離婚手続きを終え、役場を出た遠藤海斗(えんどう かいと)は時計を見た。「あと2分で薬が効き始める。この三日間、君は俺を愛した記憶を全て忘れる。解毒剤を飲めば、この数日間のことも思い出せない。傷つく心配はない。今の離婚はただの一時的なものだ。全てが終わったら復縁しよう。安心しろ。本当の妻は君だけだ」私は黙って彼を見つめた。恐らく復縁の機会などないだろう。この薬の開発者として、私はその効果を熟知していた。記憶は瞬時に消えるのではなく。少しずつ薄れ。最後には愛する人を完全に忘れてしまう。そして何より。解毒剤など存在しない。「後悔しないって確信してるの?」私は静かに問いかけた。彼は笑いながら、私の髪を優しく撫でる。「夏美(なつみ)は長年、俺を愛してくれた。たった一つの願いが俺との結婚式なんだ。断れない。やると決めた以上、後悔はしない。葉子(ようこ)。君はいつも理解ある女性だ。病人と張り合う必要もないだろう。全てが終わったら……また二人で幸せに暮らそう」私は自嘲的に唇を歪ませ、胸に渦巻く苦しみが全身に広がるのを感じ、それ以上何も言わなかった。一番愛し合っていた頃、私は彼のプロジェクトのために接待で飲み過ぎて吐血し、彼は私の研究成果を取り戻すため不眠不休で不整脈になった。後に冗談で言ったことがある。「もし私が年を取って、あなたのことを忘れたらどうする?」その瞬間、彼は目を赤くして、強引に私の唇を奪った。「葉子。忘れないでくれ。でないと俺は狂ってしまう」今、彼は憧れの人の癌を知り、自ら離婚を選び、私に記憶を消す薬を飲ませた。彼女に捧げる三日間。妻という邪魔者のいない完璧な愛が欲しいのだろう。それなら、なぜ復縁などという余計なことを口にするのか。私は一人笑い声を漏らし、自虐的に唇を上げた。その時、突然頭が激しく痛み、体が前のめりに倒れそうになる。海斗は素早く私を支え、深い憂いの眼差しを向けた。「どこか具合が悪いのか?もし本当に不安なら、離婚届も書類も全て君に預けてもいい」私は必死に体を起こし、少し困惑した様子で海斗を見た。「なんの?離婚届?」海斗は一瞬凍りつき探るような声で言った。「葉子。君は離婚したんだ。覚えてるか?」「離婚……?」私の茫然とした顔に彼の目にかすかな
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