静真はそれ以上何も聞かずに、背を向けて立ち去った。それから天音は根掘り葉掘り聞いてくる友達を追い払い、桜だけを残した。「月子がサンに頼んで、私の誕生日に来てもらうようにしてくれるって言ったの!しかも、サンにはドライブにも連れてってもらえそうよ。こんなチャンス、逃すわけないじゃない?だからそのために妥協したの!」と彼女は興奮気味に桜に自慢した。桜も驚きを隠せない様子で、天音に負けず劣らず興奮した様子で言った。「マジで!天音、すごいじゃない!怪我の甲斐もあったね!」「でしょ」天音は得意げに胸を張った。「それでこそこの怪我もした甲斐があったってもんよ」そう言いながら天音は桜に念を押すように言った。「だけど、私が怪我のふりをしたことは、絶対に誰にも言わないで。分かった?」桜は言った。「分かってるわよ。私もサンに会いたいんだから!」……洵の傷は簡単に処置され、月子は彼を送ろうとした。しかし、洵にはまだ用事があり、自分で配車アプリを呼ぶことにした。彼がそう言い張るので、月子も仕方なく先に車で帰って行った。洵が呼んだ車はあと数分で到着する予定だったので、彼は道端で待っていた。車待ちというのは、ただ突っ立っているだけで、誰だって表情は乏しくなるものだ。だから洵も時折スマホを見る以外は、ただじっと立っていた。彼の目元は月子と同じように冷ややかで、男らしい彫りの深い輪郭と相まって、クールな印象の目つきをしていた。そんな顔は無表情だと、凛々しく見えるのだ。そして、怒らせると、その目つきは凶暴になり、独特の雰囲気を醸し出すのだった。病院の入り口まで来た天音は、その光景を目にした。背が高くてすらっとしていて、クールな洵の横顔は、綺麗なラインを描いていた。なぜか、彼女は洵を少しカッコいいと思った。国内外のあらゆるタイプのイケメンを見てきた天音だったが、洵の雰囲気は独特だった。誰も彼女にあんな態度を取らないから、洵は特別に感じたのだろうか?それに、兄に楯突くなんて、なかなかできることじゃない。そう、きっとそうに違いない。明らかに身分が違うのに、洵はそれをまるで気にせず、下手に出ようともしない。あの傲慢な背を、天音はどうしても屈服させてみたくなった。そう思いながら、天音の中で征服したいという願望が沸き上がった。
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