颯太は父親に急かされてここに来たのだ。先日、紫藤家のチャリティ晩餐会で彼にメッセージを送ったきた時は、将来有望なIT企業を紹介しようとしか言っていなかった。颯太は、今、実家のIT関連の子会社を任されている。今日も仕事の関係で、この会に出席しにきたのだ。だが、出発直前に、このテクノロジー企業がSYテクノロジーという名前だと知ったのだ。このSYテクノロジーの社長は、霞に無礼な態度をとったようだと颯太は覚えていた。颯太にとって霞は優秀な技術者であるため、SYテクノロジーの社長の人を見下すような態度は許せなかった。そして、SYテクノロジーとは今後一切取引しないと心に決めていた。だから、今日も本当はここに来るつもりはなかった。しかし、父親からSYテクノロジーの後ろ盾にはSグループの鷹司社長がいるから、必ず出席するようにと言われたのだ。SYテクノロジーにはLugi-Xという、会社の革新的競争力となる技術があるので、多くの企業が今接触を図っているらしい。そこまで言われて、颯太はようやく渋々ここに来た。SYテクノロジーの社長である彩乃とは、チャリティ晩餐会で一度顔を合わせたことがあった。霞の件で少し不満はあったものの、それ以外は特に何も思っていなかった。まさか、彩乃と月子が知り合いだったとは、思いもよらなかった。これで全て辻褄が合う。彩乃が霞に難癖をつけたのも、月子が霞を嫉妬していたからだろう。だから彩乃はきっと月子のために、霞にいい顔しなかったに違いない。そう思うと颯太は、もはや不満を通り越して、完全に不機嫌になっていた。彩乃は眉をひそめた。今の彼女にはすでに数千億円もの資産があるから、ある程度の幅を利かせることはできるのだが、しかし、それはあくまでも自分より格下の人間に限られていた。さらに上を目指そうとするなら、自分と同等かそれ以上の相手と付き合っていく必要がある。彩乃には自信とプライドがあったが、節度もわきまえていたのだ。颯太が静真と知り合いだと知れば、普通なら相手にする価値もないと考えるだろう。しかし、彼は大富豪の宏の息子だ。だから、彩乃は、颯太に少しだけ時間を割くことにした。「はい」彼女は一歩横にずれて、「どうぞ」と言った。そう言うと、彩乃は月子の隣に行って腰かけた。颯太も二人
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