月子は電話を切り、すぐに洵に電話をかけたが、繋がらなかった。そして陽介に電話をかけると、今度は繋がった。月子は電話で陽介に事情を説明した。陽介は困惑した様子で言った。「洵は今日、仕事の後で取引先と会う約束をしていたんだ。俺もずっと連絡を取っていなかったから、誰と喧嘩になったのか、さっぱり分からない。一体誰となんだ?」「分かった。洵は大丈夫みたいだから、心配しないで。私が様子を見てくるよ」そう言うと、月子は電話を切った。洵と天音は、やすらぎの郷で一度会ったきりだった。その時、二人は少し口論になったようだが、そこまでわだかまりがあるように思えなかった。洵は天音と関わりたくないだろうし、天音だって洵を眼中に入れていないはずだ。そんな二人がどうして喧嘩になるんだ?洵は短気だけど、分別はあるほうだ。口では色々言うけど、実際に行動に移すことはほとんどないし、まして女性に手を上げたなんて話は今まで聞いたことがなかった。むしろ、余裕があれば困っている女性を助けたりすることもあるくらいで、彼はただ、性格がクールなだけなんだ。そう考えていると月子はふと、あることを思い出した。天音は正雄に罰として、2週間、実家で謹慎させられていたんだ。確か、もう解放されている頃だろう。もしかして、天音は鬱憤が溜まっていて、誰かに当たり散らしたくなったのかも……でも、八つ当たりするなら、自分にするはずだ。何の関係もない洵に当たるのは一体どうしてだろう?もしかしたら、二人が偶然出会って、ちょうど天音の機嫌が悪かったから、口論になって、つい手が出てしまったのだろうか?いずれにしても、怪我をしたのは天音だ。この件は、穏便に済ませるのは難しそうだ。自分が行かなきゃ。萌に簡単に事情を話すと、月子は詩織から送られてきた病院の住所へ向かって車を走らせた。場所はそれほど遠くなかったので、すぐに到着した。救急外来では、医師が天音の傷を縫合していた。入口の外には、詩織と、数人の鼻や顔が腫れ上がった若者が立っていた。どう見ても、天音の仲間だろう。一方で、洵は廊下の椅子に堂々と座り、目を閉じていた。目をつぶっていても、その表情には隠しきれないイラつきがあった。そばに立っている若者たちも洵に対してむかつきはあっただろうが、誰も前に出て来ようとは
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