All Chapters of 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~: Chapter 171 - Chapter 180

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173.ルシアンの覚悟、それぞれの想い②

葵side「ルシアン、待って、待ってっ!!!!!」私は、息を切らしながら必死にルシアンの名を叫び、ドレスを引きずりながら懸命に走った。その姿を見て、ルシアンは優しく微笑んでその場に立ち止まる。「第一王子に寵愛されている姫が、そんな息も乱して必死に追いかけてくれるなんて光栄だな。」ルシアンの言葉はいつも通りだったが、その瞳の奥には私への気遣いが感じられる。「ルシアン―――。私もやっぱりルシアンに行ってほしくない。ルシアンの言うことは分かるけれど、それでもルシアンはここにいて欲しい。」私の声は震えていた。彼を失うかもしれないという恐怖が、私の心を締め付けていた。「葵、葵は前に言ったでしょ?『この国に来て、全く違う価値観に触れられたことに感謝していて、今とても幸せだ』って。だから僕も新しい場所で、全く違う価値観に触れてみようと思うんだ。」「でも……。」それ以上、言葉が続かなかった。彼の瞳に宿る、強い意志の光に、反論の余地がないように感じられたからだ。「それにね、葵は前の旦那さんの愛がなかったと言っていたけれど、アンナ王女は僕のことを心から応援してくれてい
last updateLast Updated : 2025-09-26
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175.アンナ王女の決意

アンナ王女sideバギーニャ王国に三度目の訪問をした私を、ルシアン様が出迎えてくれた。彼の顔には、この前よりも明るさを取り戻していたが、その瞳の奥には、わずかな影が残っているように見えた。「ルシアン様、庭園の花を見たいのですがご案内していただけますか?」「もちろんです。さっそく行きましょう。」ルシアン様が差し伸べてくれた手に、そっと自分の手を置く。ルシアン様の温かさが伝わってくると、それだけで興奮と恥ずかしさで心臓がバクバクと音を立てて騒がしかった。咲き誇る花々が私の高鳴る心を映しているかのようだ。「アンナ王女、この度は私との縁談を受けていただきありがとうございます。本来なら私が訪問すべきところを、ご足労いただき感謝します。」その言葉はしっかりしているが、どこかよそよそしく他人行儀だ。丁寧すぎる言葉遣いが、私との間に壁を作ろうとしているように感じられた。「ルシアン様。これからは夫婦になるのですから、そのような言葉遣いはやめてください。今後、私のことはアンナとお呼びくださいませ。あと一つ気になっていることがあって伺ってもいいでしょうか。「はい、なんなりと。アンナ王女。」私は、気持ちを落ち着かせようと小さく深呼吸をした。
last updateLast Updated : 2025-09-28
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176.アンナ王女の決意②

アンナ王女side「大丈夫、私も王族の人間です。私たち王族の結婚には、何かしらの理由や目的があるのは心得ています。ですので、迷われたうえでこうして縁談の話を決めて頂いたことを嬉しく思います。」私の言葉に、ルシアン様は驚いた顔をしている。なんと言葉にしていいか戸惑っているようだった。私はルシアン様の手を両手で握り、じっと瞳を見つめた。「今後は、このご決断が正しかった、良かったと思ってもらえるよう、私がルシアン様を支えます。ルシアン様はルシアン様のいる場所で力を発揮すればいい、ですので、その場所に是非ゼフィリア王国を選んで頂けませんか。私は、ルシアン様の隣で国がよくなっていく様子を一緒に感じていたいです。」ルシアン様の瞳にゆっくりと光が宿っていく。顔からも少しずつ影が消えていく。「アンナ王女。ありがとうございます。あなたはとても頼もしく強い方だ。」「アンナ、とお呼びください。」そう言うと、ルシアン様は初めて出会った頃のような笑顔で微笑みかけてきた。その笑顔は、心の奥底に閉じ込められていた光がようやく解き放たれたかのようで太陽みたいに眩しかった。「アンナ……あなたは賢くて強い。そして、とても美しい。」(え、美しい?私が?それに今、私のことをアンナ
last updateLast Updated : 2025-09-30
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177.婚姻の儀、新しい関係

サラリオside 約束の期限から一年になろうとしていたこの日、ルシアンとアンナ王女の結婚の儀が、バギーニャ王国の宮殿にある泉で行われた。翌月には、ゼフィリア王国で盛大に二人の結婚式を執り行うことになっている。最初は、ルシアンが愛する葵の代わりに行くことに強く反対していたが、アンナ王女が三度目に訪問した時の様子を見て、私の考えは変わっていった。「ルシアン様はどんな食事がお好みですか?」 「ルシアン様の好みはどちらですか?」滞在期間中、アンナ王女は事あるごとにルシアンに話しかけては、ルシアンの好みを知ろうとしていた。王女がルシアンに放つ眼差しは、こちらでも感じ取れるくらい愛情に満ちている。そして、ルシアンも彼女の質問に答える時にどこか嬉しそうに照れているようにも見えた。その二人のやり取りを見ていると、私の胸の中には温かい感情が広がっていった。(アンナ王女の態度が嘘や演技にはとても思えない。ルシアンも嫌がる振りもなく、少し喜んでいるようにも見える。この二人、いい相性かもしれない。)ルシアンの決断が単なる自己犠牲ではなく、葵のため、国の未来のため、そして何よりもアンナ王女の純粋な愛に応えるために、この道を選んだことに安堵していた。両国王もす
last updateLast Updated : 2025-10-01
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178.夕陽に誓う旅立ち① 

葵sideバギーニャ王国で婚姻の儀を終えたルシアンは、明日この地を旅立つ。今後はゼフィリア王国の人間として、アンナ王女と生涯を共にし、新たな王国の未来を背負うのだ。婚姻の儀を終えた夕刻、参加者は帰り、静まり返った庭園でルシアンは一人、夕陽に染まる景色を眺めていた。ルシアンの金色の髪は、夕陽に照らされてさらに光り輝き、まるで最後の輝きを放っているかのようだった。「ルシアン―――。」私の声に気づき、ルシアンが笑顔で振り返る。その笑顔は、どこか寂しげでありながらも、以前のような迷いや狼狽は一切なく、未来への希望に満ちていた。「葵。今日でしばらくお別れだね。僕はゼフィリア王国に行くけれど、いつでも会えるから。そんな寂しい顔をしないで。」ルシアンの優しい言葉に、私は胸がいっぱいになった。「ええ。アンナ王女のことを信頼しているし、ルシアンなら大丈夫、そう思っているけれど、これからは毎日のように会えなくなると思うと、やっぱり寂しいわ。」私の正直な言葉に、ルシアンは優しく微笑み、一歩近づいて私の肩に手を置いた。「葵、僕は葵と出逢えたから、この決断が出来たんだ。葵には、心から感謝している。僕の心に、新しい可能性と価値観の光を与えてくれたのは、他でもない葵だよ。サラリオ兄さんのことを頼む
last updateLast Updated : 2025-10-01
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179.夕陽に誓う旅立ち②

葵side初めて庭園で二人きりになったあの夜、ルシアンは国のために結婚することへの戸惑いと、国を離れる寂しさで狼狽していた。私もそんなルシアンを見ていられなくて、二人哀しみを分かり合うように静かに抱き合ったのだった。しかし、今目の前にいる彼は、力強く前を見据えているように感じられる。「婚姻前にアンナ王女が来た時に聞かれたんだ。『国のために結婚を決断したのか』って。そんなこと、妻になるアンナに言わせてはいけないことなのに……。」ルシアンは、遠くを見つめながらそのときの事を回想し、照れたように微笑んでいる。「だけど、アンナは僕のことを受け入れてくれたんだ。『自分も王族の人間だから、王族同士の結婚には、何かしらの理由や目的があるのは心得ている。だから、この決断が正しかったと僕が心から思えるように私が支える』ってね。王女を幸せに導くのが僕の役目なのに、これじゃ逆だよね。だから、これからアンナのことを見て、僕がアンナを支えようと思ったんだ。」ルシアンの表情は柔らかく、瞳は愛しい人を想いながら話す姿は、私の心を温かくした。彼の瞳の中には、もう過去の迷いはなくアンナ王女という新しい光だけが映っていた。ルシアンの決断が、誰かの身代わりでも、犠牲でもなく、彼自身の真の幸福に繋がることを確信した。「ルシアン、本当におめでとう。ルシアンの幸せを心から祈っているわ」
last updateLast Updated : 2025-10-02
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180.夕陽に誓う旅立ち③ 

葵side「ル、ルシアン様……。」別れを惜しみ、これからの幸せを願って手を握り祈っていたが、誰かの声に驚いてルシアンと共に勢いよく振り向いた。そこには、婚姻の儀を終えたばかりのアンナ王女が、驚きと戸惑いの表情で立ち尽くしていた。「ア、アンナ、これは違うんだ。」ルシアンは、瞬時に状況を察し慌てて弁明しようとした。私もまた、自分の軽率な行動を恥じ、急いで言葉を継いだ。「アンナ王女、私から説明させてください!」しかし、私たちの言葉は、アンナ王女の耳には届かず混乱させてしまったようだ。彼女の瞳は、みるみるうちに潤み、その大きな瞳には、悲しみと裏切りの色が浮かんでいた。「こ、婚姻の儀を終えたばかりだというのに、まさかこんな場面を見てしまうなんて……。少し頭を冷やしてきます。」アンナ王女はそれ以上私たちを見ることもなく、ドレスの裾を強く握りしめると、庭園の奥、夕闇が濃くなり始めた方へと一人駆け出してしまった。その小さな背中は、悲しみで満ちている。「アンナ王女――――。」私は思わず声を掛けようとしたが、ルシアンが静かに手で制した。彼は一瞬、深く息を吸い込むと、私に向かっていつものニコリとし
last updateLast Updated : 2025-10-02
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