ティエリーは悪びれた様子もなく、テーブルを挟んだ向かい側の椅子に腰掛ける。 「報告書を読んでたのか?」 「ああ」 「それにしては、上の空だったようだが?」 ティエリーは笑いながら、ルシアンを見る。 テーブルに用意されていたグラスにワインを注ぎ、勝手に飲み始めた。 「で、その地味な袋は何だ?」 「野暮なことを聞くな」 ルシアンは素っ気なく答え、お守り袋を懐にしまいこむ。 「あの聖樹からもらったのか」 ティエリーが興味を示すが、ルシアンは黙っていた。 無視したのに、ティリーは興味深そうに尋ねてくる。 「何をもらったんだ? 手紙か?」 見せろ、と手を差し出すティエリーを、軽く睨む。 ルシアンが頑なに拒むのを見て、ティエリーは肩をすくめた。 「そんな顔で睨むな」 「……何か用があったんじゃないのか」 ルシアンが不機嫌な顔で尋ねると、ティエリーは楽しげな顔になった。 「なに、お前が王子と揉めたと聞いてな」 「その件は、すでに処理したはずだ」 「報告は聞いている。バカバカしい主張だったそうだな。尊い聖樹を、一介の貴族が案内に使うのは、冒涜だとか何とか」 ティエリーの言葉に、ルシアンは冷ややかに答えた。 「こじつけも良いところだ。王太子には話を通しているというのに、恥知らずにも抗議してくるのだからな」 「主人が無能なら、部下も無能か。さすが、ランダリエの問題児だ」 嘲笑を浮かべるティエリーに、ルシアンは苛立ちを含んだ声で答えた。 「ランダリエ王家も、あのような恥晒しをよく表に出せたものだ」 ルシアンは、ティエリーの前だからこそ、容赦なくレオナールを批判した。 「上位の者に媚び、下の者には横柄にふるまう。俗物な小物だぞ、あれは。王族の権威に増長し、自惚れが強い……君の名を出して、ようやく静かになったくらいだ」 奥庭園で会った時、レオナールは明らかにルシア
Last Updated : 2025-08-01 Read more