遥香は月光の中、彼を見上げた。彼の深い瞳にはっきりと自分の姿が映っていた。彼女はほほえんだ。「わかった」サーキット場の騒動が収まると、夜はさらに深みを増した。慶介は実穂を学校の寮まで送り届けると強く主張し、経済的なことは考えず学業に専念するようにと繰り返し念を押した。すべて自分が引き受ける、と。遥香は、慶介が実穂に注ぐ細やかな気遣いと、実穂が慶介に向けるどこか慕うような依存の眼差しを見て、胸の奥に微妙な感情を覚えた。どうにも従兄の関心は、友人の子供に向ける範囲を超えている気がしてならない。その細やかさと張りつめた気配は、まるで恋人のようで……しかもどこか慎重ささえ漂っていた。その思いは一瞬胸をかすめただけで、遥香は深く考えようとはしなかった。修矢は慶介の車が夜の闇に溶けていくまで、黙って遥香のそばに立っていた。やがて彼は振り返り、遥香に視線を注ぐ。街灯に照らされた瞳は、複雑な光を帯びて揺れていた。「まさか、そんな腕があるとはな」沈黙を破るように修矢が言った。その声音には探るような響きがあった。さきほどサーキットで見せた遥香の鋭く果断な気迫は、普段の清楚で静かな姿とはかけ離れていた。だが不思議と一つに溶け合い、彼女だけの特別な魅力を形づくっていた。遥香は口元にかすかな笑みを浮かべた。「彫刻には集中力と手と目の細やかな連携が欠かせないの。レースも似たようなものよ」さらりとそう説明すると、それ以上は語らなかった。二人は並んで駐車場へ向かった。道端の古い木の枝が垂れ下がり、遥香は思わず手を伸ばして払いのけたが、折れかけた枯れ枝で指をかすめてしまった。「……っ」遥香は小さく息をのむと、白い指先に赤い血がにじんだ。修矢はすぐさま彼女の手を取り、眉をひそめた。「どうしてそんなに不注意なんだ」責めるような声には、隠しきれない緊張と心配があった。彼はそのまま遥香を車へ連れて行き、トランクから手早く救急箱を取り出した。慣れた手つきで傷口を洗い、消毒し、そっと絆創膏を貼った。その間、修矢の表情はひたすら真剣で、まるで世界でたった一つの宝物を扱うかのようだった。温もりを帯びた指先がふと肌に触れ、微かな痺れのような電流が走る。遥香は伏せられたまぶたと横顔の真剣さを見つめ、胸の奥がそっと揺さぶられるのを感じた。「こ
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