仁志は視線を外し、再び遠くへと目を向けた。その声は風に吹かれて少し軽く聞こえた。「いや、何でもない」星は不思議そうに彼を見つめた。心に柔らかな羽が触れたような、微かなくすぐったさを覚えた。彼が言いかけた言葉には続きがあるような気がしたが、何を言いたかったのかは全く見当もつかなかった。パラシュートはゆっくりと降下し、風が二人の体を優しく揺らす。まるで巨大な羽に乗っているかのようだった。星の心臓はまだ激しく波打っていたが、体の強張りはすでに解けていた。星は仁志の胸にすっぽりと収まり、彼の穏やかで力強い心音と、自分自身の乱れた心音がせわしなく重なり合うのを聞いていた。星は、どうして人々がエクストリームスポーツに魅了されるのか、ようやく理解できた気がした。着地する時、仁志は彼女を支えながら危なげなく着地を決めた。星の膝はすっかり力が抜けており、仁志は彼女を半ば抱きかかえるようにして安全なエリアまで連れて行った。インストラクターが笑いながら安全ベルトを外しにやって来た。「お嬢さん、なかなか度胸があるね。初めて飛んで泣かなかったのは大したものだよ」インストラクターは愛想よくベルトを回収すると、次のグループを案内するために背を向けて去っていった。星は全身の力が抜けきっており、まるで綿の上を歩いているようにおぼつかない足取りだった。仁志が彼女を支え、彼女がしっかりと立てるようになってから手を離した。星がふと言った。「少しは気分が良くなった?」仁志は首を巡らせ、星の視線と向き合った。彼の口元には、普段とは少し違う笑みが浮かんでいた。とても淡いが、ずっと血の通った温かみがあるように見えた。「ああ、ずっと良くなった」星は目を細めて笑った。「気に入ったなら、また今度来てもいいわよ」仁志は一瞬呆然とした。その瞳の奥で何かの感情が渦巻いたが、すぐさま静けさを取り戻した。「……分かった」星はスカイダイビングの余韻で多少なりとも足元がおぼつかなかったため、帰りの運転は仁志が代わった。星は助手席に座り、スマホを手に取った。彩香からメッセージが届いていた。【星、もう飛び終わった?生きてる?早く生きてる証明になる写真を送って!】星はこう返信した。【うん、生きてるわ】すぐに彩香から返ってきた。【どうだった?
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