宴の空気は獅子彫刻の一件で微妙に揺らいでいた。客たちが帰り際、奈々を避けるようにして去り、声を掛ける者もどこか形式的でよそよそしかった。奈々は一人、隅に立ち尽くし、先ほどまで取り巻いていた人々の姿は影も形もなかった。彼女は爪が掌に深く食い込み、その屈辱は無数の細い針で刺されるように痛かった。竜成はグラスを手に、真っ直ぐ奈々へ歩み寄った。彼の表情は乏しかったが、奈々には冷気が押し寄せるように感じられた。「渕上さん」竜成は声こそ低かったが、一言一言が明瞭だった。「今日の件には失望しました」奈々は無理に笑みを浮かべ、「大林社長、きっと何か誤解があるのだと思います……」と答えた。「誤解などありません」竜成は奈々の言葉を遮った。「私は結果しか見ません。あなたは私の仕事を台無しにしました」少し間を置いてから、彼は続けた。「鴨下家の鉱山との協力は、これで終わりにしましょう」そう言い残すと竜成はもう彼女を振り返りもせず、そのまま去っていった。奈々は氷のように冷え切った手足で、その場に立ち尽くした。鴨下家の鉱山との繋がりは、彼女が必死の努力でようやく結びつけたものだった。鴨下家に自分の力を示すための重要な切り札でもあった。だが今や、それもすべて水泡に帰した。宴が終わり、鴨下家へ戻る車中の空気は重苦しく、息が詰まるほどだった。保は一言も口を開かず、怒りを孕んだ顔は、今にも嵐を呼びそうだった。奈々は何度も口を開こうとしたが、保の冷え切った態度を見て、そのたびに言葉を飲み込んだ。鴨下家の別邸に着くや否や、保はついに怒りを爆発させた。「奈々、いったい何をやっているんだ!」彼は彼女の手を荒々しく振り払った。「この鉱山の協力にどれだけ心血を注いできたか分かっているのか?全部ぶち壊したんだ!」奈々の目には涙がにじみ、悔しさが込み上げた。「私だってこんなことになるとは思わなかった、ただ……」「ただ?何だ?」保の声は怒気を帯びていた。「皆に自分が有能だと見せつけたかったのか?結果はどうだ、顔を潰しただけじゃない、鴨下家まで巻き込んだ!大林がどういう人間か分かっているのか?彼が決めたことを誰が覆せる?その結果がこれだ、鴨下家の鉱山はお前のせいで大事な協力相手を失ったんだ!」「わざとじゃないの」奈々は嗚咽まじりに言った。「ただ、あ
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