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第3話

Author: ひとひら秋
沙羅は立ち上がると、隣に置いていたギフトボックスに拓真が気づいた。

「それ、何?」と拓真がうれしそうに尋ねる。

「これ、あなたの誕生日プレゼントに用意したの」

拓真はギフトボックスを手に取ると、抑えきれない笑顔を浮かべた。「沙羅、今年はずいぶん早いね。僕の誕生日、まだ先なのに」

拓真の誕生日は沙羅の誕生日のあと、ちょうど沙羅が実験室に入る予定の日だ。

その日、拓真が自分のいなくなったことに気づくだろうと思うと、沙羅の心は少しだけ晴れやかだった。

「うん、早めに用意したの。誕生日まで開けずに取っておいて」

拓真はギフトボックスを大事そうに棚にしまった。

「沙羅は本当に僕に優しいな。僕はなんて幸せなんだろう」

そう言って、拓真は沙羅の手を引いて外に出た。

地下駐車場には、新品のピンク色の車が停まっていた。

それは今日、拓真が発表したばかりの新車だった。

「沙羅、試乗してみようよ。きっと気に入るはず。これは僕からのプレゼントだよ」

沙羅は車体の周りをゆっくり見て回った。

ナンバープレートを目にした瞬間、全身が震え出した。

二日前、理々から送られてきた動画に映っていたのは、まさにこの車だった。

理々と拓真が車の中で激しく抱き合い、シートには二人の痕跡が残っていた。

沙羅がなかなか車に乗ろうとしないのを見て、拓真は少し不安そうに尋ねる。「どうしたの?この車、気に入らなかった?」

沙羅は首を横に振った。「免許取ったばかりで、あまり運転に自信がなくて」

拓真はキーを手に取り、手慣れた様子で運転席のドアを開けて座り込んだ。

「じゃあ、僕が教えるよ」

沙羅はバッグからウェットティッシュを取り出し、助手席のシートを丁寧に拭いてから座った。

「新車なんだから、そんなに気にしなくてもきれいだよ」と拓真が笑う。

沙羅は淡々とした声で答えた。「工場から出荷される時に、誰が座ったかわからないじゃない?私は、前に誰かが使ったものが昔から苦手なの」

その言葉に、拓真の笑顔が少し引きつり、気まずそうな空気が流れたが、すぐに話題を変えた。

「今夜は君の好きなフレンチを予約してあるんだ。ひと月前から予約しないと取れない店なんだって。かなり美味しいらしいよ……」

拓真は楽しそうに話していた。

沙羅が手を伸ばすと、シートの隙間から硬いものに触れた。何気なく取り出してみると、それはシャネルの口紅だった。

沙羅はそれを拓真の目の前に差し出し、軽く微笑む。「これも私へのプレゼント?」

拓真は一瞬目を泳がせ、顔を赤らめる。

「うん、他の女がこの口紅は今年人気って言ってたから、沙羅にも似合うと思って。普段あまり化粧しないけど、この色はきっと合うよ」

沙羅は心の中で冷たく笑いながら、目の前で口紅の蓋を開けた。中身はすでに削れて平らになっていた。

「これ、誰か使ったみたいだけど。店員さん間違えたんじゃない?」

拓真は焦りながら言い訳をする。「たぶん……店員さんが間違えて渡したのかも」

沙羅は淡々と続ける。

「私、前にも言ったけど、人が使った中古品が苦手なの」

少し間を置いて、冷たい目で拓真を見つめた。

「同じことは、男にも言えるわ」

その冷たいまなざしに、拓真はうろたえ、沙羅の手をつかんで必死に弁解した。

「ごめん、沙羅。もしかして怒ってる?すぐ新しいのを買ってくるから、お願い、怒らないで。僕、君に怒られるのが一番苦手なんだ」

沙羅は何も答えず、手を振り上げて口紅をゴミ箱に投げ捨てた。

その直前、彼女のスマホに理々からメッセージが届いていた。

【沙羅さん、口紅を拓真さんがプレゼントした車にうっかり置いてきちゃいました。ごめんなさい】

沙羅は返信しなかった。理々がわざと見せびらかしているのはわかっていた。拓真が必死で謝っている姿を見ていると、ふいに馬鹿らしくなってきた。

沙羅はそっと顔をそらし、流れる車窓の景色を眺めた。

人生で最後になるかもしれない記憶の残る誕生日を、くだらない男のために無駄にしたくはなかった。

レストランに着くと、拓真は紳士ぶって先に車を降り、沙羅に手を差し伸べてエスコートした。

店の前には人だかりができていた。

「うわ、本物の理想の旦那様と奥さんだ!本当に仲良しカップルで羨ましい!」

「奥さん、めちゃくちゃ美人じゃない?これなら拓真さんが夢中になるのも納得だね。あんな奥さんがいたら、他の女なんて眼中に入らないよ」

「見てよ、この現実離れした夫婦!旦那さんはお金持ちでイケメンだし、プレゼントも豪華で、まるで小説みたい」

褒められっぱなしの拓真は鼻高々だ。

「皆さん、道を開けてください」

人ごみをかき分けながら、拓真は沙羅を店の中に案内した。

テーブルには、沙羅が好きな料理がずらりと並んでいた。
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