ずっと気にかかっていたので思い切って聞いた。 紗加さんは何をいまさら、言いたげに少し眉をしかめた。「安西があなたでなくてはだめ、と言うのだから自信を持ってくれればいいわ。それにやっぱりできません、なんて軽々しく言わないでね。一旦引き受けたからには責任を持ってくれないと困るわ。素人だろうがプロだろうが、そんなことは関係なくてよ」 いつもよりもさらにきりっとした表情でそう言われた。 安西さんにとって、そして紗加さんにとっても人生をかけるほどの大仕事なのだ。 わたしにもちゃんと自覚を持ってほしいということだろう。「わかっています。引き受けた以上は投げだすようなことはしません」「ありがとう。それを聞いて安心したわ」 時計に目をやると、もう7時をすぎていた。 わたしはカバンとコートを手にとり、「帰ります。コーヒーごちそうさまでした」と告げて玄関に向かった。 扉に手をかけたとき、すりガラスの向こうに人影が見えた。 「ああ、あやのちゃん、帰るとこ?」 今日は会えないとあきらめていた安西さんの姿を見て、ほんのりと気持ちが明るくなる。「雨、だいぶひどいなってきたよ。車で送ろうか?」 「大丈夫です。それに少し寄るところがあるので」 「そうか。じゃあ、来週の土曜日、頼むよ。間違っても風邪なんかひかないように」「はい」
Huling Na-update : 2025-07-07 Magbasa pa