その結論は、翼から冷静さを奪った。彼は頭の中で必死に心当たりを探るが、紬が誰かに恨みを買うような状況は思い当たらなかった。玲司も自らのコネを総動員して捜索したが、例の黒い車が南郊の高架橋で姿を消して以降、その足取りは完全に途絶えていた。翼はノートパソコンを取り出し、追跡プログラムを起動した。それを見た玲司が、嘲るように言った。「まだ彼女に追跡装置をつけているのか?それが君の言う、彼女に選択の自由を与えるということか?」「君は知らないだろうが、紬はひどい方向音痴でね。以前二人で海外旅行した時、東西南北の区別もつかなくて大変だったんだ。道に迷わないための、ただの保険だよ。それに、この機能は紬自身が許可しない限り、作動すらしない」しかし、パソコンを開いても、追跡装置は沈黙を続けたままだった。翼の脳裏に一つの可能性が閃き、彼は口を開いた。「紬に恨みを持つような人間はいない。心当たりがあるとしたら…君の周りの人間じゃないか?」玲司は眉をひそめた。まさか、睦か?彼は慌てて秘書に電話をかけた。「すぐに調べてくれ。橘睦がここ数日、まだ海外にいるかどうかを!」時間だけが、刻一刻と過ぎていく。二人の男はもうじっと座ってなどいられず、焦燥に駆られていた。突然、パソコンの画面に緑色の点が点滅するのを、翼は見逃さなかった。「彼女が、位置情報をオンにした!」二人は、同時に叫んだ。「行くぞ!」冷静さを取り戻した二人は、一人が車を運転し、もう一人が位置情報を追うという見事な連携で、緑色の点が示す場所の特定を急いだ。翼は衛星測位システムを駆使し、正確な位置を割り出した。「ここだ!この座標に、廃ビルがある!」玲司はアクセルを床まで踏み込み、ハイウェイを疾走した。目的地に到着しようという時、秘書から電話が入った。「橘様はここ数日、海外でのカード利用履歴がございましたが、数日前に彼女のパスポートが青葉空港で使用された記録が確認されました。恐らく、利用履歴は偽装工作で、ご本人はすでに青葉市に入国しているものと思われます」「……分かった。位置情報を送る。すぐに警察を呼んでくれ!」翼は、玲司を鋭く睨みつけた。だが、今は責め合っている場合ではない。上で何が起きているか分からない以上、一人でも多い方がいい。
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