All Chapters of 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~: Chapter 161 - Chapter 170

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161.ルシアンの提案と言葉の裏に隠された真意

サラリオside「今後、滞在中はサラリオは国王と直接話をして、自分はアンナ王女から話を聞いて二手に別れよう。」滞在二日目の夜、ルシアンが私の元へ来てそう告げた。確かに多くの情報がいるため、二手に別れた方が効率がいい。ルシアンの言う通り、翌日からは国王とアンナ王女の二人からそれぞれ話を聞くことにした。「国王陛下、この度は訪問を受け入れてくださりありがとうございます。」「いや、構わんよ。お父上は元気にされているかね。次期国王陛下が直々に来てくれるだなんて嬉しいことだ。」「ゼフィリア王国とは、今後とも友好関係を結んでいきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。つきましては、諸問題もろもろ平和的解決が出来るよう尽力していく次第です。」『諸問題』とはもちろん葵のことだ。葵を強制的に引き渡すことがないように現状の関係を維持したいと伝えると、国王は意図を理解したようで声に出さずニヤリと笑った。その笑みは、まるで私の手の内をすべて見透かしているようだった。「サラリオ陛下は、頭がよく平和的解決を望む人物だと聞いていたが、噂通りのようだな。私も、平和的に解決されることを望んでいるよ。」直接的な言葉には出さなかったが、発した言葉の裏には、様々な思惑が透けて見える。
last updateLast Updated : 2025-09-09
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163.王子の憂鬱と、乙女の勇気

アンナ王女side「ルシアン様、ルシアン様――!」名前を小さく呟きながら庭園と向かうと、遠くに椅子に腰を掛けて私を待っているルシアン様の姿が見えた。しかし、その背中はいつもと違い、どこか寂しげで覇気がなかった。「はぁ……どうすればいいんだ。やっぱり……」ルシアン様の独り言が、風に乗って私の耳に届く。元気がなく、何か思いつめたような表情をしている。いつも明るい太陽のように輝いているお方だと思っていただけに、その影のような表情は私の胸を締め付けた。「ルシアン様。」私が声を掛けると、彼は驚いたように振り返り、いつものような明るい笑顔を見せた。「アンナ王女、お待ちしていました。」愛しいルシアン様と庭園を歩いていると言うのに、先ほど見せた影のような顔が気になって話が耳に入らない。私の心は、彼が抱えているであろう悩みに、不安でいっぱいになっていた。「……王女、アンナ王女?」気がつくと、ルシアン様が心配そうな瞳でこちらを見つめていた。「ルシアン様?」「どうされたのですか?体調が悪いようなら部屋に戻りましょうか。」ルシアン様を心配していたのに、これでは私の方が心配をかけている。心の中の私が、叫ぶように激励を飛ばした。(アンナ、何をやっているの。あなたが心配されてどうするの。ここは、あなたの気持ちを伝えるのです―――)「ち、違うのです。まだ戻らないでください―――。」「え?」私は、ルシアン様の袖を掴み、泣きそうな目で顔を見上げながら言った。「さきほど庭に出てきた時、ルシアン様が何か思いつめたような顔で考え事をされているのを見てしまって。いつも輝いている私の王子様のルシアン様の悲しい顔を見るのは胸が苦しくて、それで……。」勢いあまって『私の王子様』と言ってしまったが、本当のことだから仕方がない。ルシアン様は、私の言葉に驚いて目を丸くしていた。そして、その瞳には、私の知らない深い悲しみが宿っているように見えた。私は、彼が一人で抱え込んでいる苦しみを少しでも分かち合いたいと強く思った。
last updateLast Updated : 2025-09-15
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164.二人の間にある壁

アンナ王女side 「ルシアン様ほどの方なら、人知れないご苦労や悩みがあることと思います。ましてや、私は隣国の人間です。出来ることはないかもしれない。」ルシアン様の袖を掴んだまま、震える声でそう告げた。彼の立場と、私の身分との間にあるどうしようもない壁が、私を打ちのめす。だけど、私の心は諦めきれなかった。「……それでも、自分に何か出来たらいいのに、元気にさせられたらいいのに、と思ってしまって。」彼の悲しみに満ちた瞳を見ていると、自分の無力さを突きつけられたような気がして、胸が張り裂けそうだった。「そんなことないです。アンナ王女、お心遣いありがとうございます。その気持ちだけで十分嬉しいです。」ルシアン様は、私の言葉に驚いて少しだけ戸惑った後、頭を下げてから口角を上げて笑ってみせた。しかし、その瞳はいつもの輝きを宿さず、深い悲しみを湛えたままだった。その笑顔は私の心をさらに締め付ける。この時、ルシアン様への思いが憧れから、真実の「恋」に変わったことに気がついた。今までももちろん大好きだったけれど、それは見た目や立ち振る舞いを遠くから眺めているだけで幸せという、手の届かない存在への憧れだった。しかし、今、彼の弱っている姿を見て、自分のように悲しくてつらい。彼の苦しみを私の手で取り除いてあげたいと強く願った。
last updateLast Updated : 2025-09-17
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165.色を取り戻した瞳

アンナ王女side「ごめんなさい。私、自分の立場も弁えずにでしゃばった真似を……。」自分の感情があふれてしまい、私は思わずそう謝罪して掴んでいた服の袖を離した。しかし、すぐに今度はルシアン様が私の腕を掴んできた。グローブ越しにルシアン様の手の感触が伝わってくる。なんでこんな時にグローブなんかしていたんだと、少しだけ自分を恨みながらも心臓は大きく跳ねていた。「アンナ王女のお気持ち、とても嬉しかったです。真剣に考えてみます。」(真剣に考える?何を?もしかして、私との恋?……いやいや、それはないわ。だってルシアン様から恋のような好意を感じていないもの。でも、でも、もしも、万が一、私の願いどおりだったとしたら……きゃーーーーー!!!)私の頭の中は、ルシアン様が迎えに来て、愛の告白を受けてめでたく結ばれハッピーエンドの展開が繰り広げられていた。庭園のバラの香りが、その妄想をさらに甘くする。そんな一人、舞い上がっている中、目の前のルシアン様は、とてもとても冷静で真剣な顔をして私に話しかけてきた。「詳しくは言えないのですが、私が国のために出来ることはなにか、どうすれば全てうまくいくのだろうと。と考えていて。自分の中で案はあるのですが、迷いもあるのです。」ルシアン様の言葉は、抱える重荷の大きさ
last updateLast Updated : 2025-09-18
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166.立ち塞がる壁、迫る期限

葵side私とキリアンは、国内の侍女や執事を集めて、薬草の知識や未病の大切さを丁寧に伝えていった。参加者たちの熱心な姿を見るたびに、きっとこの国の医療は変わる、そう信じてやまなかった。しかし―――――「……え?薬を作っても男爵や婦人が難色を示して嫌がっている?」この日、サラリオ様の執務室で貴族たちの反応を確認しようと皆で集まり、側近の報告を受けていた。側近は、申し訳なさそうな顔をして困惑しながら告げた。「はい、教えて頂いたとおりに行っても、庭に生えている葉っぱを肌につけるのも汚らわしいと嫌がっているようでして、薬に関しては苦くてとても飲めたものではないと吐き出してしまわれるそうです。」その報告に室内に重い空気が流れた。王子や侍女たちは、私への信頼からすぐに話を聞いてくれたが、他の者たちからしたら、馴染みのない得体の知らないものを飲まされる、肌に貼られることに拒否反応を示し、いくら効果を教えても役に立つことはないらしい。「まずは、薬学というものが怪しい物ではないと分かってもらうところから始めなくてはいけないのね……。」私の言葉は、力なく虚しく響いた。「葵。僕たちは薬学に馴染みがないから、病が治る、防げると言われても
last updateLast Updated : 2025-09-19
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168.水の誓い、そして深まる謎

サラリオside 「国王とは話をしたが、あまり報告できるような内容はなかった。国の課題を言うことは弱点を伝えることにもなりかねないから、警戒しているようだったよ。ただ、アンナ王女からは少し話が聞けた。」私が目配せをすると、ルシアンが話を続けた。「水の資源確保は求めることになるだろうと言っていた。服飾が盛んなゼフィリア王国では、製造の際に大量の水を使う。その水はバギーニャ王国から湧き出た水で、川を渡って流れ出てきたものを使っているそうで、そこをせき止められたら、死活問題だと。それと……。」「私たちからは以上だ。」ルシアンがそれ以上の説明をしようとしたので、私は話を止めた。ルシアンは驚いて無言でこちらをじっと見つめていたが、それ以上は言わなかった。「葵って悪い魔女みたいなイメージを持たれているね。」キリアンは小さく笑いながら葵をからかった。葵は、少し困ったような表情を浮かべている。「でも、誘惑はしていないけど、魅力にどっぷりハマった人たちはいるよね?」ルシアンは悪戯な笑みを浮かべて、私とアゼルを見ていた。私たちは、その言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった。私を含め、葵の魅力に抗えない者たちがここにいる。
last updateLast Updated : 2025-09-21
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169.愛の誓いと、夜明けの約束

葵sideコンコンッ―――話し合いが行き詰まった日の夜、部屋のドアをノックする優しい音が聞こえてきた。この時間に尋ねてくるのは一人しかいない。笑顔でドアを開け、サラリオ様を中へと招いた。彼は何も言わず、私の手を引いて力強く胸の中へと導いた。驚いている私を、サラリオ様は優しく髪を撫でてから、静かにこう言った。「葵、大丈夫か?昼間のことを気に留めているのではないかと思って。葵のせいじゃない。葵は巻き込まれているだけだ。だからこそ、みんな葵を救いたいと思うんだ。」私は、みんなが知恵を出し合ってくれているのに話が進まない状況に申し訳なさを感じていた。サラリオ様がそのことに気づいて、訪問してくれることも、私を安心させるために優しく抱きしめ言葉にしてくれることも、この上なく嬉しかった。彼の腕の中にいると、昼間の重苦しい空気が嘘のように遠ざかっていく。私たちは、傷を舐めあう猫のようにお互いの舌と舌を絡ませるキスをして、行き詰った課題の悩みを癒し合う。この瞬間だけは、目の前にいるサラリオ様のことだけで頭がいっぱいになっていく。彼の温かい唇が私の不安を吸い取り、彼の鼓動が私の心を安堵で満たしていく。ベッドに身体を倒すと、サラリオ様は私の着ている夜着の紐をゆっくりと、優しくほどいていく。目が合った時に微笑む視線に私の身体は熱くなる。私の肌が、視線が、頭が、サラリオ様を求めていた。
last updateLast Updated : 2025-09-22
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170.迫る期限と、決意の訪問

サラリオside執務室に夕焼けの光が差し込み、私の頬を赤く照らす。カーテンを閉めるために窓に近づくと、その先に、この国に葵が初めて訪れた時に通ったあの泉が目に入った。葵がこの国に訪れてから、一年半が経とうとしている。葵を父のいる王宮から連れ戻した日、国王たちが裏で葵の引き渡しの取引をしていたことを知った。私は激怒し、ゼフィリア王国の国王になんとか考え直してほしいと懇願をして、対策を練るために一年の猶予をもらった。女神を正しく導くことが出来ると証明するために、一年で何かしらの成果を上げると熱意に燃えていた。翌月から、葵とキリアンで侍女や執事を対象にした薬学講座を開いて、まずは貴族たちの間で薬学の普及させることに努めた。私とルシアンはゼフィリア王国に行き、国王が求める代替案を探りに行ったが、国王の口から聞くことが出来ず、大した収穫はなかった。薬学の普及を重点的に行うよう方針を変えたが、半年経ってから貴族たちに受け入れられていないと報告を受けた。何度も協議を繰り返したが、新しい対策は見つからず、約束の期限まであと二か月に迫り、私たちの顔には焦りと狼狽が見え隠れするようになった。皆、口には出さないが、諦めの気持ちが芽生え始めていた。「一体、どうすればいいんだ――――――。」私は、自問自答を繰り返していた。この国の未来、そして何よりも愛する葵の未来が、私にかかっている。自分の無力さと国を動かすことの大変さを痛感していた。コンッコンッ―――その時、静かにドアをノックする音が響いた。「はい、どうぞ。」「失礼します。」そんな私の焦りを感じ取ったのか、ある人物が部屋を訪れた。少し緊張した面持ちで手をギュッと握っている。しかし、その瞳は決意を固めたような強い光を宿し、私を真っ直ぐに見ていた。
last updateLast Updated : 2025-09-23
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