「陛下にお願いしたい一つ目は……」 アビは、まだクロに対し跪いたまま、クロの顔を見上げ言った。「この世界と理久さんの世界を結んでいる魔法陣は、あのサランデの花を絞った汁が主成分で描かれております」 アビは、今いる自分の亡き祖父の魔法研究部屋の壁に飾ってある沢山の種類の植物の中から、一つの紅い花を指さした。 確かにあの魔法陣は、紅い色をしていた。 そしてアビは、眉間を寄せ話しを続けた。「サランデの花は昔は色々な所にあったそうですが皆が乱獲して、今はデスタイガーの領地にしか咲いてないそうです。手に入れる事は今や至難の業。ここは陛下の御力、外交力がどうしても必要です」「デス……タイガー……」 今度は、クロが右手で剣を握ったまま眉間を寄せ様子がおかしい。 理久は、クロの左腕に抱き締められたまま、クロの顔を見上げた。「理久……デスタイガーとは、読んでそのまま虎獣人の事だが、凶暴で色々な所で暴れ回っている厄介な連中だ。過去に何度も俺の国と戦争してきて今は協定を締結して休戦中なんだが……大丈夫だ、サランデの花は俺が必ず何とかする!」 クロのその言葉に、理久は唖然とした。 デスタイガーと、如何にも凶悪そうな名前もさることながら、このクロの世界が、理久の世界、特に平和な日本とは違うんだと言う事をあらためて知ったから。 そんな理久の気持ちを読んだのだろう…… クロが、右手の剣を自分の腰の鞘に戻し、理久を抱いたまま、そっと理久の左頬をクロの右手で触れたまま優しい声で言った。「理久……やはり無理はするな。この世界は理久の世界とは違う。やはり俺が理久、お前の世界に……」 クロが理久を思い、王位を捨てて理久の世界に行くと再び言いかけた。 しかし理久は、その理久の頬に置かれたクロの手に、理久の左手を重ねて握りその言葉を遮った。「クロ……俺なら大丈夫。俺はもう覚悟を決めたから。でも、クロが……デスタイガーとか、クロが危ない目に合うんじゃ?」 理久の、クロの世界に移住して、クロのそばで生きるという覚悟は揺らがない。 でも、何故かイヤな予感もして、本当にクロが心配だった。 一瞬クロは、理久からクロの手の甲を握られただけで顔を赤らめ、嬉しくて犬耳がピンと立ち、無意識に尻尾を何度か振ってしまったが…… そんなクロの事を、思わず理久がかわいい……と思った次の瞬間
Last Updated : 2025-08-09 Read more