修矢はもう耐えられず、一歩前に出て遥香を背に庇い、冷たい目で奈々を見据えた。「奈々、俺の女に口を出す資格は君にはない。これ以上無礼を言えば、容赦しないぞ」奈々はその氷のような眼差しに心を震わせ、思わず一歩退いた。修矢が言ったことを実行する男だと知っている以上、本気で怒らせるわけにはいかなかった。「行くぞ」修矢はもう彼女に目もくれず、遥香の手を取って歩き出した。「川崎、覚えてなさい!絶対に許さないから!絶対に!」その背に、奈々の悔しげな叫びが追いかけてきた。遥香は振り返りもしなかった。理性を失った相手に、どんな言葉をかけても無意味だからだ。ブライダルショップを出た彼女は、深く息を吸い込んだ。先ほどまでの晴れやかな気分は、奈々にすっかり壊されていた。修矢はその変化に気づき、足を止めて彼女の顔を両手で包み込み、真剣に瞳を覗き込んだ。「他人に気持ちを乱されるな。あいつは今やただの負け犬、吠えるしかできないんだ」遥香は彼の深い眼差しを見返した。その中に溢れる心配と守ろうとする想いに触れ、胸にこびりついていた鬱屈は少しずつ溶けていった。「わかってる」遥香は小さく頷いた。「でもね、一部の人間は永遠に自分の過ちの代償を払うことを学ばず、責任を他人に押しつけてばかりなのよ」「だからこそ、俺たちはもっと幸せに生きてみせるんだ。そうすれば、彼女の悪意や策略なんて、結局は全部自分に跳ね返るって思い知らせられる」修矢の声音には、どこか黒い冗談めいた響きがあった。遥香は思わず笑い声を漏らした。「尾田社長、それって悪役みたい」修矢は片眉を上げた。「君のためなら、一度くらい悪役になっても構わない」二人は顔を見合わせて笑い合い、さっきまでの重苦しい空気は跡形もなく消え去った。「それで、スフレはまだ行く?」遥香は笑顔を浮かべて尋ねた。「もちろんだ」修矢は彼女の手を握り、そのまま歩き出した。「今日は必ず俺の嫁さんに思いきり楽しんでもらう」二人はカフェに入り、看板メニューのスフレとコーヒーを注文した。運ばれてきたスフレはふわりと膨らみ、柔らかく、甘く香ばしい匂いが漂っていた。遥香は小さなスプーンでひと口すくい、口に入れる。甘くやわらかでもちっとした食感が、瞬く間に舌の上で広がった。「ん……すごく美味しい!」遥香は幸せそうに目を
Read more