残るは、ワイール伯爵の執務室にある隠し金庫の物証だけだ。 ノワジエール侯爵とのやりとりの書簡や、原石偽装の指示書。ワイール伯爵の顧客帳簿等など、しっかり残っているのは把握済みである。 ルシアンは、口端をわずかに上げた。 「殿下から連絡が入り次第、この地を発つとしよう」 ティエリーへの報告は、すでに終えていた。彼は近衛兵を率いて、間もなく近隣の森まで到着するはずだ。 さらに、ダリウへは事前に文を送っている。帝国側は近衛兵を率いてワイール領へ入るが、これは軍事的な侵攻ではなく、逃亡貴族を捕らえるための派遣である、と。 「面倒な依頼だったが……優秀な部下のおかげで、ようやく終わりが見えるな」 深く息を吐くルシアンに、ノエルが遠慮がちに言った。 「でしたら、しばらくお休みになってはいかがでしょう。私どもは外で待機しておりますので」 ノエルがそう言うのなら、本当に疲れが滲んでいるのかもしれない。 (今回の任務は、性急に進めたからな) エマを一刻も早くレオナールから引き離すために、急がなくてはいけなかった。 ダリウにも、二人が会わずに済むように配慮を要請したが、レオナールの謹慎について、側妃が騒ぎ立てているらしい。 潜入捜査の任務中であり、焦りもあったため、ルシアンはつねに神経を張り巡らしていた。夜も、気が張り詰めているせいか眠りが浅く、疲労がたまっていたようだ。 「……そうだな。しばらく休もう」 ルシアンが答えると、ノエルがホッとしたように頷いた。 寝室へ向かい扉を閉めると、一人になる。仕事が一段落したこともあり、少しだけ気が緩んだ。 ベッドに腰掛け、懐から小さな袋を取り出した。リネン地の四角い袋には、エマのお守りが入っている。 『昼』は貴方の道が輝き 『夜』が貴方の愛を包む 『星』は幾千の祝福を告げ 『天』は幾万の希望を贈る エマと別れてから、何度も取り出し、読み返した。 この詩は暗記してしまったが、エマの
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