アゼルside「リリアーナ王女、本日はご出席頂きありがとうございます。」夜会の喧騒から少し離れたテラスで、夜風に当たっていた王女を見つけ、俺は声を掛けた。結婚式の華やかな光が、彼女の潤んだ瞳をきらりと反射させる。「あら、アゼル殿下。お久しぶりですね。」リリアーナ王女は、すぐにいつもの凛とした美しい顔で挨拶を返してくれた。その表情には、先ほどの影は一切見えない。「サラリオ殿下もご結婚されて、将来は殿下と葵様が国を引っ張っていくのでしょうね。」王女の言葉は、建前と本音が複雑に絡み合っていた。まるで、自分自身に言い聞かせているようにもとれる。俺の警戒心はさらに強くなった。「大変失礼なのですが、王女。先ほど婚姻の儀で複雑な表情を浮かべておられましたね。何か思う点がおありなのですか?」外交辞令をかなぐり捨てて単刀直入に切り込んだ。彼女が何かを企んでいるのなら、ここで早めに牽制しておくべきだと思ったからだ。俺がそう言うと、王女は一瞬だけ表情を氷のように固めて、その小さな身体を目立たない程度に震わせた。しかし、すぐに持ち直した。「ふふ、そんなことはありませんわ。感慨深くなっていまして。」
Last Updated : 2025-10-08 Read more