All Chapters of 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~: Chapter 201 - Chapter 210

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201.【番外編】研究者キリアンと愛の謎

小さい頃から本が好きだった。本に書かれた内容を、頭の中に思い浮かべる。広大に広がる世界観に夢中になり、時間を忘れ読書に没頭した――――。書物に秘められた膨大な知識こそが、世界を動かす真の力だと信じていた。この五年で三人の兄さんがみな結婚をした。第一王子のサラリオ兄さんは葵と、第二王子のアゼル兄さんはルーウェン王国のリリアーナ王女、第三王子のルシアン兄さんはゼフィリア王国のアンナ王女。バギーニャ王国と隣接する二か国の王女と結婚したことで、世代交代がなされた兄たちの代になれば、外交はよりスムーズになり安泰だと言われていた。兄たちのおかげで、自分には王族からの縁談の話や結婚の圧力などはなく悠々自適な生活を送っていた。たまに影響力を持つ貴族の男爵から娘を結婚相手に考えて欲しいと言われることがあったがすべて丁重に断ってきた。恋愛に興味がないわけではないが、誰かに対して愛しいとか、好きという気持ちがどうやったら湧くのか分からない。僕の関心は未解明の歴史や古代文明の論理構造に向けられていた。「キリアン様、今日も研究ですか?」国立図書館の司書エレナに声を掛けられて小さく会釈を返した。エレナはいつも僕のことを気にかけて話しかけてくれる気さくで親切な女性だ。「ああ、今調べている内容が、国立図書館のほうが文献
last updateLast Updated : 2025-10-13
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202.【番外編】研究者キリアンと愛の謎

「君が今読んでいる本はなんだ?」僕の問いかけにエレナは、一瞬戸惑った様子を見せた。「これですか?これは恋の思いをつづった詩集です。思いを寄せる人と自分の身分差に諦めるしかないと思いながらも、どうしても忘れられない切ない気持ちを綴った本でして……。キリアン様には興味のないお話ですよね。」エレナは少し顔を赤らめると、開いていたページにしおりを挟み本を閉じた。「いや、そんなことはない。確かに今まで読んだことのないジャンルだが、本は想像力が豊かになるし、興味がない内容なんてないよ。」エレナにそう答えて礼を言って図書館を出た僕は、王宮に戻るとすぐさま宮廷図書館へ直行した。エレナが読んでいたような恋愛詩集を数冊見つけ、手に取ってみる。パラパラとページをめくると、ある詩が目に留まった。――――あなたのことを思うと胸が温かくなって、それでいて切なくて苦しい。あなたを知って私は恋を知った。好き、大好き、愛している。だけど叶わぬ恋だということも分かっている。だからせめて夢であなたに会いたい。そう思いながら今日も私は瞳を閉じる――――「愛している、か……。」僕自身がその言葉を口に出すと、まるで使い慣れない外国語のようにカタコトになって
last updateLast Updated : 2025-10-14
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203.【番外編】研究者キリアンと愛の謎

この日、アンナ王女が女の子を出産したと連絡があり、宮殿内は祝福ムードでいっぱいだった。「無事に産まれて良かったわね。本当に、おめでとう。」「ああ、今度王女が落ち着いたら、みんなで会いに行こうか。」朝食を食べ終わると、葵の横でサラリオ兄さんがぴったりと寄り添って座っている。腰に手を回し、結婚して三年が経つというのに二人の関係は結婚前と変わらず親密だった。(特別に愛しい人といると、人はあんなにも満たされた表情をするものなのだろうか。僕も、いつかあんな表情をする日が来るのだろうか。)そんなことを考えながら、僕は部屋を出て図書館へ向かった。二週間後、サラリオ兄さんと葵と一緒に産まれて来たばかりの双子たちに会うためにゼフィリア王国を訪れると、後ろから弾んだような、親しみのある声で女性に声を掛けられた。「キリアン殿下?お久しぶりです。」「ルル王女――――?お久しぶりです。」アンナ王女の妹で第三王女のルル王女が話しかけてきてくれた。彼女とは、以前初めて会った際に書物の話題で熱く盛り上がり、彼女がバギーニャ王国に滞在中は、図書館で書物の話ばかりしていた。彼女の探求心と本への深い愛情は、共感できるものばかりだった。
last updateLast Updated : 2025-10-14
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204.【番外編】研究者キリアンと愛の謎

「そういえばキリアン殿下が以前話されていた、『エルトリアの白い鳥』という幻想小説、私も読みましたよ!」ルル王女が興奮したように言う。僕が最近、その叙情的な世界観に夢中になっていると話したばかりだった。「なんと!王女も読まれたのですね。あの哀切な物語の登場人物たちの心の機微について、ぜひ意見を聞かせてほしい。」「ええ、私も読み終えた後、しばらくあの切なさに引きずられてしまいました。特に、主人公が周囲には何も言わずに塔に閉じこもる場面の描写が秀逸で……。」僕たちは、主人公の非現実的な行動と、それに込められた感情の深さについて熱心に感想を述べ合った。しかし、僕の顔が曇ったのを見てルル王女はすぐに気づいた。「キリアン殿下、どうかなさいました?」「実は、あの本は三部構成なのですが、僕の国の図書館には第一部と第二部しかなくて。調べたところ、どうやら既に廃盤になっているようで、結末が分からずにいるのです。物語の終着点を知りたいのですが……。」「そうなのですね。それは気になりますね。」翌日、滞在を終えゼフィリア宮殿を辞去する際、ルル王女は僕にそっと紙袋を差し出した。「キリアン殿下。どうかお受け取り下さい。」
last updateLast Updated : 2025-10-15
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205.【番外編】研究者キリアンと愛の謎

ずっと読みたいと思っていた本。もう知れないと思い諦めていた結末――――僕は時間を忘れ本の世界に没頭した。三百ページ以上ある分厚い本だったが、ゼフィリア王国から帰ってきてからというもの、物語の結末を早く知りたい一心で時間さえあれば本を開いて読んでいた。ある日、いつものように国立図書館の片隅でその本を開いていると司書のエレナに声を掛けられた。「あら、キリアン様。今日は文献ではないのですね。キリアン様が文献以外の本を読まれるなんて珍しいですね。」「ああ、これはずっと気になっていてある方に頂いたんです。貰ってからずっと夢中になっていて。その結末を知りたくてたまらなかった。」僕が答えると、エレナは一瞬、瞳の奥に微かな影を宿らせたように見えた。「そう、なんですね。」いつもなら、僕の読んでいる本について、もっと質問をして話を広げようとするエレナが、この日は小さく微笑むと、すぐにその場を後にした。それからというもの、エレナと話す機会は以前よりも減り、本や文献に没頭する時間が増えていった。ルル王女から貰った本も読み終えた数か月後。ルル王女がルシアン兄さんたちと一緒にバギーニャ王国を訪れた時に、今度は僕から王女が気に入りそうな本をプレゼントした。「ルル王女が以前お読みになった本の傾向から
last updateLast Updated : 2025-10-15
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208.【番外編】研究者キリアンと愛の謎

二か月後、ルシアン兄さんの家族と一緒に、ルル王女がバギーニャ王国を訪れた。ルシアン兄さんは、サラリオ兄さんたちと、最近の外交問題について真剣に話し合っている。自然と僕がルル王女をエスコートすることになり、庭園でお茶を飲みながら、最近読んだ本の話をしていた。「キリアン様から頂いた本、とても面白かったです。特に終盤は、今までの伏線が一気に回収されて爽快でした。」「僕も終盤が特に好きなんです。謎ばかりなんですが、しっかりと最後で丁寧に真実と誤解の裏側が書かれていていいですよね。あの続きが確か、ここから少し離れた王立の図書館にあるのですが、良かったら行きませんか?」「まあ、嬉しい。是非ともお願い致します。」ルル王女と馬車に乗り、図書館を目指していると、街の通りの向こうに見覚えのある横顔に気がついた。「エレナ?」「キリアン様!!」エレナは驚いて、僕とルル王女が一緒にいる姿を見て、一瞬で顔色を失い、逃げるように走り出してしまった。「ここで停めてくれ!ルル王女、本当にすみません。エレナは僕の大切な知人で、急いで話をしなければなりません。少しお待ちいただけますか?」僕はルル王女に深く頭を下げ
last updateLast Updated : 2025-10-17
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209.【番外編】研究者キリアンと愛の謎

「私のことは、もう、気にしないでください。――――私は、あなたのことを思うと胸が温かくなって、それでいて切なくて苦しい。」エレナは、目に一杯の涙を溜めて、あの詩集の最初の一節を嗚咽交じりの声で口にした。その声は、僕の心を強く打ち抜いた。エレナと会えなくなってから、あの詩集を何度も何度も読み、僕は全てを覚えていた。そして、葵の告白と、エレナの逃げた姿から、この切なさこそが「愛」なのだと確信した。「あなたを知って私は恋を知った。」僕が、詩の次の節を口にすると、エレナは驚愕して、足を止めて僕の方を見て振り向いた。涙で濡れた瞳が、僕を射抜く。そのまま、最後の節まで続けた。「好き、大好き、愛している。だけど叶わぬ恋だということも分かっている。だからせめて夢であなたに会いたい。そう思いながら今日も私は瞳を閉じる――――」「本、読んでくださったんですか?」エレナの瞳から、一筋の涙が溢れた。「ああ、エレナに会えなくなってから何度も。すっかり覚えてしまったよ。そして、わかったんだ。エレナ、ルル王女と僕は、エレナが想うような仲ではない。本が好きで、つい話し出すと止まらなくなるんだけれど、お互い気になっているのは、本の中身だ。そして、僕が、あの詩集を読んで思うのは、エレナ、君だ。」「キリア
last updateLast Updated : 2025-10-17
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210.【番外編】サラリオと葵

時は、サラリオと葵が婚姻の儀をした時まで遡る――――――ここから語られるのは、二人が国王と王妃になるまでの物語だ。 葵side「あなたたちは互いを愛し、信じて生涯を共にすると誓いますか?」私たちは、大勢の人に祝福されながら人生最高の日を過ごしていた。純白のウェディングドレスは、この数年間の努力と葛藤の重みそのもののように感じられた。私はこの日を無事に迎えられたことに安堵と感動をして、終始涙が止まらなかった。隣にいるサラリオ様の力強い誓いを聞きながら、異国で孤独に勉強漬けの日々を送った記憶が蘇り、込み上げるものを抑えきれなかった。「葵様、葵様とサラリオ様のお幸せを願っていましたが、本当にこの日が来るなんて……私はとても嬉しくて、嬉しくて……」すぐ側に控えていた侍女のメルも、私と同じように目を潤ませていた。「メルーーー!メルのおかげだよ、ありがとう。私がここに来た時から、メルがずっと側にいてくれたから頑張れたの。ありがとうね。」「葵様……」メルの涙に私ももらい泣きして、思いっきり抱き着いて感動に浸っていた。二人とも涙は止めどなく流れ、鼻をすする音だけで深い会話をし
last updateLast Updated : 2025-10-18
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