涙があふれて話が続けられなくなった。 自分で思っていた以上にダメージを受けていたらしい。 感情が高ぶって抑えが利かなくなった。 ひっく、ひっくとしゃくりあげるわたしの背をゆっくりと撫でながら、今度は待子さんが穏やかな声で話しはじめた。「婚約者にあなたの本当の気持ちをお話ししたほうがいいか、それはあなたが決めなければいけないことね。でもね、ひとつだけ言えるのは、他の人はごまかせても自分の心はごまかせないってことかしら」 自分の心はごまかせない……「もちろん、すべてあなたの胸に秘めたまま、周囲の事情を優先して波風を立てずに結婚することもできるでしょうね。でも……」 待子さんはわたしの手を優しくさすった。「心をごまかし続けていくうちに、綻びが出てしまうんじゃないかしら。そうしたら、あなただけでなく、旦那さんもその周りの人たちも不幸になってしまうわ。こういうときは、自分が楽になろうとしたらだめ。お相手にとってどうすれば一番いいのか考えないといけないわ。ふたりともよ。その婚約者の彼も、あのカメラマンさんのことも」 自分のことでなく相手のことを一番に……。 待子さんの言葉はわたしの心にじわじわと浸みこんでいった。
Last Updated : 2025-07-12 Read more