All Chapters of 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~: Chapter 181 - Chapter 190

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181.祝福の風と、折れた心 

アンナ王女side婚姻の儀を終え、私は一人、ドレスから夜会用の薄い服へと着替えをしていた。窓から吹き抜ける爽やかな風が、私の人生の新たな門出を祝福しているようだった。「これで晴れてルシアン様の妻になれたのね。ルシアン様の妻、きゃーーー!」私は、思わず一人で声を上げて喜んだ。結婚したとはいえ、これまで二人きりでゆっくりと過ごしたことはなく、今日、この日まで現実味がなかった。水の儀式での出来事を思い出す。浅い水路を歩く際、足元がおぼつかなく苦戦していると、ルシアン様が微笑んでくれた。「アンナ、転ばないようにしっかり支えるから、僕の腕に掴まって。」それまで添える程度に触れていた腕を、ルシアン様が差し出してくれたおかげで力強くギュッと握った。その瞬間、足元に安定感が増し不安なく前に進めた。そして、何よりルシアン様に支えられ、彼の腕の温かい感触を直に感じたことで、私の幸福感は最高潮に達していた。(ルシアン様と結婚できたなんて本当に幸せ。きっと今、私は世界一幸せな花嫁だわ。)天にも昇る気持ちで、今もまだ幸せの余韻に浸り、足が地についていないかのようにふわふわと夢見心地だった。「ルシアン様はどこにいるのかしら。着替えも終わったし、ルシアン様に早く逢いたいわ。」
last updateLast Updated : 2025-10-03
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182.愛の告白、永遠の誓い① 

アンナ王女side「アンナ、待ってくれ。アンナ!」遠くからルシアン様の声が聞こえる。私の視界は涙でぼやけているけれど、彼が私を追いかけてきてくれていることは理解できた。(ルシアン様、なんで、何故ですの?なぜ、婚姻の儀を終えたばかりの今日、あの人と、あんなに親密な姿を見せるのですか……。)胸に突き刺さるような痛みから逃れたくて私は必死で走っていた。ドレスの裾が足に絡まり、息は切れ切れ。それでも、この苦しい感情から一刻も早く逃れたかった。しかし、ルシアン様の足は速く、あっという間に追いつかれ柔らかな手が私の手首を優しく掴んだ。私の瞳は既に涙で濡れており、こんな醜い顔を見せたくなくて私はずっと俯いていた。「アンナ、嫌な気持ちになったならすまない。でも葵とは何もないんだ。君が想像するような関係ではない。」その声は優しさに満ちていたけれど、私の心にはまだ疑念の影が深く残っている。ルシアン様の口から出る「葵」という呼び方が、私の心をさらに抉る。「葵?ルシアン様は、葵様のことを呼び捨てにするのですか。そんなにご親密な仲なのですか。」「違う。私だけでなく、サラリオ兄さんやアゼル兄さん、そしてキリアンも『葵』と呼んでいる。アンナが想うような、男女の仲ではない
last updateLast Updated : 2025-10-03
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183.愛の告白、永遠の誓い② 

「それでも、それでも……私は、胸が苦しいです。ルシアン様が他の女性に触れる姿を見るのは、息が詰まってとても切ないです。」私は、俯いたまま本心を打ち明けた。私の声は震え、涙が止めどなく溢れ落ちる。「アンナ、すまない。本当にすまない。でも、僕が女性としてみているのはアンナで、生涯をかけて大切にしたいのもアンナなんだ。」「え……」その瞬間、ルシアン様のもう一方の手が私の背中に触れて、勢いよくルシアン様の胸の中へと導かれていった。彼の逞しい腕が私を包み込み、その温もりが私の心をゆっくりと溶かしていく。走って追いかけてきてくれたルシアン様の胸の鼓動は速く、肌は少しだけ汗ばんで熱を帯びていた。そして、私はルシアン様以上に速い鼓動で心臓がうるさく動いている。彼の胸の中で、私はただただ大粒の涙を流し続けていた。彼の服が私の涙で湿っていく。「結婚が決まってからここに来てくれた時、アンナは言ってくれたよね。『自分も王族の人間だから、理由や目的があるのは心得ている。だから、この決断が正しかったと僕が心から思えるように私が支える』と。あの言葉を聞いた瞬間、僕はこの先、アンナと一緒に行きたい、僕がアンナを支えたいと強く思ったんだ。」ルシアン様の声が甘く響き、私の心を深く揺さぶった。「ルシアン様……、すべ
last updateLast Updated : 2025-10-04
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184.愛の余韻と、女性同士の絆① 

アンナ王女side 夜会が始まり、私はルシアン様の隣でこの宴を一緒に楽しんでいた。ルシアン様は、私の手を優しく握り、慣れた手つきでエスコートしてくれる。煌びやかなシャンデリアの光が、私たちの姿を祝福するかのように降り注ぎ、楽団の奏でる優雅な音楽が宮殿のホールを満たしていた。初めて会った時から、ルシアン様は完璧な紳士の振る舞いでエスコートしてくれていたけれど、さきほど庭園で熱く抱き合ってキスをしたあとでは、彼から伝わる熱も、肌の感触も、すべてが違って見えた。彼の手を時折、ギュッと握り返すと彼もまた力強く握り返してくれる。テーブルクロスの下に隠れて周りからは見えない時も、私たちは手を繋いでお互いに密やかな合図を送り合っていた。その度に、私の胸は甘く締め付けられる。(はあ、ルシアン様からさっき、生涯を共にするプロポーズされちゃった。それに、それに、あんなに強く抱きしめられて……キャーーー!)庭園での彼の切実な言葉、熱い眼差しを思い出し、一人胸を高鳴らせて、周りの喧騒が全く聞こえていなかった。そんな夢見心地な様子に気づいたルシアン様が、私の肩をトントンと軽く叩き、心配そうに顔を覗かせる。「ね、アンナ。アンナ?どうしたの大丈夫?」ルシアン様の透き通った瞳と、綺麗な形の唇が私の視界いっぱいに広がり、私は恥ずかしさに溺れてしまいそうだった。そんなことを想っているのに、私の瞳は彼の唇一点だけに集中している。
last updateLast Updated : 2025-10-04
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185.愛の余韻と、女性同士の絆② 

アンナ王女side「アンナ王女―――――。」各自、席を離れて談笑がはじまり、誰もいないテラスで夜風にあたっているときの事だった。葵様が申し訳なさそうにこちらに近付いて声を掛けてきた。「先ほどは、私の軽率な行動で誤解を招くようなことをしてしまい、申し訳ありませんでした。」葵様は、涼しげな夜風が吹く中で深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にした。その姿は、心からの誠意に満ちていて、私も慌てて口を開いた。「葵様、頭を上げてください。私こそ勘違いとはいえ、取り乱した姿を見せてしまいすみませんでした。ルシアン様と葵様が親密そうで、つい嫉妬というか動揺してしまって……。」「……私とルシアンは、アンナ王女が想っているような関係では決してないです。彼は、アンナ王女のことを、心から大切に思っています。」「はい、ルシアンもそう言ってくれました。彼のことを信じています。ただ、やっぱり見ると動揺してしまいますね。でも、もう葵様のことを疑う気持ちはありませんので、気になさらないでください。」私が微笑むと、葵様も遠慮がちに小さく微笑み返してくれた。「葵様には感謝もしているのです。あの光景はショックでしたが、そのおかげでルシアン様の切実な気持ちも分
last updateLast Updated : 2025-10-05
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186.永遠の誓い、新たな王妃の誕生① 

葵sideルシアンがゼフィリア王国に行って三か月が経った頃、バギーニャ王国の問題は外交的な安定を迎え、私とサラリオ様の関係も公然のものとなっていた。そしてついに、サラリオ様が、国王陛下に私を正式に妻として迎え入れたいと宣言したのだ。私のことを売り飛ばそうとしていた国王陛下が、第一王子の妻に私を認めるのか気が気でなかった。私は緊張で小さく息を吐いたが、サラリオ様は一切の動揺を見せず、真剣な瞳で父である国王陛下に訴えかけた。国王陛下は、しばらく沈黙した後、私たちを交互に見つめ口を開いた。「国をまとめるというのは、生半可な気持ちでできるものではない。相当の覚悟と技量が必要だ。彼女を迎え入れたいのなら、お前が責任を持ってしっかりと教養と知識を叩きこむんだ。それが出来てから結婚を認めよう。」その言葉は私を認めないという拒絶ではなく、私たちに課せられた新たな試練であり、同時に未来への許可でもあった。私は感動に打ち震え、サラリオ様は深く頷き、その言葉を重く受け止めた。その日から私の生活は一変した。私は、王子たちが小さい頃から受けていた武道以外の教育を周りの力も借りて必死で学び、吸収した。膨大な歴史書、複雑な外交術、そしてこの国の文化と法。「葵様、あまり無理し過ぎては身体が壊れてしまいます。少し休んだ方が……。」侍女のメルが青ざめた顔で心配をしてい
last updateLast Updated : 2025-10-05
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189.【番外編】アゼルの恋の物語②

アゼルside 葵との恋が終わって五年後――この日は、バギーニャ王国にとって特別な日であると同時に、俺たち王子たちにとっても、長年の努力が報われる特別な日となった。「あなたたちは互いを愛し、信じて生涯を共にすると誓いますか?」「はい、誓います――。」神官の厳かな声が響き渡る中、サラリオ兄さんと葵は力強く誓いの言葉を交わした。この日、国内外の王族を招待して二人の婚姻の儀が行われた。ゼフィリア王国へ嫁いだルシアンも、義父である国王陛下と妻のアンナ、アンナの姉妹たちと参列した。彼らの顔には、祝福の一色でこの結婚がもたらした両国の確固たる友好が刻まれている。そして、両国と近隣であるルーウェン王国からも、国王陛下とリリアーナ王女をはじめとする王女全員が参列していた。(葵もついに結婚か――――――。)泉のほとりで微笑み合う二人を見て、深く息を吐いた。色んなことがあった。一時はどうなることかと思ったが、葵の決意と努力が実り、こうして祝福の場にいられることが何よりも嬉しかった。ゼフィリア王国への対応に一年、その後は父である国王陛下に認めてもらうため三年以上にわたり、葵は国の経済・文化などの教養や社交場のマナーなどを徹底的に叩きこまれた。俺たちが成人するまでに
last updateLast Updated : 2025-10-07
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