All Chapters of そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜: Chapter 61 - Chapter 70

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16.色々と予想外です!⑤

頼綱《よりつな》から解放されて、床のカバンを手に取ると、私は半ば逃げるように自室の扉を開ける。 後ろから付いてこられたら拒み切れる自信がなくて、慌てて扉を閉ざそうとしたら「すぐ夕飯だからね」 閉め切る直前、頼綱の声が背中に飛んできて、私はビクッと身体を震わせてから「はいっ」と優等生みたいな返事をして、いそいそと扉を閉ざす。 ひとりになって佇むと、ふわりとどこからともなく頼綱の香りが漂って。 さっき抱き寄せられた時の移り香だと思い至った私は、真っ赤になってその場にヘタり込む。 もぉ、何あれ、何あれ。 いきなり抱きしめてくるとか反則だよっ! 思いながら握りしめたままのカバンにふと視線を落としてから、ハッとしたように荷物をかき分けて底に入れた青いふたの容器を引っ張り出す。「よかった、汁、漏れてない」 ホッとした途端現金にもグゥッとお腹が鳴って、私はすぐに夕飯だと言われたくせに、無意識にタッパーのフタを開けてしまう。 一応1日持ち歩いてしまったし、と思って鼻を近付けてクンクンにおいを嗅いでみて、美味しそうなにおいに「大丈夫そう」ってホッとする。 そのまま半ば条件反射みたいにひとつつまみ上げ……ようとして手洗いがまだだったとハッとして手を止めた。 うー、またお預けかぁ。 そう思って肩を落としたところで、さっきカバンをあさったとき無意識に中から取り出して床に置いた携帯のお知らせランプがバイブ音とともに点滅し始めて。「あ……」 そういえば大学で講義を受けるのにマナーモードにしたまま色々あって、オフにするのを忘れていた。 何だろ? 思ってタッパーにフタをし直してから、おもむろに携帯に手を伸ばす。「寛道《ひろみち》……」 からの着信だった。 何の用かしら? 通話ボタンを押して「もしもし」と応答したら『花々里《かがり》、無事か!?』とか。
last updateLast Updated : 2025-07-04
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16.色々と予想外です!⑥

 だって今日 寛道《ひろみち》としたことで最大のイベントごとってカボチャのはずだし。 それ邪険にされるとか有り得ないよ。 そう言おうとして、またしてもハッとある事を思い出して、「あ! お母さんのお見舞い!? それも寛道としか行ってないよ?」 せかせかとそう付け加えたら、『それもっ、今はいいんだよ!』と一蹴されてしまった。「じゃあ、色々って……何? さっぱり分かんない!」 言い捨てて電話口で首を傾げたら『お前、あの男に抱きしめられたって……。その後とか……ほ、他には……っ』って何故か歯切れ悪く言われて、ブワリと身体に熱がこもる。 そ、そこ、掘り下げてきます? 自分もいきなり抱きしめてきたくせに? そんなことを思いながら、私はしぶしぶ白状することにした。「は……」『は?』「は、……鼻水はっ! 寛道にしかつけてないからっ!」 頼綱《よりつな》との時は鼻を打ったりしなかったし、涙目にもならなかったから大丈夫! そう言って胸を張ったら『はぁ!? お前、俺に鼻水つけたのかよ!』って……。 だからあの時散々そう言ったじゃない! ムッとして電話に向かってベーっと舌を出したら、見えていないからか、寛道が気持ちを切り替えたみたいに言ってきた。『あー、まぁあれ。そのことは明日また学校行きながら聞くから』 そのことって?と考えてから、もぉ、しつこいなぁと思って、「鼻水は洗濯すれば落ちるでしょう? 許してよぉ」と言ったら、『バカっ! 誰も鼻水のことなんて話してねぇし。俺が気にしてるのはお前があの男と……』って言いかけて。『あー、もうっ、とにかく! 明日また今朝のところで待ってるから。あそこぐらいまでは迷わず出てこいよ? 分かったな!?』 って、一方
last updateLast Updated : 2025-07-04
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17.お兄ちゃん気質のあの人①

 昨夜も頼綱《よりつな》と一緒の部屋で寝る寝ないの攻防戦があって……。 私は昨日も何とかっ! 這う這うの体《てい》でお引き取り頂いたの。「あのっ、私たち、結婚してるわけでも……ましてやお付き合いしているわけでもないのでっ」 ――婚姻届も保留してますよね⁉︎ 付け加えるようにそう言ったら、案外すんなり引き下がってくれて。「そうか。花々里《かがり》は順番を重んじるタイプなんだね。承知した。俺もなるべく筋を通すよう配慮しよう」 どこか清々しいぐらいの引き際の良さにホッとしたのも束の間、告げられた言葉にちょっぴりソワソワ。 これできっと主従関係にある限りは添い寝を迫られることはなくなる、んだと……思う。 思うけれど、「なるべく」「配慮しよう」というのが気になるところ。 頼綱って、何を考えているのか読めないところがあるから。気を抜いていたら斜め上からの攻撃がありそうで怖い。 昨夜のやり取りのせいで、せっかく寛道《ひろみち》が頑張ってくれた健闘も虚しく、お母さんのサインをあっさり取り付けてきたりしそうな気さえして。 お母さん、流されやすいもんなぁ。  美味しいものとかちらつかされたら特に危険! そんなこんなを思っていたら、ないって言い切れないところが怖くなる。 頼綱って、いわゆるヤンデレなんじゃない?と思うことが多々あるから油断できない。 そこでふと、昨日の怒涛の着信履歴を思い出してゾクリとする。 ***  なんてことを考えながら歩いていたら。「おはよう、花々里。迷わず来れたとか感心じゃん。――……ってオイ! 無視かよ!」 いつの間にか寛道との待ち合わせ場所にたどり着いていた――ばかりか通り過ぎてしまったみたいで、慌てた様子の寛道に腕を掴まれた。 途端、昨日頼綱に、寛道に掴まれた腕のアザに口付けられたのを思い出した私は 「ダメ!」  言って、慌てて寛道の手を振り解いた。 あまりに強く突っぱねてしまって、ハッと
last updateLast Updated : 2025-07-04
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17.お兄ちゃん気質のあの人②

 そのことに居た堪れなくなった私は、右も左も分からないくせに後先考えずに走り出して。 寛道《ひろみち》がハッとしたように「花々里《かがり》!」って呼び止めてきたけれど、全部全部無視してただがむしゃらに全力疾走をした。 もう、今日は大学……行きたくない。 行きたくても、自分が今どこにいるのかも分からない現状では、到底行き着けやしないのだけど――。*** しょぼーんと1人、よく分からない住宅街をトボトボと足を引きずる様にして歩く。 どうして今日に限って私、パンプスなんて履いてきてしまったんだろう。 ヒールが高いわけではないけれど、スニーカーほど歩くのには適していないそれは、闇雲に歩くには向いていなくて、かかとの辺りが擦れてきてちょっぴり痛い。 履き慣れた(と思っていた)靴でも、靴擦れって出来ちゃうんだ、とかどうでもいいことを考える。 と、突然カバンの中の携帯がブルブル震えて。 寛道だったら出ないって思ったけれど、画面に表示されているのは小町ちゃんだった。「もしもし?」 幼なじみの名前を見た途端、気が緩んで泣きそうになる。それを堪えながら電話に応じたら、『花々里ちゃん、今、どこ!?』 と、小町ちゃんにしてはややヒステリックな声が聞こえてくる。「……分かん、ない」 キョロキョロとあたりを見回してみたけれどこんな景色、見たことがない……と思う。 御神本邸《みきもとてい》の辺りほど一軒あたりの敷地は広くなくて、むしろ割と見慣れたサイズ感のある家々が建ち並んでいる。 あっちの方に見えるアパートも、4世帯しか入れないような2階建てで。 自分が母親と住んでいたのもあんな小規模なアパートだったなとふと思って、何だか無性に懐かしくなる。『迷子になってるの?』 ややトーンダウンした声で問いかけられて、小さくうなずいてから、電話じ
last updateLast Updated : 2025-07-04
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17.お兄ちゃん気質のあの人③

 そう思って慌てて顔を上げたら「あ!」って思う。 このキラッキラのまぶしいほどの金髪と、嫌味なほど整った顔。 私、知ってる。「とり天の研修医さん!」 隠れ家的料亭『あまみや』で出会った、鳥なんとかという名前の、ピカピカの天ぷら衣みたいな煌びやかな頭をした研修医さんだ! そう言いたかったのに、色々すっ飛ばした結果情報が錯綜してしまった。 私の失礼な発言に、一瞬目を見開いた〝とり天〟さんが、「何だよ、それ」ってつぶやいて。 さすがに怒られる!?って思ったけれど案外穏やかな声音で噛んで含めるみたいに「とり天じゃなくて……鳥飼《とりかい》、な?」って言いながら、私の手を引いて立たせてくれる。 そうだっ。 鳥飼さんだ。鳥飼……確かサザエ? んー。何か違うな。 そもそもそれ、多分女性の名前だし。「鳥飼……ナミヘイさん?」 そう言ってみたものの、4文字はどこか違和感がある。確かサザエみたいに3文字だったのよ。「んー、4文字じゃなかったですね。あ! そうだ! ――カツオさん? マスオさん? あ、タラオさんだったかもっ!」 言いながら恐る恐るすぐ横に立つ長身の彼――多分頼綱より数センチ高い?――を「どれが正解でしたっけ?」と見上げたら、「どれって言われても。どれもこれも掠ってもいねぇんだけど?」って苦笑された。「正解は、鳥飼奏芽《とりかいかなめ》、な?」 言われて、母音のところだけで考えると、「ああえ」になる「サザエ」が1番近かったんだ! いい線まで思い出せてたのに惜しかったな!?と思う。 そんな私を横目に、「で、あんたの名前は花々里《かがり》ちゃん、で合ってんだろ?」とか。 さっきも思ったけど、私、自己紹介した覚えないのに、何で知ってるの! 研修医っていうのは世をしのぶ仮の姿で、本当は興信所の人か何かなんじゃないですかっ⁉︎ そう思って
last updateLast Updated : 2025-07-05
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17.お兄ちゃん気質のあの人④

 そう思ってオドオドしたら、「そういや甘いの好きか? さっき職場からもらったシュークリームあんだけど」ってセンターコンソールに置かれていた小さな袋を差し出されて。「俺そんな甘いの好きじゃねぇし、やるよ」 ――どうせ妹に食わせようと思ってたし。 ボソリと付け加えられた言葉は、袋の中からふわりと漂った甘い香りにかき消された。「あ、あのっ、じゃあ、こっ、後部シートでっ」 シュークリームに目がくらんで、恐る恐る譲歩案を提示しながら袋を受け取る。そうしながら、窺い見るように「とっ、ところでこの車、飲食禁止とかじゃない……です、よ、ね?」と付け加えたらクスクス笑われた。 「?」 汚れるからダメ、とか渋い顔をされるなら分かるけれど、笑われるのは意味分かんない。 そう思ってキョトンとした私に、「いや、前に御神本《みきもと》先輩が言ってた通りだなと思ってさ」とか。 ちょっと待って、頼綱《よりつな》、何言ったの!?「別に食ってくれて構わねぇよ。――あと、一応断っとくけど助手席に乗ったからって俺、あんたのことどうこうしようとは思わねぇからな?」 ソワソワしながら後部シートに腰掛けた私に、「さすがにそこまで俺も飢えてねぇわ」って鳥飼《とりかい》さんが吐息を落として。 「飢えてない」のワードだけやけに耳に残った私は、「いま鳥飼さんが腹ペコじゃなくて本当によかったです!」って微笑んだ。 お腹いっぱいだからシュークリームくれたんですものね? ニコニコした私に、鳥飼さんが瞳を見開く。  私はそんな彼を見上げながら、さっき思ったことを口にした。「……助手席は彼女さん専用シートってイメージなので後ろがいいんです」 助手席に座ったらどうこうされるとかは全然思ってなかったですけど……確かに真横で美味しそうなもの食べられたりしたら、「やっぱ俺にも一口」になる可能性ありますもんね。さすが鳥飼さん。先見の明ってやつですね!と心の中で付け加え
last updateLast Updated : 2025-07-05
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17.お兄ちゃん気質のあの人⑤

 それに気づいたからこそ私、さっき居た堪れなくなって思わず逃げて来たんだ。 少し気持ちが落ち着いたら……ちゃんと寛道《ひろみち》と話をしないといけないよね。 そう思った。 *** 「それ甘そうだし飲みもん要るだろ?」 聞かれて、アーンと開けていた口を慌てて閉じて、鳥飼《とりかい》さんに視線を移す。 危ないっ。突然お預けみたいなことされた?からヨダレが垂れちゃうところだったわ!「あるんですか?」 普通なら「お構いなく」なのかもしれないけれど、あるなら欲しいな?と思ってしまうのが私という人間なわけで。「今はねぇけどちょっと行ったトコにコンビニがあるから寄ってやるよ」 とか。 わざわざ寄り道していただくのはさすがに申し訳ないかも? そう思って「あ、それなら大丈夫です」って言ったら「ま、遠慮すんな。俺も買いたいもん出来たし」ってククッと笑われた。 この人、きっと〝人たらし〟さんだって思ってしまう。 だって何だか痒いところに手が届く至れり尽くせりぶりなんだもん。「妹さん、きっと鳥飼さんのこと大好きれふね」 シュークリームにかぶりつきながらモゴモゴとお行儀悪く言ったら、「さぁそれはどうだかね」と意味深に返された。 私には兄はおろか姉も弟も妹もいない、根っからの一人っ子だからよく分からないけれど、漫画なんかだとハンサムなお兄さんってポイント高いと思うんだけどな? 禁断の兄妹愛ものとか結構あるじゃない? でも幼なじみ同様、実際はやっぱり漫画みたいにはいかないものなのかしら。 そんなことを思っていたら「うちの妹はさ、俺より他所の兄貴に懐いてっから」とか……何それ何それ、めちゃくちゃ面白そうなんですけどっ!「よ、よそのお兄さんって何ですか!?」 言いながら前のめりになったら、「
last updateLast Updated : 2025-07-05
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17.お兄ちゃん気質のあの人⑥

 鳥飼《とりかい》さんが寄ってくれたコンビニは、以前 頼綱《よりつな》と一緒に立ち寄ったことのある店舗な気がして思わず身を乗り出す。 じっと目を凝らしてみるけれど、あの夜、頼綱が飴を買ってくれたところのようでもあり、違うところのようでもあり。 前に寛道《ひろみち》からチェーン店を目印に道を覚えるのは花々里にはハードルが高いと言われたのを身をもって実感する。「何飲む?」 こちらを振り返った鳥飼さんにそう問いかけられて、「あ、私もっ」って動こうとしたら、「ソレ持ったまま?」と食べかけのシュークリームを指さされて苦笑された。「あ……」 確かにこれを手にしたまま店内には入れそうにない。 一旦もとのパッケージに戻そうかとも思ったけれど、たっぷりと中に入ったクリームがこぼれ落ちてしまいそうでもったいない。「あ、あのっ」 それでも何とか現状を打開しようと思考をフル回転させてみたけれどダメで。「俺が買ってきてやるから大人しく待ってろ。な?」 ついには鳥飼さんにそう見切りをつけられてしまった。「で、何にする?」 再度問いかけられた私は、シュークリームを片手に鞄からゴソゴソとお財布を取り出して、「カフェラ……」と言いかけてから「ち、ちっさな牛乳でっ」お願いします……とゴニョゴニョ語尾を濁らせた。 レギュラーコーヒーが1番安価なのは知っているのだけれど、私はコーヒーにはミルクがたっぷりじゃないと飲めないお子ちゃま舌だ。 かといって、一番好きなカフェラテは高いし。 頼綱のところへ移り住んだことで色々曖昧になっているけれど、私、沢山していたバイトを続けるのは無理っぽくて辞めたし、頼綱のところの住み込みのバイトは、よく考えてみたら現金収入になるのか否かさえも分からなくて。 冷暖房完備の快適な一軒家に間借りさせてもらっている上に美味しい食事付き。 この上さらにお給金を望んだりしたら、バチが当たる気がする。 となれば、
last updateLast Updated : 2025-07-05
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17.お兄ちゃん気質のあの人⑦

 途端キュン!と心臓が跳ねて、手懐けられたワンコよろしく見えない尻尾を振りそうになった私は、即座に頼綱《よりつな》に申し訳ない気持ちになって焦る。 何これ。何これ。どんだけお兄ちゃん気質なの、鳥飼《とりかい》さん! そう思ったと同時、頼綱が言った、「鳥飼はダメだ」って言葉が、頭の中で警鐘を鳴らすみたいにこだました。 ***  シュークリームを食べ終えて、ほうっと吐息を落としてからカフェラテを口に含んだら、ほんのりビターな後口が喉を伝ってほっこりする。 生クリーム仕立てのミルクのおかげで、コーヒーの苦味がまろやかになるからカフェラテって好き。 鳥飼さんは私が食べ終わるまでの間、車を出すつもりはなかったみたいで、ご自身も運転席に座ってレギュラーコーヒーを飲んでいらして。 ブラックが飲めるってだけでもやっぱり年上の男性は違うなぁと変なところに感心してしまう。 と、ミラー越しに鳥飼さんと目が合って、思わず「ひっ」って言ったら思い切り笑われてしまった。「取って食やしねぇからそんな怯えんなよ」 尚もクスクス笑われて、「そういうつもりではっ」と口ごもる。 年の差のせいだけじゃないと思うけれど、鳥飼さんはきっと私のことを異性とは思っていない気がする。 強いて言うならば、先輩の家の迷い犬を保護しました、的な感覚なんじゃないかしら?と思ったりして。 さっき頭を撫でられた時、そういうオーラをひしひしと感じて尻尾を振りそうになった私だったけれど、犬扱いは悔しいのであえて口には出さない。「食い終わったんなら靴脱いで後ろ向きでシートに膝立ち、な?」 まるでワンコの躾でも始めるかのような口調でそう言って私の方を振り向くと、身振り手ぶりで回れ右をして背もたれを掴むように指示される。 その状態でシートへ膝立ちになれと言われた私は、さすがに戸惑ってしまう。「なっ、何でそんなこと」 しなくちゃいけないんですか?って聞こうとしたら、コンビニの
last updateLast Updated : 2025-07-06
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18.便利だなんて思えません!①

 今、頼綱《よりつな》が配属されている先は小児科ということだったけれど、仕事の邪魔をするわけにはいかない。 私は迷惑ついでに鳥飼《とりかい》さんにお願いして、〝頼綱のお仕事が終わるまで総合案内付近で待っています。携帯は壊れて繫がりません。(花々里《かがり》)〟 というメールを送ってもらって、とりあえず正面入口を入ってすぐのロビーに居座ることにした。 本当はカフェとかに入れたら美味しいものも注文できて嬉しいのだけれど、無駄遣いは避けたい。 鳥飼さんは「一緒にいてやろうか?」と言ってくださったけれど、先刻仕事帰りだと言われたのを覚えていた私は、夜の勤務明けだよね?と思って丁重にお断りした。「帰ってお休みになられてください」 けどなぁ、としぶる鳥飼さんの背中をグイグイ押しながら、頭の中ではこの人と一緒にいるところを見られたら、頼綱の反応も怖いのよぅ、とか手前勝手なことを思っていたりして。 頼綱から、鳥飼さんには関わっちゃいけないって言われていたのに思いっきりお世話になってしまった。 バレたら絶対機嫌悪くなるよねっ? とは言え、メールを鳥飼さんに送ってもらっている時点で、彼と何らかの接点が生じたことはバレバレだとは思うのだけど。 ひーっ! 返す返すも携帯を壊してしまったことが悔やまれる。 そんなに使うほうではないと思うのだけれど、やはりあって当然のものがないというのは不便なもので。 頼綱の勤務が終わるのは夕方以降だし、少し病院を抜け出して携帯ショップに行くことも考えたりしたのだけれど、手持ちのお金が心許ないのと、だからと言って通帳の中身もあまり減らしたくないのとで二の足を踏んで。 そもそもここに1番近い携帯ショップがどこにあるのかも分かんない。 結局私はひとり、ぼぉーっとロビーで人間観察に勤しむ以外ないみたい。 病院なんて滅多に来ないから知らなかった。 平日の朝からこんな老若男女問わず、たくさんの人が出入りしてたんだ! たまに風邪なんかでお世話になる、小さな病院の待合室みた
last updateLast Updated : 2025-07-06
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