彼の声は冷酷で、一片の温かさもなかった。柚香は完全に呆然とした。まさか修矢が本当に警備員を呼ぶとは思わなかったのだ。何か言おうとした瞬間、修矢は一瞥すら与えず、まっすぐ玄関へ向かった。棚の上に置いてあったスマートフォンを手に取り、いつものように画面を触れる。だが、その手がぴたりと止まった。画面には数分前の通話記録が表示されていた。発信者――遥香。通話時間は三十七秒。だが彼はその電話に出ていない。修矢は勢いよく振り返り、鋭い視線を床に座り込んでまだ我を失っている柚香に突き刺した。「さっき……俺の電話に出たのか?」その視線に柚香は全身を震わせ、思わず頷いたものの、慌てて首を振った。「わ、私は……わざとじゃないの。ただ……その……」「彼女は何と言った?」修矢は不吉な予感に胸を締めつけられ、柚香の言葉を遮った。「彼女……あなたがどこにいるか聞いてきて……」柚香はしどろもどろに続けた。「わ、私は……あなたがシャワー中だって……そう答えたの……」修矢の顔色は一瞬で険しくなった。遥香からの電話に柚香が出て、自分がシャワー中だと答えた――最悪だ。時計を見ると、すでに八時半近い。運動会はもう始まっている。言いようのない恐怖と後悔が一気に押し寄せた。遥香はきっと誤解した。自分と柚香が一緒にいると……くだらない柚香のせいで、遥香と拓真との約束を破ってしまったのだ。「出て行け!」修矢は低く吼えると、その邪魔な女にかまっている暇もなく、車のキーをつかんで外へ飛び出した。警備員が来るのを待つこともなく、修矢は自らエレベーターに飛び込み、勢いよく一階のボタンを押した。一方その頃、幼稚園の親子運動会が幕を開けた。最初の競技の名前はとても芸術的に聞こえる――「未来の形」実際には親子で粘土細工をする遊びだった。幼い頃から彫刻を扱い、器用な手先を磨いてきた遥香にとっては、こんなものは朝飯前だ。彼女は粘土を手に取ると、ほんの数分で生き生きとした小さなウサギを作り上げた。拓真は拍手しながら大喜びし、周りの保護者たちからも感嘆の視線が注がれた。だが、どこにでも不協和音はある。隣のテーブルには、がっしりした小太りの男の子と、いかにも気が強そうな母親がいて、遥香たちを指さしてはひそひそと話していた。小太りの男の子は拓真の粘土を
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