そんな星の表情は、勇と清子が望んでいたものではなかった。勇が眉をひそめる。「星、お前......何を笑ってる?」星の声は軽やかに響いた。「あなたが馬鹿だからよ」清子はくすりと笑う。「星野さん、私たちの前で気丈に振る舞いたい気持ちはわかる。けれど、ここまで落ちぶれたのなら、素直に頭を下げても恥じゃないわ」彼女の視線は星の首元に光るネックレスへ。「もしそのネックレスを返してくれるなら......それと夏の夜の星も譲ってくれるなら、雅臣も、あなたの営業秘密漏洩を大目に見てくれるかもしれない」星が今身につけているのは、深青ではなく、母から受け継いだネックレスだった。清子はその価値をさほど認めてはいない。それでも――欲しいと思った物は、必ず自分の物にしなければ気が済まなかった。ネックレスも、夏の夜の星も、そして雅臣も。星は再び笑みを浮かべる。「小林さん、あなたは賢い人だと思っていたけれど、案外そうでもなかったのね。私がとっくに雅臣に離婚を切り出したことを、知らないわけじゃないでしょう?」「でも、あなたは信じなかった。私が駆け引きをしていると決めつけ、わざわざ何度も妨害してきた」「正直に言うとね、あなたが邪魔しなければ、私はとっくに身一つで離婚していたはずよ。でも今は違う。あなたのおかげで、逆に大金を手にできたの」そこで言葉を切り、真っすぐ清子を見据える。「小林さん、本当にありがたいわ。あなたがいなければ、私にはオークションに参加する資金なんてなかったもの」「深青が欲しかったんでしょう?でも私が手にできたのは、あなたのおかげよ」清子の目は血走り、怒りに染まる。「待ってなさい。その二百億、あなたが手に入れたのと同じように必ず全額取り返してみせるわ!」星は穏やかな笑みで応じた。「そう。なら楽しみにしているわ」そう言い残し、彼女は背を向けて去っていく。その言葉は、心臓を突き刺す毒のように清子を打ちのめした。歯を食いしばりながら、星の後ろ姿を睨む。――好きにさせておけ。どうせすぐに笑えなくなる。星と弁護士が警察署を出ると、どこからともなく集まってきた記者たちが一斉に彼女を取り囲んだ。「星野さん、先日ネットで急に注目を浴びたあと、すぐ
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