All Chapters of 夫も息子もあの女を選ぶんだから、離婚する!: Chapter 2561 - Chapter 2570

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第2561話

「でっち上げておいて謝りもしないなんて、どんだけ性格悪いのよ」「そりゃ彼氏にも大勢の前で見捨てられるわ。あんなイケメンの彼氏を大事にもしないで、トラブルばかり起こして。自分がどれだけわがまま言っても、彼氏がずっと愛してくれるとでも思ってたのかしらね?ヒロイン気取りもいい加減にしてほしいわ」「写真撮ってSNSに晒しちゃおうよ。このかまってちゃんを有名人にしてあげよう」今や、野次馬たちの興味はすっかり清子と雅臣の修羅場へと移っていた。中には、野次馬根性丸出しで、逃げる清子の後を追いかけていく者までいた。騒ぎの中心が去り、人だかりはあっという間に散っていった。清子があんな騒ぎを起こしたせいで、星もすっかり温泉に浸かる気分ではなくなってしまった。彼女は視線を上げ、仁志の様子をちらりと窺った。仁志は先ほどの騒動など全く意に介していない様子で、温泉に浸かりながら気持ちよさそうに目を閉じていた。……結局、清子と雅臣が戻ってくることはなかった。星と仁志が温泉を出る頃には、すっかり日が落ちて、辺りは暗闇に包まれていた。宿への帰り道、仁志がふと尋ねた。「あの小林清子という女性は、どうして君を見るなり、親の仇のように目の敵にして陥れようとしてきたんだい?過去に何か因縁でもあったのか?」星は首を横に振った。「彼女は私と同じA音大出身らしいけど、接点なんてなかったし、顔を合わせたこともないわ。どうしてあそこまで私を敵視するのか、私にもよく分からないの」ふと、星は何かを思い出したように言い淀んだ。「もしかしたら……神谷さんが関係しているのかしら?私、前にレストランで彼と会った時、汚してしまったジャケットを弁償するためにLINEを交換したのよ。もしかして、そのやり取りを彼女に見られたんじゃないかしら?」仁志の足がピタリと止まった。夜の闇に紛れて彼の表情はよく見えなかったが、その声のトーンはどこか冷ややかだった。「君が彼とLINEを交換したって?」星は頷いた。「ええ、服の弁償をするためだけにね」仁志はそれ以上何も言わず、ただ黙々と前へ歩き始めた。しかし、彼が纏う空気は、先ほどよりも明らかに数度冷え込んだような気がした。星もなぜだか分からなかったが、思わず言い訳をするように付け加えた。「弁償したらすぐに削除するつもり
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第2562話

星の指先は画面の上で止まっていたが、2秒ほど迷った後、結局スマホの画面を消した。「やっぱり、返信するのやめておくわ」仁志はわずかに片眉を上げ、忠告するように言った。「でも、あの小林清子という女は君に敵意を抱いているからこそ、しつこく絡んでくるんだ。もし君たちが裏で連絡を取り合っていると知られでもしたら、次は何をしでかすか分かったもんじゃないよ」星は納得したように頷いた。「あなたの言う通りね。もし彼からメッセージが来たなんて彼女が知ったら、また狂ったように騒ぎ立てるかもしれないわ」星は少し考えてから、雅臣に1000万円を送金し、彼のアカウントのプロフィール画面を開いた。指先が一瞬止まったが、未練なく「削除」のボタンをタップした。確認のポップアップが表示されると、彼女はためらうことなく「確認」をタップした。「よし」彼女は仁志の目の前でスマホを軽く振って見せた。「これで削除完了よ」仁志の口角が、誰にも気づかれないほど微かに持ち上がった。……翌朝、星が荷物をまとめて自室を出ると、仁志はすでにリビングのソファに座って彼女を待っていた。カジュアルな黒のロングコートを身にまとい、長い脚を組んでうつむき加減でスマホをいじっていたが、彼女の足音に気づくと顔を上げた。「片付いたかい?」「ええ」星はスーツケースを引いて歩み寄った。「いつでも出られるわ」スキー、オーロラ観賞、そして温泉。様々な予定をこなし、彼らのN国での旅行もいよいよ終わりを迎えようとしていた。もし清子に出くわしてさえいなければ、この旅行は非の打ち所のない完璧なものだっただろう。二人がホテルのエントランスを出た途端、星はふと足を止めた。外にある噴水のそばに、すらりとした長身の男が立っていたのだ。雅臣だった。こんな所で彼に出くわすとは意外だったが、星はそれほど驚きはしなかった。以前もこのホテルのレストランで遭遇したことがあったからだ。星の姿に気づくと、雅臣の視線が微かに揺れ、真っ直ぐに彼女の方へと歩み寄ってきた。「星野さん」仁志の黒い瞳がスッと細められた。彼は数歩前に進み出ると、星の前に立ちはだかり、彼女をさりげなく背にかばった。「神谷さん、何かご用ですか?」雅臣は仁志を一瞥したが、すぐに視線を彼から外し、真っ直ぐに星へと向けた。
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第2563話

昨夜、彼女の顔には原因不明の発疹が大量に現れた。病院へ行くと、寒冷じんましんだと診断され、これから一週間は外出を控えるように言われてしまったのだ。清子は元々、この旅行を利用して雅臣との関係を修復するつもりだった……修復とは言っても、清子は既成事実を作り、肉体関係を持って雅臣に責任を取らせようと企んでいたのだ。しかし、N国に到着して早々、遊びに行く前に航平がトラブルに巻き込まれてしまった。航平の件がようやく片付いたと思ったら、今度は星に出くわしたのだ。昨晩は、温泉に入った後で雅臣と愛し合う計画だった。それがまさか、温泉で星と仁志に遭遇するとは思いもよらなかった。清子は、雅臣が星の美しさに惹かれてしまうのではないかと恐れ、先手を打って必死に星を貶めようとした。だがその結果、星の評判を落とすどころか、大勢の前で雅臣から無惨に別れを告げられる羽目になってしまったのだ。部屋に戻った後、清子はどうにかして雅臣を自分の部屋に誘い込もうと考えていた。媚薬のお香まで用意していたというのに、顔に突然おびただしい数の発疹ができてしまったのだ。こんな発疹だらけの顔では、雅臣がどう思うか以前に、自分自身でさえ気持ち悪くて直視できない。これでは誘惑どころの話ではなかった。病院で診察を受けたものの、医者は顔の発疹に薬は必要なく、一週間ほど冷たい風を避ければ自然に治まるだろうとしか言ってくれなかった。一週間も部屋から出られないなら、わざわざN国へ旅行に来た意味が全くないじゃないか!すべてはあの星野星のせいだ!もしあの女が空港で雅臣の気を引き、わざとコーヒーを彼にこぼしたりしなければ、雅臣と別れることになんてならなかったはずだ。今や、清子はすべての不運と過ちを星のせいにしていた。遠ざかっていく星の乗った車を窓から見下ろし、清子は奥歯をギリリと鳴らした。「星野、ただで済むと思わないことね!」……星と仁志がN国からS市へ飛行機で戻ると、空港には彩香が迎えに来ていた。二人を出迎えた彩香は、二人の間に何か進展がなかったかと期待しながら、意味ありげな視線で彼らをじろじろと観察した。確かに二人の纏う雰囲気は以前より微妙に変化しているように見えたが、見る人が見れば、二人がまだ一線を越えていないことは一目瞭然だった。彩香
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第2564話

星と彩香は同時に仁志を見た。「何がおかしいの?」彩香が不安そうに尋ねた。仁志は表情を変えずに、静かに周囲を見回した。「暗がりから、誰かが僕たちを見張っている」星と彩香は顔を見合わせた。「私を狙っているのかもしれないわ」星は声を落とした。雲井家の令嬢である以上、身代金目当ての連中に拉致される可能性はある。とはいえ、星は幼い頃から比較的安全な環境で育ってきた。拉致のような事件に巻き込まれたことは、これまでほとんどなかった。上には三人の兄がいるし、星自身はまだ雲井グループで働いているわけでもなく、気ままに暮らす令嬢にすぎない。彼女の兄たちの方が、狙う価値ははるかに高いはずだった。それなのに、最近になって星を拉致しようとする事件が、なぜか立て続けに起きている。誰が自分を狙っているのか、星にはさっぱり見当がつかなかった。彩香はたまらず周囲を見回した。「警察に連絡した方がいいんじゃない?」「まず車に乗ろう」仁志は淡々と言った。星と彩香は急いで車に駆け寄り、星が運転席に回ろうとしたところで仁志に止められた。「僕が運転する」後部座席に滑り込んだ彩香が身を乗り出した。「仁志、星に運転させてあげてよ。彼女は昔レーシングカーに乗っていたから、追っ手くらい簡単に振り切れるわ」「いや、僕に任せてくれ」仁志は譲らなかった。星は仁志を見た。以前、ブレーキが利かなくなった時も、彼は冷静沈着に対処し、最後には彼女を救い出してくれた。今は記憶を失っていても、体に染みついた本能までは消えていないはずだ。星はためらわず助手席に乗り込んだ。何も尋ねずに仁志へ任せた星を見て、彩香は驚いたように目を見開いた。仁志も思わず星を一瞥した。車は矢のように、夜道を猛然と走り出した。しばらく進むと、数台の車が前方を塞ぎ、こちらを止めようとしてきた。相手は最初から待ち伏せを仕掛けていたのだ。それでも仁志は速度を落とさなかった。「きゃあっ、ぶつかる!」彩香が悲鳴を上げた。言い終わるが早いか、ドンッという衝撃と共に車体が激しく揺さぶられた。彩香はあまりの衝撃に目が回りそうになった。仁志は前に立ちはだかった車の一台に真正面から突っ込み、強引に弾き飛ばしていたのだ。その隙間を抜けた瞬間、今度は後方から数台の車が迫り、左右から包囲
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第2565話

スピードメーターの針が一気に跳ね上がる。彩香は鼓膜を劈くような悲鳴を上げた。このままの速度で突っ込めば、ガードレールを突き破って川の藻屑となってしまう。車のノーズがガードレールに激突するほんの寸前、仁志は力強くサイドブレーキを引き上げ、同時にステアリングをカーブの内側へと限界まで切り込んだ。「キィィィィッ!」タイヤがアスファルトを激しく削り取る鋭いスキール音を響かせ、車体は物理の法則を嘲笑うかのような角度で横滑りしながら、ギリギリでカーブを駆け抜けた。真後ろに迫っていた追跡車は、まさかターゲットがこんな神業のような曲がり方をするとは予測していなかったのだろう。慌ててフルブレーキを踏んだが、すでに遅かった。激しい衝突音と共に、先頭の追跡車がガードレールに真正面から突っ込み、ボンネットから黒い煙が立ち上った。星は激しい遠心力でドアに体を押し付けられながらも、窓越しにクラッシュした追跡車が後方へ遠ざかっていくのを冷静な目で見つめていた。仁志は一切スピードを緩めることなく、前方の出口から高架を下り、一般道の車の流れへスムーズに合流した。わざと交通量の多い幹線道路を選び、速度を法定速度に戻す。彼らの車は、たちまち夜の闇の中へ静かに溶け込んだ。後部座席でアシストグリップに必死にしがみついていた彩香が、ようやく手を離した。しかし、その声はまだガタガタと震えていた。「……ふ、振り切れたの?」星はサイドミラーをしばらく見つめ、背後に不審な追跡車がいないことを慎重に確かめてから、ふうと短く息を吐いた。「……ええ、今のところはね」仁志は何も答えず、街灯の光が届かない暗く細い路地へ車を滑り込ませて停車した。ヘッドライトは消したが、いつでも逃げられるようエンジンはかけたままだ。彼はハンドルに長い指を置いたまま、鋭い視線でルームミラーとサイドミラーの隅々まで確認し、周囲の警戒を続けている。彩香は暗闇に停まった車内で戸惑い、急かすように言った。「仁志、こんな所で停まってないで早く行こうよ。もしあいつらがまた追いついてきたら……!」仁志は背後の彩香ではなく、横に座る星へ顔を向けた。「……ふと、不自然に思ったんだ。君たち二人がこの車に乗ってから、奴らに完全に包囲されるまで、五分もかかっていない」星が、その言葉の意味を察してハッと息を呑んだ。
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第2566話

星は本当は航平を巻き込みたくはなかった。だが、全員の安全を最優先に考え、小さく頷いた。航平が今S市にいなかったとしても、誰かを手配して迎えによこすくらいはできるはずだ。仁志は二人を見つめ、何か言いかけたが、結局何も言わずに口を閉ざした。彩香が急いで航平へ電話をかける。しかし、受話口から流れてきたのは、電波の届かない場所にいるか電源が入っていないという無機質なアナウンスだった。「嘘でしょ……航平、どうしてこんな時に電源切ってるのよ」彩香は呆然とスマホを見つめた。星も自分のスマホからかけてみたが、結果は同じだった。理由は分からないが、今は彼を当てにできない。彩香が泣きそうな顔で尋ねた。「これからどうする?」星は冷静に状況を整理した。「相手の正体も目的もまだ分からない以上、S市に留まるのは危険すぎるわ。まずはM国へ戻りましょう」そう言って、星は仁志を見た。「仁志、あなたはどう思う?」仁志は静かに頷いた。「ああ。空港なら人目も多いし、相手も下手な真似はできないだろう。今はそれが最善だ」……その頃、勇は部下からの報告を聞くなり、激昂して怒鳴り声を上げていた。「本当に使えねえな!あの女の車に発信機まで仕込んでおきながら、どうして逃がした!?」部下は震え上がりながら答えた。「山田社長、発信機はとっくに気づかれていたようでして、その……」勇が冷酷な声で遮った。「任せた仕事もまともにできねえうえに、言い訳すらできなくなったのか?」部下は冷や汗を流しながら言葉を絞り出した。「中村彩香の車に仕掛けた発信機ですが、野良犬の体にくくりつけられていまして……我々は発信源を追ってかなり走り回った末に、ようやくだまされたと気づきました」部下の声は次第に小さくなっていった。発信機の示す場所へたどり着いた時、そこでは何匹もの野良犬が餌を奪い合っていた。追跡チームの面々は目を疑い、何度もレーダーの反応を確認した。最初は装置の故障を疑ったほどだ。やがて、一匹の犬の体で赤いランプが点滅しているのを見つけ、ようやく真相を悟ったのだ。しかし、時すでに遅し。彼らは二時間以上も野良犬を追いかけ回し、完全に相手に手玉に取られていたのである。あからさまな挑発だ。だからこそ、部下は勇へ報告するのを極度に恐れていたのだ。勇は数秒間ワナワナと固ま
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第2567話

ここはS市であり、いくら雲井家でもそう簡単には手が届かないはずだ。勇は星の身辺を調べ上げ、彼女の友人である彩香がS市にいることを突き止めていた。そして、彩香が空港へ迎えに出ている隙を狙い、彼女の車に発信機を仕掛けさせたのだ。これなら、星と彩香の動向を確実に把握できるはずだった。それがまさか、発信機を見破られただけでなく、野良犬の体にくくりつけられていたとは。これ以上ない屈辱だった。清子に大見得を切った直後に、いいように手玉に取られたのだ。もし彼女に知られでもしたら、完全な笑いものだ。絶対に、このままでは済まさない。……飛行機の客席で、彩香は仁志に向かって親指を立て、声を殺してくすくすと笑った。「あなたって本当に頭の回転が速いのね。追ってきた連中、発信機が野良犬についてるって知った時は、きっと今頃、泡を食って発狂してるでしょうね」事態があまりに急だったため、彩香は荷物をまとめる間もなく、取れる中で一番早い便を予約して星と共にS市を離れたのだ。暗い路地裏で発信機を見つけた時、彩香はすぐにそれをその場に叩き割ろうとした。しかし、仁志が止めた。「ここで捨てれば、相手はすぐに見失ったと気づく。そうなれば、さらに人数を割いて血眼で探してくるかもしれない。今は相手の注意を引きつけ、僕らから遠ざけるための時間が必要なんだ」彩香は眉をひそめた。「だからって、無関係な人に付けるわけにもいかないわ。危険に巻き込むし、すぐに見つかっちゃうでしょう。じゃあどうする? 私が囮になって車を走らせる?」「あなたの運転技術じゃ、十分もしないうちに捕まるわ」星は首を振った。「狙われているのは私よ。囮になるなら、私がやるべきだわ」その時、仁志がふいに口を開いた。「人間に付ける必要はない。人間は体が大きいぶん、どうしても見つかりやすいからね」「それって……」星が彼を見る。仁志は少し離れた場所でごみをあさっている野良犬に視線を向け、口元をわずかに吊り上げた。「動物に付けた方が、人間よりもずっと手っ取り早いと思わないか?」彩香の目がパァッと輝いた。「仁志、あなた天才ね!」本当なら、身軽で壁や木にも登れる野良猫にくくりつけるのが一番だ。しかし時間がなく、手頃な猫を探している暇はなかった。そのため仁志は野良犬に付け、追っ手が必死で探し当てた時
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第2568話

星がスマホの画面を見ると、ディスプレイには航平の名前が表示されていた。S市で連絡がつかなかった翌日、星はもう一度航平へ電話をかけ、追ってきた連中の正体を調べてもらおうとしていた。しかし、彼のスマホは相変わらず電源が切れたままだった。何か急用で手が離せないのだろうと考え、星はそれ以上邪魔をするのはやめていたのだ。星は電話に出た。「航平?用事はもう片付いたの?」しかし、返ってきたのは航平ではなく、彼の助手である田村晃成(たむら こうせい)の声だった。「星野さん、鈴木社長の助手をしております田村晃成です……実は、社長が少しトラブルに巻き込まれまして、できましたらお見舞いに来ていただけないでしょうか」星は眉を寄せた。「航平に何かあったの?」晃成は少し言葉を濁してから答えた。「鈴木社長はN国で襲撃を受け、おけがをされました。現在は病院で療養中です」星は思わず眉をひそめた。「航平、N国に行ってたの?いつ?」「つい先日のことです。飛行機を降りた直後、空港の保安担当者に連行されまして……。どうにか釈放されたものの、警察署を出て間もなく強盗に襲われ、金品を奪われたうえに気絶させられ、N国のスラム街へ放り出されたのです……」晃成は一度息をのみ、震える声で続けた。「そこで社長は……非人道的なひどい仕打ちを受けたそうです」星の顔色が変わった。すぐに尋ねる。「航平は今、どこの病院にいるの?」晃成から病院の住所を聞き出すと、星は言った。「すぐに行くわ」星は電話を切ると、すぐに指定された病院へと向かった。病室へ入ると、航平はすでに目を覚ましていて、晃成と何やら話をしているところだった。星の姿に気づいた航平は一瞬固まり、すぐに晃成へ鋭く冷たい視線を向けた。「君が星に連絡したのか?」晃成は気まずそうに目をそらした。「鈴木社長、このM国には社長が頼れるような親しいご友人がおりませんので、私が星野さんにご連絡させていただいたのです」航平は怒りに顔をゆがめた。「誰が勝手な真似をしていいと言った!?」今回ばかりは、本当に星にだけは来てほしくなかったのだ。スラム街で長い間過ごしていたせいで、彼の体はひと回り痩せ細り、目も深くくぼんでいる。髪は脂で固まり、無精ひげが伸び放題で、唇はひどくひび割れていた。まともに体も洗えなかったせいで、鼻を突
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第2569話

そう言うと、航平はこらえきれずに拳を強く握りしめた。もしあの時、雅臣がN国にいなければ、あの地獄のような場所から抜け出すのにどれほどの時間がかかったか分からない。航平の口から不意に雅臣の名が出たことに、星は微かに驚いた。彼女が何かを尋ねようとしたその時、病室の扉が押し開けられた。担当医のもとへ行っていた雅臣が戻ってきたのだ。星の姿を見た雅臣も、まさかここで彼女に会うとは思わなかったのか、ぴたりと足を止めた。「君……どうしてここに?」彩香から雅臣と清子の噂を聞いていた星は、彼の姿を見てもさほど驚きはしなかった。「航平のお見舞いに来たの」航平は二人を交互に見比べた。「星、雅臣と知り合いだったのか?」雅臣にあまり良い印象を持っていない星は、淡々と答えた。「N国で、神谷さんとその恋人の方に偶然お会いしただけよ」雅臣は星を見つめ、何か言いかけた。だが、航平の前では口に出しづらい事情があるのか、結局は口をつぐんで黙り込んだ。雅臣が現れてからというもの、病室の空気はすっかり冷え込んでいた。その時、星のスマホが鳴った。仁志を担当している医師からの着信だった。「星野さん、こちらの準備は整いました。いつ頃お越しになれますか?」星はそこでようやく、少し前に彼から治療の予定を確認するメッセージが来ていたことを思い出した。「ごめんなさい、急な用事が入ってしまっていて。すぐに向かいます」通話を終えた星は航平を見た。「航平、今日はこれから仁志の治療があるから、私はもう行くわね。ゆっくり休んで。明日また、彩香と一緒に来るから」「仁志」の名を聞いた瞬間、航平の瞳がわずかに暗く沈んだ。「分かった……早く行って」その低い声からは、一切の感情が抜け落ちていた。「航平、それじゃあね」星はそう声をかけ、雅臣にも軽く会釈をして病室を後にした。星の後ろ姿を見送りながら、航平の胸に激しい怒りがこみ上げた。またあいつだ。星にこんな無様な姿を見せたくなかったのは私自身の都合だが、せっかく見舞いに来てくれた彼女が、よりによってあいつのために帰ってしまうのは全く別の話だ。あの男は、いつも私の手から一番いいところばかりをかっさらっていく。吐き気がするほど忌まわしい。このけがが治ったら、あの顔だけが取り柄のあのヒモ男を、必ず星のそば
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第2570話

仁志は気だるげに尋ねた。「自分に少しでも関係することなら、すべて自分が責任を負わなきゃ気が済まないタチなのかな?」星はその言葉の裏にあるものを察した。「そういうわけじゃないわ。ただ、航平とは付き合いも長いし、これまで何度も助けてもらった恩があるから。彼が困っている時に、知らないふりなんてできないでしょう」「つまり、鈴木さんは君にとって特別な存在ってわけだ」「……」確かに、星にとって航平が特別な存在なのは事実だった。付き合いも長く、何度も助けられた相手を、単なる知人と同じようには扱えない。けれど、その感情をどう説明すればいいのか、星にはうまく言葉が見つからなかった。今日の仁志は、いつもよりどこか強引だった。星が返事に窮していると、室内の空気ばかりが奇妙に重苦しくなっていく。見かねた医師が慌てて口を挟んだ。「ええと……星野さんもいらっしゃったことですし、そろそろ始めましょうか」仁志は星から視線を外した。「ああ」星は知らず知らずのうちに張りつめていた神経を、ようやく少しだけ緩めた。……仁志が目を覚ました時、窓の外はすでに暗くなっていた。物音一つしない部屋の中で、窓辺のスタンドライトだけが淡い光を放っている。長いまつげを震わせて目を開けた仁志は、視線を巡らせて、案の定、星の姿を見つけた。星は目を閉じ、机に突っ伏して眠っていた。治療が終わると、仁志はいつも深い眠りに落ちる。短くて三十分、長い時は二時間ほどだ。目を覚ます頃には医師はすでに帰っているのに、星だけはいつもそこに残っていた。たとえ公演を終えたばかりで疲れ切っている時でも、星は必ず治療に付き添い、彼が目覚めるまでここで待ってくれていたのだ。以前、仁志はどうして帰らないのかと星に尋ねたことがあった。星はこう答えた。「あなたはただ眠っているんじゃなくて、治療を受けているのよ。目を覚ました時、伽藍の部屋が薄暗くて、きっと心細いと思うの。それに、もし誰もそばにいなかったら、治療のあとに激しい頭痛で倒れても誰にも気づいてもらえないでしょう? あなたの状態は少し特殊だから、誰でもいいから残しておけばいいってわけにもいかないし。あなたも先生も、私の予定に合わせてくれて、遅い時間まで待たせてしまうこともある。それなのに、治療で疲れている先生に、私の代わりに見守
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