく申し訳ないことをしている気がしていた。まるで恋愛だけ楽しんで、責任は負わない身勝手な女みたいで。けれど――今の彼女にとって、結婚はあまりにも重すぎた。過去に負った傷を、仁志にまで背負わせるべきじゃない。そんなことは、彼女だって分かっている。それでも――同じ過ちを繰り返すのは、もう嫌だった。彼は、やはり特別な存在なのだ。こんなふうに焦りを隠せない仁志を見て、星の心はふっとやわらいだ。少し考えてから、彼を落ち着かせるように口を開く。「仁志、私たち、まだ付き合ってそんなに経ってないし……だから――」最後まで言い切る前に、唇を塞がれた。突然のキスだった。深く、絡みつくようで、どこか荒々しく、彼女ごと呑み込んでしまいそうな強さがあった。星はとても受け止めきれず、反射的に顔を背けようとする。けれど仁志は、彼女の後頭部を押さえ、逃がそうとはしなかった。身体はしっかりと抱き込まれ、身動きひとつ取れない。男の瞳は、濃い闇を湛えていた。底知れないほど深く、見る者の心を震わせるほどに。彼女の視線に気づいたのか、仁志はそっと目を閉じた。やがて星は力が抜け、彼の胸にもたれかかるしかなくなり、そのまま流されるように沈んでいった。キスが終わる頃には、二人とも呼吸が乱れていた。仁志の黒く澄んだ瞳は、まるで溶けない墨のように濃く、彼女を見つめる眼差しには、熱が宿っている。そこには、男が女に向ける欲望が、何ひとつ隠されずにあった。まるで次の瞬間にも、彼女を完全に奪い尽くしてしまいそうなほどに。その時になって、星は気づいた。これまでの仁志の視線が、どれほど抑え込まれていたのかを。けれど彼は、それ以上は何もせず、ただ彼女を抱きしめたまま、低くやさしく囁いた。「星……別れないでくれ。な?」そんな目で見つめられて、星の心臓は大きく跳ねた。思わず、うなずいてしまう。「……うん」仁志の表情が、少しだけやわらいだ。「これから俺が何か気に入らないことをしたら、遠慮なく言ってくれ。全部、直すから。だからもう……別れるなんて言わないでくれ。いいな?」あまりにもまっすぐな謝り方に、星は逆に、自分のほうがわがままなのではないかと思い始めた。彼女はまた、小さくうなずいた。
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