All Chapters of 愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~: Chapter 41 - Chapter 50

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41.魔法を操る異国の女①

バギーニャ王国での生活にも少しずつ慣れ、王立図書館での学びも深まり充実した日々を送っていた。ある日の午後、レオンとリオが庭園で遊んでいると、レオンが転び、膝を擦りむいてしまった。大した怪我ではなかったが小さな擦り傷からわずかに血がにじんでいる。メルが慌てて宮廷の医者を呼びに行こうとするのを私は思わず止めた。「メル、待って。私が……」とっさに庭の片隅に群生している、見慣れた野草に目が留まった。日本で「オオバコ」と呼ばれているその草は、傷の治りを早め止血する効能があることを知っていた。この国の薬草図鑑には載っておらず、ただの野草として扱われているようだった。私はしゃがみ込み、オオバコを数枚摘み取ると手のひらで揉み始めた。汁が滲み出てくるまで揉み潰しそれを優しくレオン様の擦りむいた膝に当てた。「お姉ちゃま、これ、何?」レオンは興味津々といった顔で私の手元を覗き込んでいる。「これは少しだけ痛みを和らげてくれるおまじないよ」そう答えると私は布で軽く押さえてやった。数分もしないうちにレオンの膝の出血が止まり腫れも引いていくのが分かった。「すごい!止まった!」
last updateLast Updated : 2025-07-05
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42.魔法を操る異国の女②

その日の夕刻、サラリオは深く感動した様子で私の部屋に訪れた。「レオンと葵の話を侍女長から聞いたよ。葵の知っていることをもっと詳しく皆にも教えてくれないか?葵の持つ知識は、この国の人々の医療に役立ち暮らしを豊かにすると思うんだ。まさか、野草に役立つことがあるなんて考えたこともなかった。あの草が資源になるなんて……ぜひ、その知識をこの国のために役立ててほしい」「はい、私で良ければ。」この国に来て初めて自分が誰かの役に立ったと思った瞬間だった。続けてサラリオは、この国の医療や衛生状況の課題を口にしていた。それ以来、私の薬草の知識は王宮内で重宝されるようになる。医師たちが私に野草について尋ねに来たり、私が調合した簡単な塗り薬が兵士たちの軽傷の手当てに使われたりすることもあった。最初は小さな貢献だったが感謝に変わるたびに満たされた気持ちになった。しかし、同時に新たな波紋も広がり始めていた。宮廷の医者の中には、異邦の女性である私が自分たちの専門分野に口を出すことを快く思わない者もいた。また、私が知らぬところで「ただの野草」を「薬」にすることを『魔法を操る異国の女性』と奇妙な噂話となって隣国の一部の商人や貴族たちの耳に届いたようだ。水面下で私を狙い自国に連れて帰ろうと画策する者たちが現れていた。そんなことも知らず、私の知識が誰かの役に立ちこの国の人々の笑顔を増やすことができるという喜びに浸っていた。私は、このバギーニャ王国で少しだけ自分の役割を見つけた気分でいたが、
last updateLast Updated : 2025-07-05
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43.メルの恋物語①

「愛する人のために薬学を覚えるなんて、葵様は本当に立派ですね」メルはそう言ってキラキラした目で私に話しかけてくれた。彼女の純粋な憧れの眼差しに私は少しだけ胸が苦しくなる。「残念だけどメルが思っているような素敵な話じゃないんだ。私は、日本にいる時に自分が必要とされていない人間だと思っていたの。親同士が決めた結婚で、夫になった人には私とは別に一緒になりたい人がいたの。でも、それは叶わぬ恋だったのね。夫は私に全く興味がなかった、だから少しでも自分の価値を作りたかったの。」幸助さんのことを久々に思い出し俯きがちに言った。「薬学を覚えたのは夫のためだけれど『愛する人』ではなかったかな。夫に私の価値を感じて欲しかった。『特別』になりたかった。でもそこに愛情があったわけではない。特別になることが『使命』や『義務』だと思っていたから」私の告白に、メルは何も言わずただ静かに耳を傾けてくれた。彼女の瞳は、私の言葉の全てを受け止めてくれるように優しく潤んでいた。「でもね、今は感謝しているの。日本で学んだことがこの国で役に立って、誰かを笑顔にできることが本当に嬉しい。今は使命とか義務じゃなくて自分の意思で学びたいって思っているの」「葵様は、やっぱり素敵です!」メルは、私の言葉を聞き終えると満面の笑みでそう言
last updateLast Updated : 2025-07-06
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44.メルの恋物語②

メルの相手は、王宮で衛兵を務めるリアムという青年だ。彼は真面目で実直、そして何よりもメルのことを思ってくれているという。「リアムとは小さい頃からの幼馴染なんです」メルは懐かしそうに目を細めた。「まだ私が幼くて木登りばかりしていた頃、リアムはいつも私を追いかけて心配してくれていました。私が木から落ちて泣いていると、いつも駆け寄ってきて差し伸べてくれて。その温かい手にいつも安心していたんです。」幼い日のリアムの姿を思い描くように、メルの瞳は遠くを見つめていた。「リアムがいつも言っていたんです。『俺は将来、メルを守る衛兵になる。だから、ずっと一緒にいて』って。小さい子同士の約束だと思っていたけれどお互い大きくなっても変わらずに真剣な顔でそう言ってくれて……その言葉をずっと信じて今も一緒にいるんです」彼女の頬がさらに赤く染まる。リアムのちょっとした気遣いや優しい言葉の一つ一つを思い出し、宝物のように大切にしているのが伝わってくる。「この間も私が風邪を引いた時、リアムが心配してお見舞いにりんごを持ってきてくれて。移すと悪いから逢えなかったんですけどずっと気にかけてくれていたみたいで……」彼女の瞳は、リアムの優しさを語るたびに愛おしさに潤んだ。私には、信じられないような話だった。幸助さんは、私がどんなに体調を崩しても顔色一つ変えなかった。むしろ「しっかりするように」と喝を
last updateLast Updated : 2025-07-06
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45.メルの恋物語③

メルの話を聞きながら、私は王子たちのことを考えた。サラリオは、私に国を共に創るパートナーとしての信頼を寄せてくれている。ルシアンは、私を常に笑顔にしようと甘い言葉をかけながらも、時にからかいながら私とサラリオの関係を深めようとしてくる。アゼルは、純粋な独占欲と情熱を私に向けてくれる。キリアンは話をするのが楽しい。彼と話をしていると深い知識の世界へと導いてくれる。「メルは、彼のどこに惹かれたの?」私は、自分の心の整理をするようにメルの恋についてもっと聞きたくなった。「リアムは、私が私であること自体を愛してくれるんです。私がどんなに不器用でも、失敗してもいつも温かく見守ってくれる。何があっても私のことを受け止めてくれるって絶対的な安心感があるんです。そして、私の良いところを惜しみなく褒めてくれるんです」メルの言葉は私の胸にすとんと落ちた。『何があっても私のことを受け止めてくれるって絶対的な安心感』その言葉は、私自身がずっと求めていたものだったのかもしれない。日本にいた時も、夫ことを絶対的な味方と思ったことも安心感を感じたこともなかった。私自身に興味がないことをひしひしと感じていた。この国の王子たちは皆、形や見え方は違えども私自身の「存在」を愛してくれていると思った。そして、王子たちが何があっても
last updateLast Updated : 2025-07-06
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47.招かれざる花嫁たち:隣国からの訪問者①

私が薬草の知識で人々の信頼を得ていく一方で、バギーニャ王国には新たな波乱の兆しが訪れていた。それは、ある日突然、嵐のようにやってきた。ある日の午後、サラリオの執務室で、私は国の医療改革について意見を交わしていた。彼の隣で、衛生管理の重要性を説いていた。私の提案が真剣に検討されていることに満たされた喜びを感じていたその時だった。執務室の扉がノックされ、国王陛下の側近である老練な宰相が重々しい面持ちで入室してきた。「サラリオ殿下、緊急の報せが。隣国ゼフィリア王国より使節団がまもなく到着するとのことです」「ゼフィリア王国が……?」宰相の言葉に、サラリオの顔に緊張が走る。ゼフィリア王国は、バギーニャ王国とは長年、貿易協定や国境問題で複雑な関係にある大国だと聞いていた。その使節団が、事前の通告なしに「まもなく」とは尋常ではない。「なんで突然?宰相、用件は把握しているのか?」普段の穏やかさとは異なり、張り詰めた声でサラリオは尋ねた。宰相は深く息を吸い込むと言葉を選びながら告げた。「それが……ゼフィリア王国が、友好関係の深化と両国の安定を願う証として……王女殿下方を我が国の王子方の結婚相手
last updateLast Updated : 2025-07-07
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48.招かれざる花嫁たち:隣国からの訪問者②

サラリオは、すぐに宰相に下がらせると深くため息をついた。彼の顔には、王としての重責と私への複雑な感情が入り混じったような表情が浮かんでいる。「葵……すまない。このような形で君を不安にさせてしまうなんて……」そう言って私を気遣ってくれている。しかし、私自身の立場を改めて実感した瞬間でもあった。(私は彼らに愛され、私も彼らを愛している。しかし私はあくまで「異邦の者」。この国の王族とは、血の繋がりも正式な婚姻の約束もない。そして、日本で私が経験したように、政略結婚に本人たちの意思は関係ない。王子たちの誰かが、ゼフィリア王国の王女と結婚するかもしれない。そして、一番可能性が高いのは――第一王子のサラリオ様だ。)私には、自分がどう応えればいいのか分からなかった。 サラリオはすぐにアゼル、ルシアン、キリアンを執務室に呼んだ。大事な話なので私が部屋を出ようとするとそのまま部屋に残るよう言われたので部屋の隅で静かに小さくなって椅子に座っていた。 既にゼフィリア王国の件を聞いている王子たちは、いつもと違い緊迫した面持ちだった。「話は伝わっていると思うが、明日ゼフィリア王国の王女たちが到着する。」普段の穏やかさとは異なり、厳かなサラリオの声が響いた。
last updateLast Updated : 2025-07-07
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49.寵愛の国の王子たち①

翌日、ゼフィリア王国の使節団が到着し、王宮は異様な空気に包まれていた。到着した三人の王女たちは、それぞれが類稀な美貌と気品を纏っていた。彼女たちは皆、他国の王子たちに見合うべく、幼い頃から最高の教育を受け美貌と教養を兼ね備えた女性たちだ。彼女たちの登場は、王宮内の空気を一変させた。王宮の女性たちは、表向きは歓迎の意を示しながらも、どこか緊張と警戒の入り混じった表情を浮かべている。長身で高貴な雰囲気を纏う第一王女は、サラリオと並び立つに相応しい威厳を放っている。華やかで奔放な笑顔を振りまく第二王女が、ルシアンに好意的な視線を送っていた。その隣の第三王女は、キリアンが顔を上げるのを待ちかねているようだった。王子たちは、エスコートする王女たちを視線で合図をしている。第一王女はサラリオ、第二王女はルシアン、第三王女はアゼルとキリアンが対応することになりそうだ。サラリオは、第一王女を丁重に迎え入れ、隣に立つと常に礼儀正しく、しかし揺るぎない威厳をもって応対していた。彼の穏やかな微笑みは、王女たちを安心させ、同時にバギーニャ王国の品格を示している。王女が何かを尋ねれば、真摯に耳を傾け思慮深い言葉で返答する姿は、まさに次期国王の風格だ。サラリオの視線は常に全体を見渡し場の雰囲気を掌握していたが、時折、私の方へ一瞬だけ向けられるその視線に、私はなんだか胸の奥がギュッと締め付けられるのを感じた。 ルシアンは、第二王女に真っ先に駆け寄るといつものように輝くような笑顔で甘い言葉を惜しみなく囁いた。
last updateLast Updated : 2025-07-08
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50.寵愛の国の王子たち②

アゼルは、少し離れた場所にいた第三王女にゆっくりと近づいていった。彼女は控えめな印象だがその瞳の奥には強い意志が宿っているように見える。「ゼフィリアの王女殿下。バギーニャへようこそ。慣れないこともあるだろうが、何かあれば遠慮なく言ってくださいませ。このアゼルがこの国の護衛をし、王女様をお守りします。」普段の豪放な様子からは想像できないほど丁寧に、そして真摯に話しかけていた。しかし、アゼルの視線は、王女の向こうにいる私を捉えている。じっと見つめられた視線は「俺の心は揺るがない」と訴えかけるかのようだった。その熱い視線を感じ、私は目を逸らせなかった。 キリアンは第三王女と数歩離れた位置に立っていたが、王女が手に持つ書物に気づくと静かに歩み寄った。「その書物は、かの伝説の賢者が記したものでしょうか。もし差し支えなければ私も拝見してもよろしいですか?」彼の声は控えめでありながらも好奇心に満ちていた。王女が驚いたように顔を上げると、キリアン様は穏やかに微笑む。彼は、恋愛の駆け引きには全く関心がないといった風情だが、王女にとって大切な書物だったのだろう。キリアンが気づいてくれたことにとても喜び、頬を紅潮させてその後も書物のことで話に花を咲かせていた。 王子たちのエスコートは、まさに「寵愛の国」の王子として完璧だった。そして、私は彼女たちの出現に心がざわつくのを止められなかった。
last updateLast Updated : 2025-07-08
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