All Chapters of 夫も息子もあの女を選ぶんだから、離婚する!: Chapter 311 - Chapter 320

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第311話

そんな星の表情は、勇と清子が望んでいたものではなかった。勇が眉をひそめる。「星、お前......何を笑ってる?」星の声は軽やかに響いた。「あなたが馬鹿だからよ」清子はくすりと笑う。「星野さん、私たちの前で気丈に振る舞いたい気持ちはわかる。けれど、ここまで落ちぶれたのなら、素直に頭を下げても恥じゃないわ」彼女の視線は星の首元に光るネックレスへ。「もしそのネックレスを返してくれるなら......それと夏の夜の星も譲ってくれるなら、雅臣も、あなたの営業秘密漏洩を大目に見てくれるかもしれない」星が今身につけているのは、深青ではなく、母から受け継いだネックレスだった。清子はその価値をさほど認めてはいない。それでも――欲しいと思った物は、必ず自分の物にしなければ気が済まなかった。ネックレスも、夏の夜の星も、そして雅臣も。星は再び笑みを浮かべる。「小林さん、あなたは賢い人だと思っていたけれど、案外そうでもなかったのね。私がとっくに雅臣に離婚を切り出したことを、知らないわけじゃないでしょう?」「でも、あなたは信じなかった。私が駆け引きをしていると決めつけ、わざわざ何度も妨害してきた」「正直に言うとね、あなたが邪魔しなければ、私はとっくに身一つで離婚していたはずよ。でも今は違う。あなたのおかげで、逆に大金を手にできたの」そこで言葉を切り、真っすぐ清子を見据える。「小林さん、本当にありがたいわ。あなたがいなければ、私にはオークションに参加する資金なんてなかったもの」「深青が欲しかったんでしょう?でも私が手にできたのは、あなたのおかげよ」清子の目は血走り、怒りに染まる。「待ってなさい。その二百億、あなたが手に入れたのと同じように必ず全額取り返してみせるわ!」星は穏やかな笑みで応じた。「そう。なら楽しみにしているわ」そう言い残し、彼女は背を向けて去っていく。その言葉は、心臓を突き刺す毒のように清子を打ちのめした。歯を食いしばりながら、星の後ろ姿を睨む。――好きにさせておけ。どうせすぐに笑えなくなる。星と弁護士が警察署を出ると、どこからともなく集まってきた記者たちが一斉に彼女を取り囲んだ。「星野さん、先日ネットで急に注目を浴びたあと、すぐ
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第312話

雅臣は、星を陥れるような策謀に加担することを軽蔑していた。ただ一つ、彼が手を下したのは星の二百億の資産を凍結させたこと。それも、凍結するだけで回収しようとはしていない。長年の兄弟分である勇には分かっていた。雅臣が大らかで金を軽んじているからではない。――彼は星を引き戻すための駆け引きをしているのだ。今回の離婚も、雅臣にとっては大事ではなかった。本気になれば、いくらでも離婚を引き延ばし、彼女を自由にできた。だがそうはせず、星に思う存分騒がせている。それは彼女に「現実を見せる」ため。自分の庇護を失えば、生きることすら困難だと知れば、いずれ自ら戻ってくる。そうなれば、二度と逆らう気も失せるだろう。だから勇の振る舞いを、雅臣は止めようとはしなかった。勇が視線を向けると、背の高い人影がゆっくりと近づいてくる。「雅臣が来た!」清子は人だかりに囲まれる星を一目見てから、雅臣の姿を見やり、不安げに囁いた。「勇......雅臣、星が責められているのを見て怒らないかしら?」「まさか」勇は気にも留めない様子で笑う。「むしろ喜ぶさ。俺たちが雅臣に彼女が助けを乞う場を整えてやったんだ。でも......」言葉の先を、清子が引き取る。「でも、星の性格じゃ、雅臣に頭を下げるとは思えないわね」勇は頷く。「そうだ。あいつが強情を張れば張るほど、雅臣との溝は埋まらなくなる。その時になれば、俺たちも遠慮せず動ける」今の勇は、まだ手を汚し切る度胸はなかった。下品なスキャンダルを捏造すれば、星は一瞬で社会的に死ぬ。だが、そこまでやれば雅臣の顔にも泥を塗ることになる。「えっ、神谷雅臣?なぜここに?」「まさか......あの女の言っていたことは本当?」記者のひとりが顔色を変える。つい先ほどまで、彼らは星を問い詰めていた。「あなたは神谷夫人を名乗って詐称したせいで警察に呼ばれたのか」と。だが星の返答はこうだった。「当時はまだ離婚していません。私は正真正銘の神谷夫人でした」彼女は黙って誤解を放置するような真似はしない。今となっては離婚している。その事実を公表しても、雅臣にも神谷家にも大した影響はない。記者たちは愕然とした。情報では「偽って神谷夫
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第313話

雅臣のそばに記者たちが殺到し、待ちきれない様子で問いかけた。「神谷さん、さきほど星野さんは自分はあなたの妻だとおっしゃいました。ご存じなのですか?」雅臣は星に一瞥を送り、薄い唇から冷ややかに四文字を吐き出した。「知らない」記者たちは一瞬呆気にとられ、すぐにどっと笑い声を上げた。星を見やる目は、もはや笑いものにする視線にしかならない。「彼女、あんなに堂々と妻だなんて言っていたから、本当に信じかけたよ」「嘘つきも大概にしろよ。警察署の前で平気ででたらめを言うなんて。バレたらどうするつもりだ?」「どうせ神谷夫人の肩書きが欲しいんだろ?炎上狙いかもしれないぞ」「悪評だろうと話題になれば得ってことか。必死すぎるな。あの神谷さんまで利用するなんて」「アカウント凍結されたのも当然だ。恥知らずすぎる」刺すような視線が一斉に星へと突き刺さる。ある記者がにやつきながら問いかけた。「星野さん、神谷さんは知らないとおっしゃいました。何か弁解は?」星は淡々と答えた。「私も彼とはあまり親しくないわ」「はあ?さっきまで神谷雅臣の妻って言ってたじゃないか。手のひら返すの早すぎない?」星は記者をまっすぐ見据える。「私が言ったのは当時のことよ。今は離婚して、赤の他人。親しくする必要はないでしょう」「ハハハ!」記者たちは一斉に笑い出した。彼女の言葉を信じる者は一人もいない。――人気取りに狂った女。――男に執着して正気を失った女。そうとしか思われていなかった。一方で勇は、スマホを星に向け、ライブ配信を続けていた。ここ数日、彼の仕組んだ情報操作によって、ネットは星への誹謗中傷で溢れ返っていた。彼女を擁護する投稿はすべて消され、雅臣との関係を示す記事は、誰の指示もなく自然と削除されていった。今や勇の配信には、彼女を罵倒するコメントばかりが流れる。中には、かつての交通事故の件を蒸し返す者まで現れた。その後の真相など知りもしないふりをして、古傷を掘り返して嘲るのだ。星は群衆の笑い声に囲まれ、悟っていた。――この場で何を言っても無駄。弁明すればするほど泥を塗られるだけ。彼女は眉をひそめ、これ以上相手にする気をなくしていた。だが、そ
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第314話

星はゆっくりと手を上げ、雅臣の方へ向かって中指を立てた。雅臣の黒い瞳が、すっと冷たく沈む。――ここまで窮地に追い込まれても、なお自分に頭を下げる気はないのか。実に結構。その強情、どこまで貫けるか見届けてやろう。記者たちの甲高い質問が耳元で飛び交い、言葉はもはや雑音にしか聞こえなかった。だが星の顔は不自然なほど冷静で、微塵も取り乱さない。その姿が逆に記者たちを苛立たせる。彼らは相手が慌てふためき、追い詰められて崩れる瞬間を好むのだから。勇は興奮に打ち震えていた。ついに星が恥をかく場面を配信できたのだ。ところがその時、彼のもう一台の携帯が鳴った。勇は配信中のスマホを清子に渡す。「清子、ちょっと持ってろ。電話に出る」清子は星への罵声コメントを眺めるのが楽しくて仕方ない。「ええ、いいわ」勇は人目を避けて通話に出た。「どうした?」「山田社長、大変です!あの星野星という女、また急上昇に上がりました!」勇は鼻で笑った。「何だ、そのことか。このところ毎日のように上がってるじゃないか。別に驚くことじゃない」「ですが今回は違います、今回は――」「もういい」勇は遮った。「どうせ俺が仕組んだ件だ。分かっててやってるんだよ」相手は絶句した。「この急上昇、山田社長が仕掛けたんですか?なぜ早く仰らないんです?」「早かろうが遅かろうが関係ないだろう。まだ何かあるのか?ないなら切るぞ」「お待ちください!こちらで連携は必要ですか?」「バカか。連携しなきゃ仕事にならんだろ。クビになりたいのか?」「......承知しました」勇は苛立ち紛れに通話を切り、再び星の醜態を見物しようとした。だが目にしたのは、別の記者の群れが押し寄せ、先にいた記者たちを押しのけ、星のもとへ雪崩れ込む光景だった。清子が戸惑い、小声で問う。「勇、この人たちも呼んだの?」勇は呆然とする。「いや、俺はさっきの奴らしか呼んでない......誰かが勝手に呼んだのか?」二人が理解する暇もなく、新たな記者たちは星を取り囲み、興奮に顔を紅潮させて声を張り上げた。「星野さん、本日博物館が、あなたが寄贈した百二十億相当のオークション品リストを公表しました!」
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第315話

「皆さん、今日の急上昇をご覧になったでしょう!そうです、この星野星さんこそ、百二十億相当の品と八十億の寄付金を寄付した匿名の大口寄付者なのです!」「彼女が博物館に寄贈した品には、なんと国外に流出していた古美術品も含まれていました!」「その義挙、本当に胸を打たれます!」「皆さんもきっと、この寄付者の素顔が気になっていたはず。では、早速ご覧いただきましょう!」カメラはぐるりと動き、記者たちに囲まれた星を映し出す。「ご覧ください、寄付者はこんなにも若く、美しい女性でした!」同時にスマホで配信を見ながら、家のテレビ画面を横目にしていた視聴者たちは驚愕する。「え、ちょっと待って。配信の女の人、テレビに映ってる人と同じじゃない?」「いや、完全に同一人物だろ!」「どういうことだよ。あの女、神谷雅臣の妻を騙ってた詐欺女じゃなかったのか?なんで二百億の寄付者になってんだ?」「二百億!聞き間違いじゃないよな。そんな大金、どうして......」「まさかまた仕込みの売名じゃないだろうな?」「売名って何を言ってるんだ!これはS市の早間ニュースチャンネルだぞ。公式放送がでたらめを流すか?」勇の配信コメント欄は一気に炎上。弾幕が滝のように流れ、文字を読み取ることすらできない。もともと星を囲んでいた記者たちも耳を疑った。「おい、ちょっと待て。この女はスキャンダルまみれだぞ?神谷雅臣の妻を騙ったり、ネットで売名したり、犯罪者の疑いまである。お前ら、取材対象を間違えてないか?」すると、マイクを握った記者の一人が冷ややかに睨む。「君たちみたいにスキャンダルばかり掘って記事を捏造する三流とは違う。我々は事実だけを扱う」その言葉に、先ほどの記者ははっとして、彼らのマイクに刻まれたロゴを見やる。次の瞬間、顔色が真っ青になった。――全員、正規のテレビ局の記者、それも国内NO.1チャンネルの記者まで混じっている!芸能ゴシップ記者たちは互いに顔を見合わせ、愕然とする。「これは......どういうことだ。スキャンダルのはずが......なぜ大慈善家に化けている?」呆然としたまま、彼らはただ見ているしかなかった。一方の国営メディアの記者たちは、まるで宝を見つけたかの
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第316話

本来なら星の醜態を笑えると思っていた勇も、思わず口をぽかんと開けた。「はぁ!どういうことだよ。なんで国営メディアの記者どもが、あの女にこんなに愛想よくしてるんだ?薬でも盛られたのか?」清子の顔に浮かんでいた笑みも、一瞬にして凍りついた。目の前の光景に呆然とし、何が起こっているのか理解できない。フラッシュがひっきりなしに光り、記者たちの態度は熱を帯びる。質問は次々と飛ぶが、ほとんどが称賛ばかりだった。――「星野星さんの義挙は立派だ」「美しくて心優しい」その様子を見ていた芸能記者の一人が、思わず口を挟んだ。「おいおい、この女はスキャンダルだらけだぞ。騙されるな!」国営メディアの記者は冷ややかに返す。「そのスキャンダルとやらは、あんたたちのような連中がでっちあげたものだろう。私は今日は寄付者の取材に来ている。くだらないネタ探しに来たわけじゃない」「それに、ここは生中継中だ。いい加減なことを言って世間に悪影響を与えれば、あんた自身が法的責任を負うことになる」空気が一気に張り詰め、芸能記者たちは慌ててスマホを開いた。彼らのもとに届いていた情報では――星野星はすでにネット全面封鎖されている。つまり、上から許可が出ない限り、彼女に関する記事は発表できない。逆に、スキャンダルは拡散が黙認されていた。だから星には、弁明の機会すら与えられなかった。アカウントが封鎖され、声を発する手段を失ったのだ。芸能記者たちにとっては日常茶飯事だった。――資本に逆らった者の末路はこうなる。今回も上からの指示は「星野星のスキャンダルを掘れ」見つからなければ捏造してでも構わない、と。だから彼らは当然のように「星野星の良いニュースなど絶対に表に出ない」と信じ込んでいた。だが現実は違った。トレンドのトップ十件のうち、六件が彼女の寄付に関する記事で埋まっていたのだ。ニュースを見れば、鈍い者でも気づかざるを得ない。――自分たちは完全に面目を潰されたのだ、と。自分たちがスキャンダルを追い回している間に、普段は高みの見物をして彼らを見下している国営メディアの記者たちが、目の前で星を取り囲み、口々に称賛の言葉を投げかけている。これほど痛烈な皮肉があるだろうか。もちろん、彼らはた
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第317話

記者の一人が思わず口走った。「もちろん、金稼ぎのためだろう」星は静かに答える。「お金の欲しい人が、なぜ寄付するの?あれほどの金額があれば、一生遊んで暮らせるのよ」記者は言葉に詰まり、顔をこわばらせた。――そうだ、もし本当に金目当てなら、寄付せず自分で使うはずだ。「金稼ぎ」という指摘は、論理的に大きな矛盾を抱えていた。口をつぐむ記者をよそに、別の芸能記者が攻撃を仕掛ける。「星野さん、私の知る限り、あなたは高校すら卒業していない。大富豪のお嬢様でもなければ、資産家でもない。なのに、どうしてそんな巨額を手にできたんです?出どころが怪しいのでは?」「噂では、以前神谷雅臣の妻を名乗っていたとか。そのお金は、男を騙して得たものじゃないのか?」星は依然として落ち着いた表情でその記者を見た。「ならひとつ伺いたいわ。どんな手口なら二百億を騙し取れるのかしら?」記者は鼻で笑う。「ひとりの男から二百億を奪うのは難しいだろう。だが複数の男から集めれば、不可能じゃない」そう言って、にやりと意味深な笑みを浮かべる。「誰もが知っている。恋愛中の男は、バカになるってことを」「それに、星野さんのように美しく才能もある女なら、男から金を引き出すのは造作もない。違いますか?」「でなければ、あなたの二百億の出所をどう説明する?」その一言は爆弾のように場に落ち、波紋を広げた。――高校も出ていない、資産家でもない女が二百億を持っている。確かに人々の想像をかき立てる話だ。星は質問した記者を見据えた。「つまりあなたの考えでは、若くて美しく大金を持つ女性は、みな不正な金で暮らしている、と?」記者は息を詰まらせる。――そんなことを認めたら、世の女性すべてを敵に回す。慌てて言い繕う。「い、いや......そういう意味じゃない。ただ私は星野さんの資産の出所に疑問を呈しただけだ。公衆の前に立つ以上、正当な説明をするべきでしょう。もし汚れた金で慈善をしたのなら、それこそ笑い話です」「大慈善家だと持ち上げられながら、実際は不正資金で善人の仮面を被っていた――そんな茶番はないでしょう?」まるで弱点を掴んだとばかりに、記者はさらに攻め立てる。「星野さん、資金の正当な証拠
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第318話

群衆が次々に言葉を投げかけ、星には口を開く隙すら与えられなかった。その時、警察署から新たに数人の警官が出てきた。外の騒ぎを目にして一瞬戸惑ったが、すぐに星のもとへと歩み寄る。「星野さん、新たな証拠が提出されました。そのため、あなたの口座はすでに凍結され、オークションで落札した品も一時的に押収・保管させていただきます」警官は一拍置いてから続けた。「つきましては、再度署までご同行願えますか。捜査にご協力いただきたい」勇の唇には、待ち望んだかのような薄笑いが浮かんでいた。――警察の動きが早い。提出された証拠もすぐに裏付けたらしい。これで本格的な取り調べに進むに違いない。しかもタイミングよくネット全体に配信中。これで星野星は完全に破滅だ!ライブ配信を見ていた視聴者たちも、画面にかじりついていた。【おいおい、ネットで金目当て女って叩かれてた時、俺も便乗して悪口書いたんだ。けどニュースじゃ大慈善家って紹介されて、夢かと思ったよ。やっぱ俺、間違ってなかった?】【つまり、放送局の記者も間違えることがあるってことか?】【資金の出所も調べずに大々的に報道するからだ。これで国営メディアの権威も地に落ちたな】まだ朝だというのに、ネットはまるで年越しのような騒ぎだった。どんでん返しの連続。まるで芝居を見ているようで、多くの野次馬が友人や同僚、家族に電話し、「絶対見逃すな」と知らせていた。星は駆けつけた警官に向かい、落ち着いた声で言った。「五分だけ、時間をいただけますか?」警官は周囲を見回し、うなずいた。これだけ人に囲まれていれば逃げる心配もない。加えて、国営メディアの記者たちが待機している状況だ。ここで本人の発言を許すのも不自然ではない。もし本当に罪を問われるなら、これが最後の弁明の場になるだろう。星は群衆の「見世物を眺める視線」を正面から受け止め、淡々と言った。「まず最初に申し上げます。私が寄付した二百億は、違法なお金ではなく、正規の手段で得たものです」彼女はスマホを取り出し、一枚の写真を開いて記者たちに示した。「これは銀行の送金記録です。二百億の入金はすべて、私の元夫の口座から送られたものです」記者たちは一斉にカメラを構え、画面を撮影する。
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第319話

【な、な、なんだって!この人、本当に神谷雅臣の妻だったのか!】【違う違う、もう妻じゃない。元妻だよ!】【そりゃ皆お金持ちに嫁ぎたがるわけだ。離婚するだけで二百億の慰謝料だなんて、すごすぎる!】【それにしても、神谷雅臣の見る目もなかなかだよな。元妻の人、すごく綺麗じゃないか。とても五歳の子どもの母親には見えない】【ふん、こんな女神谷雅臣にふさわしくないだろ!高校すら出てないんだぞ】【神谷雅臣にふさわしいのは、小林清子みたいな才色兼備の女神だけだ】この瞬間、ネットのコメントの風向きは一変していた。警察がその場で確認し、星が雅臣の元妻だと証明された以上、疑う余地はない。雅臣ほどの大富豪なら、元妻に二百億渡すことくらい大したことではない。それ以来、二百億の出所を疑う声は消え、代わりに様々な憶測が飛び交う。星はさらにスマホをスワイプし、画面を記者たちに示した。「皆さんが疑問に思うのは、なぜ神谷雅臣が私に二百億を渡したのかという点でしょう」映し出されたのは、雅臣との契約書だった。内容は簡潔で、たった数項目。1、星野星が小林清子の命を救う薬を神谷雅臣に渡すこと。2、星野星が山田勇の「示談書」を提出すること。3、離婚熟慮期間が過ぎたら、二人は市役所で正式に離婚届を受け取ること。――以上の条件のもと、神谷雅臣は星野星に二百億円を支払う。注:星野星は小林清子の難病を完全に治癒させる責任を負い、薬が尽きた場合も引き続き提供しなければならない。それが守られなければ、二百億は返還される。この契約書を見た瞬間、記者たちも視聴者たちも言葉を失った。「俺、ずっと神谷雅臣は人柄が良くて太っ腹だと思ってたんだ。離婚しても元妻を見捨てずに二百億渡すなんて、すごいって......まさか、その二百億は離婚の慰謝料じゃなくて、小林清子の命を救う薬代だったとは」「示談書に離婚契約書まで......神谷雅臣、思ってた以上にゲスなんじゃないか?」「いや待て。ゲスって言っても、小林清子を救うために二百億出したんだぞ。目もくれず払えるか?やっぱり清子のために離婚したんじゃないのか?」「やばい、これ超大スクープだ!」勇の顔からは、もはや笑みが消えていた。まだ配信を続けていたことを
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第320話

この瞬間、ネット上での星に対する論調は大きく変わり、同時に雅臣への印象も天と地ほどにひっくり返った。ある推しカップルに夢中なファンはなおも食い下がる。【神谷雅臣が星野星に冷たかったのは、清子への深い愛情の証よ!誰にでも優しい八方美人みたいな男が好きなの?】【おいおい、勘違いしてないか?星野星は他人じゃない、正妻なんだぞ!神谷家に息子まで産んでる。その妻に優しくするのに、愛人の許可が必要なのか?頭大丈夫?】【私たちの女神・清子さんは愛人なんかじゃない!星野星こそ隙を突いて入り込んだ愛人よ!】【はいはい、そうね。あなた方の女神は愛人じゃなくて、既婚者と連日つるんでるだけ。まったく清らかだこと!】理屈で押し切れないと悟ったファンは、すぐに矛先を変える。【神谷雅臣がクズなのと、清子さんに何の関係があるの?清子さんだって被害者よ!神谷雅臣に騙されたんだから!】一方、現場で星を追い詰めようとした芸能記者たちは、顔色を失い言葉を失っていた。上から送られてきた指示は「最短で星野星を引きずり下ろせ」というだけ。まさか、こんな裏事情が山ほど出てくるとは夢にも思わなかったのだ。「これじゃ仕事どころか大失態だ......」金のために必死で食らいつこうとする記者が、なおも食い下がる。「たとえその金が正規のものだったとしても、星野さんは犯罪の疑いがある!じゃなきゃ、なぜ警察が動いたんだ?」傍らで状況を見守っていた警官たちも、群衆の口から経緯を知るにつれ、困惑の表情を浮かべた。「田口警部、星野星は口座の金をすでに慈善団体に寄付してます。今さら口座を凍結しても意味がないのでは?」「それに、彼女が落札した品も国立博物館に寄贈済みです。俺たちが押収しようとしても、博物館が渡すはずがない」「それに......星野星みたいに公然と寄付を宣言した人間が、もし虚偽だったら、逆に法の裁きを受けますよ」「加えて、すでに合法である証拠も出ている。今になって寄付を回収すれば、慈善団体や国立博物館だけでなく、世論すら敵に回すことになります」「群衆も納得しませんよ......」警察官たちは頭を抱えていた。確かに「営業機密漏洩と金融犯罪の疑い」という通報を受けて動いたのだ。本来なら、財
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