「だって観客はまだ後ろの演目を見ていないから、開幕の演奏さえミスなく、少しでも光るところがあれば、高得点を取りやすいのよ」「後になって、もし開幕と同じくらいの実力が出ても、得点で超えるのは難しいわ」果たして、彩香の言ったとおりになった。その後続けて五、六組が登場したが、誰一人として開幕の得点を超えられなかったのだ。舞台を眺めながら、彩香は首を傾げた。「ありゃ?今日って才芸コンテストよね?なんでみんな楽器ばかりなの?歌やダンスはないの?」歌やダンスだって才芸のひとつのはずだ。そのとき、ずっと舞台を見ていた影斗が、気だるげに口を開いた。「歌や踊りなんて、俺たちみたいな上流家庭にとっては見せられるものじゃない。子どものころから習うのは、琴・棋・書・画といったものだ」「将来役に立つとは限らないが、格は上がる」彩香は目を丸くし、「なるほど、そういうことだったのね」舞台では、実に多彩な楽器が披露されていた。ピアノ、古筝、オルガン、チェロ、ヴァイオリン。東西、古今、実によりどりみどりだ。ただ、その中のヴァイオリンを演奏したある親は、今日の舞台に強者がいることを知っていたのか、明らかに覇気を失っており、得点は八十点そこそこにとどまった。彩香は夢中で観覧していた。どれほど時間が経っただろうか。進行役の先生が歩み寄り、声をかける。「榊怜くんと保護者の方、そろそろ舞台裏の方までご準備をお願いします」「分かりました、ありがとうございます」星は怜の手を取って、舞台裏へと向かう。彩香は二人の背中に声援を送った。「星!容赦なんていらないわ。徹底的に叩きのめして!」星は穏やかに微笑んだ。「ええ」母の遺したネックレスを取り戻すためにも、決して手加減はしない。舞台裏の控えスペースには、数組の親子が待機していた。コンテストはすでに終盤に差しかかり、現時点での最高点は九十八点。星が入ってくると、周囲の視線が一斉に集まった。何人かの親はあからさまに顔を背け、目には軽蔑の色が浮かんでいた。少し前の騒動を、彼らはすべて目にしていたのだ。上流社会では見栄の張り合いが常で、持ち上げる相手と貶める相手を瞬時に見極める。星は正妻ではあるが、家柄も学歴もなく、最も見下
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