天音は、洵が世間話の一つもしないことに腹を立てていたが、彼がさりげなく気遣ってくれていることに気づくと、その怒りも嘘のように消え失せた。おかしい。機嫌を取ってくる人間なんて星の数ほどいるのに、どうして洵が何も言わずに世話を焼いてくれるだけで、こんなに好感度が急上昇するのだろう。しかも、自分がこんな扱いに弱いなんて。いや、世話を焼かれるのが好きなわけじゃなく、世話を焼いてくれるのが洵だから嬉しいのだ。媚びへつらう者ではなく、相手が違うから。……本当に、変な話だ。天音はボールを打ちながらそんなことを考え、時折洵の方を盗み見た。こいつ、テニスの腕前は普通だなんて言っていたくせに、これだけ続けてもミス一つない。自分はほとんど動いていないけれど、打ち返すボールにはそれなりの威力とキレがあるはずだ。普通なら拾えないようなボールでも、洵は余裕を持って打ち返してくる。まるで子供の相手でもしているかのように。学校でも社会でも、スポーツができる男というのはそれだけでポイントが高い。洵も学生時代、さぞかしモテたことだろう。なんだか面白くない。どうしよう、洵を誰にも見せずに隠しておきたくなってきた。そう考えて、天音は音もなく笑った。自分ってば、ますます変態じみてきた。最初はただ洵の信頼を得てから思い切り裏切り、人の世の醜悪さを味わわせてやるつもりだった。裏切られた洵がショックを受け、苦しみ失望する様を鑑賞して、自分の悪辣な本性を晒してやるつもりだったのに。なぜ今彼を自分の手元に、繋ぎ止めておきたいなんて思っているの?天音の独占欲は強いが、誰に対しても発揮されるわけではない。ましてや洵は、彼女が嫌いなはずの相手だ。嫌いな相手には、ただ計算高く振る舞えばいいだけ。こんな奇妙な感情を抱くべきじゃないのに……また打ちやすいボールが飛んできた。天音はバックハンドで打ち返すと、わざとコースを外して取りにくい場所に打ち込んだ。洵は素早く移動して落下点に入り、ラケットを振る。その体勢なら強烈なフォアハンドで決められるはずなのに、返ってきたボールは相変わらずふわりと優しい。天音はまた笑みをこぼした。洵、あなたこんなにお人好しでどうするの。いい人なんて、いじめられるだけよ。ボールが戻ってくると、天音はフェイントをかけ、わざと足
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