小さい頃から本が好きだった。本に書かれた内容を、頭の中に思い浮かべる。広大に広がる世界観に夢中になり、時間を忘れ読書に没頭した――――。書物に秘められた膨大な知識こそが、世界を動かす真の力だと信じていた。この五年で三人の兄さんがみな結婚をした。第一王子のサラリオ兄さんは葵と、第二王子のアゼル兄さんはルーウェン王国のリリアーナ王女、第三王子のルシアン兄さんはゼフィリア王国のアンナ王女。バギーニャ王国と隣接する二か国の王女と結婚したことで、世代交代がなされた兄たちの代になれば、外交はよりスムーズになり安泰だと言われていた。兄たちのおかげで、自分には王族からの縁談の話や結婚の圧力などはなく悠々自適な生活を送っていた。たまに影響力を持つ貴族の男爵から娘を結婚相手に考えて欲しいと言われることがあったがすべて丁重に断ってきた。恋愛に興味がないわけではないが、誰かに対して愛しいとか、好きという気持ちがどうやったら湧くのか分からない。僕の関心は未解明の歴史や古代文明の論理構造に向けられていた。「キリアン様、今日も研究ですか?」国立図書館の司書エレナに声を掛けられて小さく会釈を返した。エレナはいつも僕のことを気にかけて話しかけてくれる気さくで親切な女性だ。「ああ、今調べている内容が、国立図書館のほうが文献
Last Updated : 2025-10-13 Read more