神殿育ちの嫌われΩは、隣国の伯爵αに蕩ける愛を刻まれる のすべてのチャプター: チャプター 121 - チャプター 130

206 チャプター

第120話 むごい仕打ち

    拘束されたエマの下半身は、ひどい有様だった。どれだけ達したのか、下半身は蜜と愛液でドロドロに濡れて、汗のせいでシーツまでぐっしょり湿っている。  エマは、涙とよだれで顔をグチャグチャにして、うつろな瞳で天井を見上げていた。 「ひぁっ……ァァッ……ッ、あぁぁあっっ!」  躰が疼くのか、喘ぎながら身をくねらせ、腰を上下に振り出す。  ガチャガチャと鎖を鳴らしながら、襲いかかる快楽に泣きじゃくった。 「ぁんっ……ァァッ、ッ、ぃ……いきたいっ……イか、せてぇ……っ」  うわごとのように呟きながら、涙を流す。  発情期のオメガへの、あまりに残酷な仕打ち。  ルシアンは怒りで目の前が真っ赤になり、レオナールを呪った。 「むごいことをッ!!」  ルシアンはすぐさま燭台をおき、腰から短剣を抜いた。  エマの右手の枷から、鎖の留め具を探って刃を差し込む。  小さく音がして、接合部が外れた。 「あぁっ」 「エマ。大丈夫ですよ」 「ぅっ……ゆ、ゆるして……ぃ、イきたぃッ……ぁぁんッ」  エマの口からこぼれるのは、懇願と喘ぐ声だけだ。 (考えたくないが……私と別れたあの夜から、今までずっと……?)  一昨日のデートで、幸せそうに笑っていたエマの顔が思い浮かぶ。  この二日間、地獄のような苦しみに悶えていたと思うと、胸が張り裂けそうだった。 「エマ……許してくださいっ」  せめて、昨日のうちに見つけられていたら。  激しい後悔に苛まれるが、今は、エマを自由にするのが先だ。 「んぁぁッ……ぁっ、」 「エマ。少しだけ我慢してください」 「ぁん……っ」  鎖は外したものの、枷がまだ残っていた。  肌を保護するためか、内側は毛皮の柔らかな素材で出来ている。外側は鎖と同じ銅製で、鍵がなければ解錠できないようになっていた。  短剣なら切れるだろうが、さすがにエマに剣を当てるわけにはいかない。 「ンンっ……ゃぁ……」 「
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第121話 助けに来てくれる夢

     エマはまだ、王族の婚約者だ。  最後の一線を越えてしまったら、エマは不義を犯すことになる。  頭では分かっているのに、腹の底から激しい衝動がこみ上げた。  この猛った雄で奥まで突き上げ、グチャグチャにして啼かせてやりたい。  熱い飛沫をあふれるほど注ぎ、声が枯れるまで愛し合えば……。 (そうすれば、エマは、私の子を……ッ)  ルシアンとの新しい命を宿す、淫らで美しいエマ。  その姿を想像しただけで、全身が滾った。 「ッ……エマ!」 「ひゃぁっ……ぁぁッ、ァッ、んぁぁっ」  ルシアンが太ももを撫でるだけで、エマはビクビクと震える。  アルファの本能を押さえ込むのは、今までのどんな訓練よりも過酷だった。 「くッ……エマ、煽らないでください」 「ひゃぁんっ、ァッ……るしあん、さまぁ……っ」 「エマッ」  敏感な躰は、触れるだけで嬌声を上げる。  気を抜けば、こちらの理性が飛ぶ。  「エマッ……!」  ルシアンはエマをかき抱き、愛おしい躰を慰めた。  + + +  エマは、自分の喘ぎ声で目が覚めた。 「ァァッ……っ、ぁ」  躰が、燃えるように熱い。  息を吐くのもやっとだ。 「ぁんっ、ぁぁっ、……あつ、ぃ……ァッ」  太ももに感じる熱塊に、火傷しそうだった。 (熱い……っ、ぁぁっ、……苦しぃっ) 「ァァ……ゃぁぁっ」  ズリュズリュッと音を立てながら、ももの裏に何かがぶつかった。  揺さぶられる感覚に、エマは天井から視線を下げる。 「ァッ、ぁぁんっ……んんっ」 (脚に、何かが……)  エマは喘ぎながら、己の躰を確かめた。  膝をくっつけた状態で、両脚を持ち上げるように掴まれている。  股の間には、熱棒が小刻みに顔を出し、擦りつけるように激しく動いていた。 「あぁんっ
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第122話 夢の中でも叶わない

     けれど、エマは全身の肌を赤く染め、昂ぶりからはチロチロと蜜をこぼし、汗と愛液でシーツをぐっしょり濡らしている。  もう時間の感覚がなくなるほど長い間、一人で何度も果てたからだ。  イきすぎて敏感になった躰は、ルシアンが肌を撫でただけで、悶えてしまう。 「ひゃぅんッ……んぁぁっ」 (ああ、もっと……触って欲しいっ)  エマは無意識に腰を揺らし、ルシアンの緩い愛撫に喘いだ。  すると、ふいに股間をひと撫でされる。 「ひゃぁぁッ! ぁ、あぁぁんッ!」  淫らな刺激に、嬌声を上げる。  エマの瞳からは、ポロポロと涙があふれた。  快楽に悶えるエマの眦に、ルシアンがそっと口づける。  そして、耳元で甘ったるく囁いた。 「私の愛しい薔薇」 「ぁんっ」 「何も考えずに……貴方は、愛でられるだけでいいのですよ」 「ンッ、……ぁぁっ、……ぁぁんっ」  首を振るが、ルシアンの手は止まらなかった。  フッと笑みを浮かべ、エマの昂ぶった雄を優しく扱く。 「ひゃぅぅッ!!」 「ああ、またイきましたね」  ビクビクと躰が跳ね、頭が真っ白になる。  だが、絶頂を迎えた躰に、容赦なく次の快楽が襲いかかった。 「ァ、ぁぁッ……んぁぁ、ァァッ!」  ルシアンのしなやかな指が、緩んだ蕾を掻き回したのだ。  愛液にまみれた蕾は、ルシアンの指を悦んで受け入れる。 「ぁぁん、ぁぁっ、やぁんっ」  グチュグチュとイヤらしく響く水音に、耳を塞ぎたくなる。  それなのに、蕾はキュッとルシアンを締めつけ、離そうとしない。 「フフ、ここは正直ですね」 「ぁぁッ」  ルシアンのからかう声に、エマは思わずシーツに顔を埋めた。  視界からルシアンを追い出しても、中を弄る指は止まらない。ルシアンの長い指がイイところを突くたびに、ビクビクと躰が跳ねた。 「ァァッ……はぁ、んんっ」 「エマ、イっていいので
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第123話 懲罰房

     そこは昔の洗濯室だった場所で、床はいつも湿っており、空気は冷たく淀んでいる。外側から錠が掛けられ、唯一の小窓には鉄格子がはめられていた。  親しくしていた下級メイドが、ナタリナのために隙を見てパンや干し果実を差し入れてくれなければ、餓えと寒さで弱ってしまうところだった。  懲罰房に入れられる前、ナタリナは侍女長へ一つだけ願いを申し出た。 「侍女長様。恐れながら、聖樹に触れることを許されるのは、聖花女のみでございます。イーリス大神殿の教えに従い、聖樹へ水の恵みを与え、その御身を清めるお役目は、どうか私に」  聖花女とは、イーリス大神殿の聖樹に直接仕える女官の呼び名だ。  ランダリエにおいて、聖樹は貴族と同格であり、女神の愛し子として尊ばれる存在である。その世話を許されるのは、限られた者だけだ。  ナタリナの言葉に、侍女長は鼻を鳴らした。 「聖樹などと……あれは平民ではないか」 「では、その平民出身の聖樹のお世話を、他の侍女殿がお引き受け下さると?」 「犬に水を与えるなど、造作もないこと」  ナタリナはわずかに首を傾げ、穏やかに微笑んだ。 「……聖樹のお世話には、神殿の規律に従い、いくつもの禁忌がございます。たとえば手順をひとつ誤れば、聖樹のお身体が弱り……宮廷医の診察で、不都合が生じるかもしれませんね」  侍女長の顔から、さっと血の気が引いた。 「……」 「皇太子の使節団が帰国なさるのは三日後。その間に水もろくに与えられないようでは……聖樹とて女神のみもとに召されましょう。侍女長様がどのような責任をお取りになるのか、私には計りかねますが」 「ちっ、忌々しいこと!」  侍女長は憎々しげに舌打ちし、鋭い視線でナタリナを睨みつけた。 「一日に二度、離れへ行って世話をしなさい。余計な真似をしたら承知しませんよ」 「侍女長様の寛大なお心に感謝いたします」  ナタリナは、微笑を浮かべて深く頭を下げた。  そうして彼女は、エマのもとへ水を運ぶときだけ、見張り付きで外へ出されることにな
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第124話 救いの知らせ

    「侍女長と、手下の者達……あの外道を野放しにしている、ジゼル側妃と、ノワジエール侯爵……奴らの息の掛った者……」  怒りをぶつける音は、ますます荒くなった。  だが見張りの足音は聞こえない。  今夜は、皇太子と使節団を迎えての最後の宴だ。エマは欠席しているが、侍女長と取り巻きの侍女たちは、手伝いと称して参加していることだろう。  多少、大声を出したところで、誰も咎めにこない。  だからこそナタリナは、思いきり怒りをぶつけた。 「聖樹たるエマ様への冒涜は、万死に値する大逆……必ず思い知らせてやる!!」   夜が更けても、ナタリナは眠らずに待っていた。  しばらくして、下級メイドのミナが差し入れを持ってくる。 「ナタリナ様っ! 大丈夫ですか? お食事は?」 「水だけよ。貴方の差し入れだけが救いだわ、ミナ」  ナタリナは差し入れのバスケットを受け取り、礼を言った。  この懲罰房は半地下で、ナタリナから見て上の小窓は、外からだと地面に近い位置にあるのだ。だから鉄格子が嵌められていても、ミナは簡単に差し入れができる。 「ああ……侍女長様も、どうしてこんな酷いことを」  ミナは、十代の若いメイドだった。気さくで明るく、頭の回転も速い。  彼女は平民だが、とある男爵家の紹介で、琥珀の館の下級メイドになったという。  ここで働く侍女と上級メイドは、ジゼル側妃やノワジエール侯爵家に縁のある貴族令嬢、王太子とは政敵にあたる家柄の令嬢ばかりで、平民を見下している者が多い。  下級メイドも側妃派が半数を占めるが、ミナは「聖樹様にお仕えしたい」という思いだけで、何も知らずやってきたのだ。 「ナタリナ様。聖樹様のお加減はいかがでしたか?」  ミナが心配そうに尋ねてくる。  夜更けの暗がりで表情は見えないが、エマを案じていることは伝わった。 「貴方が作ってくれた、サファイアベリーのジュースを召し上がったわ。少しは回復されるはずよ」
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第125話 侍女長代理

    「エマ様が……ようやく、あの苦しみから放たれるのですね!」  ナタリナが一番に望んでいたことが、叶えられた。  もう他に望むことはない。 「あの、侍女殿? そこから救出を……」 「必要ありません」 「はっ?」 「エマ様の解放こそが私の望み。私がここで大人しくしていれば、侍女長も満足するでしょう」 「ですが……」 「閣下に伝言をお願い致します。主を救ってくださったこと、心より感謝いたします、と」 「はっ……」 「それから、ここへ残るのは私自身の意思です。どうか、貴方の任務に瑕があったなどと誤解されませぬよう」  ナタリナは穏やかに微笑んだ。 「……心得ました。感謝いたします、侍女殿」  若い男は、安堵の息を洩らす。  そして、足音も立てず去って行った。  + + +  翌朝。早朝の時間帯にも関わらず、琥珀の館はいつになく張り詰めた空気が漂っていた。  王太子が、直々に足を運んだのだ。  広間に呼び集められたのは、残っている侍女たちと上級メイド、そして懲罰房に入れられてたはずのナタリナだった。  昨夜の夜会に、手伝いと称して参加した侍女長と取り巻き侍女たちは、まだ戻っていない。  王太子は彼女たちの前に立ち、険しい顔で告げた。 「昨夜、レオナールが不祥事を起こした。帝国の客人に対して無礼を働いたこと、到底看過できぬ」  その声音は冷ややかで、誰も口を挟めない。 「よって、当人には謹慎を命じる。……しばらくは表に出ることも許さぬ」  ざわめく空気の中、王太子は淡々と続けた。 「侍女長は、元々レオナールの乳母であるため、謹慎中の世話を任せることにした」  おそらく、取り巻きの侍女達も、侍女長と共にいるのだろう。  琥珀の館で権力を振るっていた者達が不在になると知り、残された侍女たちは不安げに顔を見合わせた。  王太子は彼女達の様子を眺め
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第126話 優しい嘘を

     もし聖樹が戻ってくるとなれば、自分たちが過去の仕打ちを咎められるのでは、という不安が顔に出ていた。  ナタリナはしばし思案し、やがて静かに首を振った。 「いいえ。侍女長がいつ戻られるか分かりませんし……どうせ、エマ様のお部屋を侍女長が勝手にお使いなのでしょう?」 「そ、それは……」 「今から模様替えをするのも手間ですわ。お世話を出来るのは私だけですし、エマ様には今までとおりに離れでお過ごしいただきます。ただし、調度品はすべて新しいものと取り替えますから、手配をお願いします」 「かしこまりました。すぐに!」 「それと、お食事の支度を。エマ様は大変お疲れでいらっしゃいます。体を癒やすためにも、滋養のある献立を用意なさい」 「はい。ただいま」 「あとは……離れの『警護』を担当している衛兵は、レオナール王子の私兵でしたね」  ナタリナの冷たい声に、その場にいた者達の顔が青ざめる。  離れの入り口と、離れの庭の外に、いつも女騎士が交代で立っている。  名目上は警護だが、実際には行動監視のための見張りであることは、周知の事実だった。  ナタリナは怒りを押し殺した声で、侍女に命じる。 「ただちに、離れの前より撤収させなさい。以後、彼女らは館の外門を守るよう配置を改めます」 「かしこまりましたッ」  侍女たちは、慌てて膝を折り、頭を垂れる。  聖樹に対する仕打ちがどれほど非道なものだったか、今さらながらに悟ったのだろう。  少しでも報いるためか、侍女たちはてきぱきと動き始めた。  その様子を見て、ナタリナは意外に思う。 (側妃や侯爵の息の掛った令嬢ばかりで、無能で卑しい者の集まりかと思っていたけど……序列のせいで、埋もれていただけのようね)  己の務めを弁え、聖樹への仕打ちが常軌を逸していたと悟る程度には、まっとうな心を持つ者だけが残ったようだ。  侍女長が不在の今、この館を掌握しておけば、エマを守る手立ても、増やせるだろう。  ナタリナは侍女長代理として、迷いな
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第127話 良い話

    (ああ……王子がやってきて、無理やり発情させられて)  枷と鎖で繋がれ、快楽に苦しみ悶えた。  でも今は、発情期が終わったようで、スッキリしている。 「ぁ、ルシアン様……っ」  そういえば、夢を見た。  ルシアンが、エマの体を慰めてくれる夢だ。 (キスもしてくれた。唇に)  恋人のキスは、甘くて幸せだった。  夢の中でも、最後まではシてくれなかったけど……ずっと側にいてくれた。  あんなに幸せな夢が見られたのだから、もうそれで十分だ。 「……もう、帰国されたんだよね」  エマは、窓の外に視線を向ける。  朝だと思ったけど、太陽は高く昇っているようで、正午が過ぎているかもしれない。  発情期は三日間ほどだから、それが終わったということは、皇太子の使節団も帰国したということだ。 「最後に、ご挨拶したかったなぁ」  本当なら、送賓晩餐会と夜会に出席して、もう一度ルシアンと話せるはずだった。  すごく楽しみにしていたのに、レオナールのせいで台なしにされ、お別れも言えないまま離ればなれに……。 「っ……ルシアン様っ」  ジワッと涙がにじんできて、慌てて袖口で拭う。  悲しい気持ちになると、もっと悲しいことを思い出した。 (ルシアン様のブローチ……どうしようっ)  レオナールに、大切なブローチを奪われてしまった。  机においたまま、しまい忘れたから。 「僕のせいだ……っ」  ルシアンが知ったら、エマに失望するかもしれない。  そう思うと胸が締めつけられて、涙がポロポロと流れていく。  エマはシーツを頭までかぶり、肩をふるわせて泣いた。 「……まあ、エマ様。どうなさったのですか?」  ナタリナの驚いた声が聞こえる。  彼女は優しく背中をさすりながら、エマに問いかけた。 「エマ様。お加減が悪いのですか?」 「ううん」 「それでは、どうかお顔をお上げください。お食事を召
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第128話 手紙

    (誰が、僕の拘束を解いてくれたんだろう……)  エマがいまこうして自由なのは、誰かが助けてくれたからだ。 (僕のはしたない姿を、誰かに見られたのかな……たとえば、ダリウ殿下とかに……)  思い至った瞬間、胸が抉られるように痛む。  もし、レオナールから受けた仕打ちが明るみに出れば、婚約は取り消されるかもしれない。  だけど一方で、玩具のように扱われ、辱めを受けながらも、オメガの性(さが)ゆえに快楽に溺れる姿は、浅ましく映っただろう。  あの惨めな姿を、侍女以外に知られるのは、耐えがたい屈辱だった。 「……ねえ、ナタリナ」 「はい」 「王子は、夜会から謹慎してるんだよね?」 「そうです」 「じゃあ……あの拘束具は、誰が外してくれたの?」  エマは顔を強ばらせて、ナタリナに尋ねた。  ナタリナは穏やかに微笑み、頷く。  「ご安心下さいませ。私が外しました」 「え? ナタリナが?」 「はい。『循環期の聖樹へ、聖花女以外は近づけません』と、お断りしたのですよ」  ナタリナは、エマの心配事を見抜いていたようだ。 「アルファである王太子殿下はもちろん、ベータの男も入ることはできませんわ。そして、聖花女は私ひとりですもの」 「ああ、そっか」  言われてみれば、ナタリナの言うとおりだ。王太子という身分の印象が強くて、彼がアルファであることを忘れていた。 「王太子殿下より道具はお借りしましたけど。エマ様のお体を清める際も、他の者の目に触れるようなことはしておりませんわ」 「ありがとう、ナタリナ」  エマはホッと息を吐き出した。  だけど、エマが拘束されていたことを、王太子は知っているのだ。レオナールがエマに対して行った、これまでの仕打ちについても、王太子へ報告が上がっているかもしれない。 (ダリウ殿下なら、きっと慎重に対処して下さるはずだ)  エマにとっては思い出したくない記憶ばかりだけど、自由になるためなら、事実を話す覚悟もあ
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第129話 ダリウの決意

    皇太子の使節団が帰国した翌日。  ダリウは南殿の執務室に一人でこもり、思案していた。補佐官たちは隣室に控えており、室内は静寂に包まれている。  数日前、馬上で皇太子ティエリーと取引を交わした。  政敵を片付けるための証拠集めを、デイモンド伯が手伝ってくれることになった。  おそらく、ティエリー側には何らかの思惑がある。だが、提示された見返りは、無茶な要求ではない。聖樹を一人手放すことにはなるものの、少なくともエマヌエーレにとって悪い話ではないはずだ。  ただ、デイモンド伯がエマヌエーレに付き従い、どのように動いているのかは分からない。  デイモンド伯からの依頼で、表向きエマヌエーレをダリウの公務に同行させる形にしているが、彼は王都視察でエマとは違う髪色をした女性と一緒にいた。しかも、その女性は婚約者であると、周囲に紹介したという。 (……考えても、詮無いことだ)  余計な詮索は、身を滅ぼす。  相手は、帝国の皇太子だ。素直に与えられる利益を享受するしかない。  問題は、愚弟レオナールだ。  使節団が帰国する日の明け方、非常識な時間帯ではあったが、デイモンド伯から極秘に報告を受けたのだ。  ダリウには、信じがたい内容だった。  レオナールがエマヌエーレを離れに軟禁し、食事も使用人の残り物のような粗末なものだけを与え、聖樹のための予算を私的に流用していたという。  侍女長の横領についてはのちに厳罰を下すとしても、何より許しがたいのは……。 「エマヌエーレを虐待していたとは……」  ダリウは苦々しく呟き、拳を握った。  エマヌエーレに抑制剤を与えず、わざと苦しませていたという。  聖樹を神聖視するこの国において、それは王家への叛逆にも等しい。  王族といえど、見過ごすことは到底できぬ罪だ。  何よりも、エマヌエーレに対して申し訳が立たない。  今すぐレオナールを問い詰めたかったが、デイモンド伯に止められた。 『王太子殿下。この事実を明らかにするのは、全ての証拠が揃った後です』
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