あたしの自己紹介を受けてエリさんは、「道理で藤野ミユキ様に似ていると思いました。そうですか双子ですか」 ミユキ母さんのことを知っている風に答えた。「それと、こちらはお土産です。お受け取り下さい」 鞠野教頭先生はコンビニで買って来たものを入れた袋を応接テーブルの脇に置いた。「これは?」「お菓子とか飲み物とか。あとTV番組雑誌です」 それまでクールに見えていたエリさんが、TV番組雑誌と聞いた一瞬だけ、眉をピクッと動かしたのを見た。「ありがとうございます。大変助かります」 この程度の物をこんなにありがたがるってどういうことだろう? と思って冬凪の袖を引っ張ると、後でと振り払われた。いろいろ事情があるらしい。「じゃあ、君たちお茶とお菓子をいただこう」 鞠野教頭先生がそう言いながら紫のマカロンを取って食べ出した。マカロンって昔に流行ったお菓子だ。実際初めて食べる。あたしは冬凪が黄色のと黄緑のとを取ってくれた中から黄緑のを貰って食べてみた。うーん。すごくおいしいというわけでないな。なんか、ふしゅふしゅするし、食べてる感ない。「とってもおいしいです」 冬凪は甘い物が大好きだ。てか、なんでもおいしく食べる。「それはよかったです」 お菓子を頂きながら、エリさんと世間話をしていた鞠野教頭先生が、「それで今日伺ったのは」 と話を切り出した。けれどもエリさんは、その言葉が終わらぬうちに。「こちらの生徒さんに辻沢のことを教えて欲しい、ですね」 と鞠野教頭先生の心を推し量るように答えた。そして辻沢のことを話し出したのだった。 遊郭のこと。青墓のこと。地下道のこと。宮木野神社と志野婦神社のこと。ヴァンパイア伝承のこと。辻沢ヴァンパイア祭りのこと。とても細かく話してくれたが、辻沢町のHPに載ってる街紹介のコラムとほぼ同じ内容で、あれはエリさんが書いたのじゃないかと思うほどだった。 あたしはいいとして、それ以上に熟知している鞠野教頭先生や冬凪は退屈しているだろうと思ったが、まったくそんなことはなく熱心に聞き入っている。どういうことだろうか?
Last Updated : 2025-08-04 Read more