Lahat ng Kabanata ng たとえ、この恋が罪だとしても: Kabanata 51 - Kabanata 60

102 Kabanata

9・紗加の企み

 ずっと気にかかっていたので思い切って聞いた。  紗加さんは何をいまさら、言いたげに少し眉をしかめた。「安西があなたでなくてはだめ、と言うのだから自信を持ってくれればいいわ。それにやっぱりできません、なんて軽々しく言わないでね。一旦引き受けたからには責任を持ってくれないと困るわ。素人だろうがプロだろうが、そんなことは関係なくてよ」 いつもよりもさらにきりっとした表情でそう言われた。 安西さんにとって、そして紗加さんにとっても人生をかけるほどの大仕事なのだ。 わたしにもちゃんと自覚を持ってほしいということだろう。「わかっています。引き受けた以上は投げだすようなことはしません」「ありがとう。それを聞いて安心したわ」  時計に目をやると、もう7時をすぎていた。 わたしはカバンとコートを手にとり、「帰ります。コーヒーごちそうさまでした」と告げて玄関に向かった。 扉に手をかけたとき、すりガラスの向こうに人影が見えた。 「ああ、あやのちゃん、帰るとこ?」 今日は会えないとあきらめていた安西さんの姿を見て、ほんのりと気持ちが明るくなる。「雨、だいぶひどいなってきたよ。車で送ろうか?」 「大丈夫です。それに少し寄るところがあるので」 「そうか。じゃあ、来週の土曜日、頼むよ。間違っても風邪なんかひかないように」「はい」
last updateHuling Na-update : 2025-07-07
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9・紗加の企み

 寄り道をすると言ったのは嘘。  車でふたりになったら、安西さんへの想いが溢れだしてしまいそうで怖かった。 降りしきる雨のなか、ようやく地下鉄の入り口にたどり着いた。 ホームに入ってから携帯電話を取り出そうとバッグを探ったが、いくら探してもない。 そういえばさっき紗加さんに貸したまま返してもらっていなかったと気づいた。 今日はなんだかついていない日だ。  雨のなかを引き返すのは気が重かったが、携帯をそのままほっておくわけにもいかない。 駅員さんに訳を話して改札を出て、ふたたび土砂降りの地上に戻っていった。〈side Takito〉 遠方でのロケで疲れていたおれは、スタジオに入るなりソファーにどかっと坐り込んだ。「お疲れ」  紗加がふたつのワイングラスを手に、隣に腰かける。「なんで、彼女、来てたの?」 「衣装のことでちょっとね。それに女ふたりだけで話したかったの」「どうせおれの悪口でも吹き込んでたんだろう?」 「想像におまかせするわ。それより飲みましょう。なんだか今日は飲みたい気分だから」 紗加とグラスを合わせ、水でも飲むようにゴクっと飲み込む。  とたんに、胸の辺りがかっと熱くなった。 紗加はテーブルにグラスを置き、俺の首に腕を回して、唇を合わせてきた。「職場でこんなことをするのはめずらしいな……どうしたの?」 紗加の背に腕を回して、おれは言った。
last updateHuling Na-update : 2025-07-08
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9・紗加の企み

「最近、あなたとこういう時間が持てなかったでしょう? だから、たまにはいいかと思って」 紗加はおれの首筋に唇を這わす。  物欲しげな眼差しを向けながら。「……ここではしないんじゃなかった?」「わたしがyesならいいのよ」 「はいはい、女王様。では僕は何をすればよろしいのでしょうか?」 冗談めかして言うおれに、紗加は微笑みを浮かべて言った。「ねえ、もう一度キスして……」 紗加らしくないなと思いながらも、疲れていようがなんだろうが、ついつい据え膳を食ってしまうのがおれの悪い癖だ。 たぶん旦那と喧嘩でもして、気晴らしがしたいんだろう。  今度は俺が紗加の唇を奪う。 そのまま唇は離さずにまだワインの香りが残る彼女の口のなかを味わいながら、手を太腿に這わせていく。 スカートをたくし上げると、下着を穿いていない。つけているのはガーターベルトだけ。  お待ちかねだったらしい。 紗加はとろけるような上目遣いでおれを見ながら、ゆっくりと脚を開いていく。「ここにも……キスして」  おれはソファーの前にひざまずくと、まず内腿をきつく吸って、それから少しずつ中心まで舌を這わせ、一番敏感な部分を丹念に愛撫した。「あぁ……瀧人」  紗加は背をのけぞらせて、甘い声を上げる。「サ、ヤ……」 そのとき、床になにかが落ちたような大きな音が響いた。
last updateHuling Na-update : 2025-07-08
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9・紗加の企み

 紗加お気に入りの、バッハのバイオリン協奏曲ニ短調がかなりの音量でかかっていたのに、それでも聞きとれるほどの音だった。 顔を上げてそっちを見ると、文乃が立ち尽くしていた。「あ、あやの……ちゃん」  一瞬にして部屋は気まずい空気で満たされた。「す、すみません……。あの、携帯、携帯を忘れてしまって。ごめんなさい、勝手に入ってきて……何度か声はかけたんですけれど……」「事務室のテーブルの上にあるわよ。瀧人、持ってきてあげたら」 さっきまでの甘い声とは打って変わった冷静な声で紗加はおれに命じた。 文乃に携帯電話を渡すと、彼女は「お邪魔しました……」と小さな声でつぶやき、深々と礼をしてそのまま去っていった。 驚きだけでない、戸惑いや哀しみその他もろもろの感情が、一瞬のうちに彼女の目に映った。 おれには、文乃のなかのガラス細工がパリンと割れる、かすかな響きが聞こえたような気がした。「わざとか」「ええ。おあつらえ向きに携帯電話を忘れていってくれるのだもの。もっとも、忘れるように仕向けたのはわたしだけど」「でも、なんでそんな――」 「あの子はあなたが好きなのよ」「警告ってこと? おれは紗加のものだって――」 紗加はわざとらしいほど大笑いをした。「なんでわたしが、あんな小娘と張り合わなきゃいけないのよ。ばかばかしい」
last updateHuling Na-update : 2025-07-09
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9・紗加の企み

「じゃあ、なんでわざわざ傷つけるようなことをするんだよ!」 きつい口調になったおれに、紗加はいつもの尊大な、この世で一番正しいのは自分だ、という表情を向けた。「感謝されても文句を言われる筋合いはないはずだわ。すべて今回の仕事のため。あなたを世界レベルの写真家に引き上げるためにしたことだもの。そのためならモデルがひとり傷つくぐらい、たいしたことないじゃない」 1ミリも視線をそらさずに紗加は続けた。「あの子が心に秘めているものをはっきり意識させただけよ。これであなたに会うたびにわたしへの嫉妬に苛まれるわ。わたしを抱くあなたの幻影に苦しめられる。いい子ちゃんのあの子も、嫉妬に狂えば、今よりもずっと官能的な魅力を醸し出すはずよ」 紗加の赤い唇からつぎつぎと毒が吐きだされる。「おれはそんなこと、したくなんか……」  反論が口まで出かかった。 文乃を傷つけなきゃできないような仕事なんてしたくない――  にわかに浮上した本心に我ながら愕然とした。 一世一代のビッグチャンスよりも、会ったばかりの女の気持ちを重視している自分に。 おれのためらいは無視して、紗加は話を続けた。「人って残酷な生き物なのよ。ただ美しい写真を見せられても満足しない。本当に見たいのは美しいものが傷つけられる姿。そこに現れる背徳的な美に愉悦を覚えるのよ。そういう毒が作品に欠かせないスパイスになるんじゃないの」
last updateHuling Na-update : 2025-07-09
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9・紗加の企み

「ああ、そうだよな。紗加のすることはいつも正しいよ。おれがここまでになれたのもあんたのおかげだ。それはよくわかってるよ。でも――」 言い淀むおれに、紗加は小馬鹿にしたような視線を向けた。「あら、あなたもやっぱり気があるの? あの、ただ純粋培養されただけの鈍臭い子に?でもおやめなさい。才能のかけらもない女のために人生を棒に振るなんて、まったく理にかなっていないわよ」「……」「瀧人。あなたは世界を狙える男なのよ。わたしと一緒にいれば確実に頂点に立てる。そうしたら、あなただけのものになってあげる。今のままじゃ、とてもじゃないけどわたしと釣りあわないもの」「でももし、彼女がモデルを降りると言ってきたらどうするんだよ。いまさら他を探すなんて無理だ」「その点は大丈夫よ。今回の仕事はあなたの人生を左右するって、さんざん脅しておいたから。あの子、責任感だけはありそうだしね」 ……まったく、何から何まで抜け目のない女だ。これまでは紗加のそうした部分を、ある意味尊敬してきたし、頼ってもきたんだが。 おれははじめて、紗加の冷酷さをわずらわしく思った。 興ざめした顔で紗加は言った。「たとえ好きな女でも踏み台にしてのし上がるぐらいの気概を持った男だと思ってたけど、勘違いだったのかしら? 頭を冷やしてわたしが言ったことをよく考えてみたら?」 そう言いのこして、彼女は振りかえりもせずスタジオを立ちさった。
last updateHuling Na-update : 2025-07-10
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9・紗加の企み

 ひとり取り残されたおれの胸に去来するのは、さっき見た文乃の表情だ。 彼女の痛みがダイレクトに伝わってきて、心がむちゃくちゃにざわついた。 後を追っかけて、思いきり抱きしめてやりたかった。 文乃の心の痛みを全身で受けとめてやりたかった。 紗加は、文乃がおれへの気持ちをはっきり自覚するために仕掛けたことだ、と言ったが、それはおれにとっても同じことだった。  おれは文乃が好きなんだ。  これまで付きあった女はみんな、胸の内に打算を秘めていた。 おれと寝ればまた仕事にありつけるんじゃないかとか、あるいは他人に自慢しようとか。 こっちも束縛されるのは嫌いだとうそぶいて、故意にそういう女たちを選んでいた。 そんなGive and takeな関係では肉体的満足は得られたけど、心が満たされることはなかった。 でも文乃は違う。 ガキの頃の思い出の場所に連れていこうなんて思ったのも、文乃が初めてだ。 他の女なら鼻からバカにされると思うようなことも、文乃には通じるはずだと。 文乃の裏表のない素直さや健気(けなげ)さを大切に思う気持ちが、会うたびにおれのなかで膨らんでいくのはわかっていた。 だが、意識的に女として見ることはセーブしていた。 だって、どうなるというのだ。  文乃には婚約者がいるのに。 彼女みたいな真面目な子は、おれみたいな女にだらしないふざけた男より、勤め人の婚約者と一緒になるほうが幸せになれるに決まっている。 そう思って、最初から諦めていた。 それでも、傷ついた文乃に何もしてやれない自分が歯がゆくて、やりきれなかった。 会ったばかりのときから、彼女の前では不思議と素の自分でいられた。 最初はただの被写体。  でもいつしか、被写体ではない文乃本人に惹かれてはじめていた。 いや、一目見たときから、無意識のうちに彼女自身を求めていたのかもしれない。
last updateHuling Na-update : 2025-07-10
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10・あなたが好き……

〈side Ayano〉 どうやって自分の部屋までたどり着いたのか、まったく覚えていない。  気づいたら、びしょぬれのまま、玄関に座りこんでいて、しばらく動けなかった。 わたしは大まぬけだ。 あのふたりの関係に、今日まで気づいていなかったなんて。 安西さんへの自分の気持ちを処理するのに必死で、そこまで気が回っていなかった。 考えてみたら当然のことだ。あれほど美しい女性と5年も仕事をしていて、そういう関係にならないほうがむしろおかしい。 でもショックだったのはそれだけではない。 ふたりの姿を見て、ある意味、安堵を覚えてもいいはずだった。 紗加さんほどの美しい人が恋人なら、わたしの想いが報われる望みはほんのひとかけらもない。 だから、この迷いから覚め、俊一さんの元に戻れるチャンスだった……はず。 でもまったくそうはならなかった。 猛烈な嫉妬心で身も心も焼き尽くされそうになってしまった。 安西さんに愛撫されている紗加さんが心の底から憎らしかった。 どうしてあそこにいるのがわたしじゃないんだろう、と狂おしい気持ちがわき起こってきておかしくなりそうだった。 これほど激しい感情を抱いたのは生まれて初めてだ。  こんな気持ちを抱えたまま、本当に結婚なんてできるのだろうか。 でも一体どうしたらいいんだろう。俊一さんにどう言えば? 
last updateHuling Na-update : 2025-07-11
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10・あなたが好き……

 俊一さんのご両親やうちの両親、ふたりの結婚を祝福してくれる人たちにいったいどう言えば……。 いくら考えても答えは見つからなかった。 いや、どこを探したって、そんな都合のいい答えなど存在するわけがない。 それはよく分かっているのだけれど…… ************ 翌日は合唱の練習日だった。 寝不足で頭は痛く、仕事でも手痛いミスをしてしまい、上司に散々叱られ、今日は練習を休んでまっすぐ帰ろうと思っていた。 でも部屋に戻っても悶々とするだけなのは目に見えていたし、歌えば少しだけでも気が晴れるかと期待して参加した。 でも無駄だった。  いつもなら歌っているうちに、心にたまった悩みも解消してスッキリした気分になるのに、今日はまったくだめだ。 こんなことははじめてだった。  まったく集中できないままレッスンが終わった。 帰り支度をしていると待子さんに声をかけられた。「このあと、半時間ほどお時間あるかしら? お嫁さんにお迎えを頼んでいるのだけど、彼女の車が故障してしまって、迎えに来るのが遅くなるんですって。もし文乃ちゃんがお付き合いして一緒に待っていてくれたら、嬉しいのだけど」「はい。大丈夫ですよ。じゃあ、ロビーの椅子にかけて一緒にお迎えをお待ちしましょうか」「あら、うれしい。一度あなたとゆっくりお話ししたいと思っていたの」 待子さんは満面の笑みを浮かべてそう言った。
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10・あなたが好き……

「今日のお稽古、上の空だったんじゃないかしら? そんなこと今まで一度もなかったのに」 自動販売機で買ったカップのお茶を飲みながら待子さんにそう言われた。「そんな風に見えましたか?」「ええ、悩みごとがあるって顔にはっきり書いてありますよ。こんなおばあちゃん相手でよければ、聞かせてちょうだい。ひとりで抱え込むより人に話したほうがいいときもあるわよ」 待子さんは包み込むような眼差しでわたしが口を開くのをじっと待っていてくれる。  いつもと様子が違うのを感じて、声をかけてくれたのだ。 車が故障したと言うのも口実なのだろう。  ありがたかった。  たしかにこの気持ちを吐きだしたかった。 でも話す相手がいなかった。家族はもちろん、会社の同僚にも話せない。 わたしは待子さんのご好意に甘えることにした。「今、とても悩んでいることがあって……先月プロポーズをされたんですけれど、そのすぐあとで他の人のことを好きになってしまって……」 待子さんは優しい笑顔を絶やさずに、相槌を打ちながらじっくり話を聞いてくれる。「婚約者に悪いと思っても、どうしても自分の気持ちを抑えられなくて……わたしがいけないんです。それはわかっているんです。でも……」 
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