月子はバックミラーを見た。あの車は間違いなくずっと尾行している。今まで見たことのない車だったのに、まさかこんな時に現れるなんて。隼人がこんなに慎重になっているのを見たことがなかった。「何か危険なことがあるの?」「いや、何もない」「何もないなら、どうして……」隼人は突然月子の顔に手を触れ、険しい表情で言った。「こうすれば少しは安心できる」そう言って、隼人は月子の首筋に手を添え、軽く力を加えた。すると月子は自然と彼の胸に引き寄せられた。隼人は近づいて月子にキスをした後、少し距離を置いて彼女を見つめ、そして車から降りた。車の前に立つ隼人は、スーツ姿が良く似合っていた。オレンジ色の街灯が彼の顔に当たり、まるで金色の光を纏っているかのようだった。隼人は月子を安心させるように、視線を送った。月子は唇を噛み締め、彼に微笑みかけた。「じゃ、家で待ってるね」隼人は頷いた。少し距離を置いてするその仕草は、礼儀正しく、まるで他人行儀のようにも見えた。しかし、月子はこのような隼人が好きだった。凛々しくて落ち着きがあり、独特の魅力を放ち、そして何より安心感を与えてくれる。そう感じて、月子の笑顔はさらに輝きを増した。月子の輝く瞳を見て、隼人の険しい表情も少し和らいだ。月子の車が走り去ると、隼人はその場に佇んでいた。しばらくすると、黒塗りの社用車がゆっくりと彼の前に停まり、中からドアが開けられた。現れたのは徹だった。隼人を見るなり、久しぶりの再会を喜ぶような表情を浮かべ、まるで何か変化がないか確かめるように、彼を頭からつま先までじっくりと眺めた。しかし、口を開けばそれは、嫌味ったらしい声だった。「隼人、久しぶりだな」片や隼人は、徹に冷ややかな視線を送った。そして、少し間を置いてから、腰をかがめて車に乗り込んだ。……雰囲気の良いワイナリー。徹はそこで高価なワインを味わっていた。血の気がない顔でワインを嗜む姿は妙に不気味で、その口元についた赤色は彼の顔色とは対照的で、冷たい光の下では、どこか妖艶な雰囲気さえ漂わせていた。誰が見ても妖しげな男だと思うだろう。それはどう見ても善良な人間には思えなような姿だから。一方で、隼人の気品と落ち着きは、徹の堕落したクズじみた雰囲気をいっそう際立たせているように見せていた。徹
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