足元を見下ろすと、遥か下方に漆黒の空間が口を開いていた。そこを見ると目の焦点が合わせられない真の暗黒だった。見つめていると目が離せなくなって目玉から脳幹ごと吸い取られそうな感覚。深淵を覗けば深淵がとかいうセリフが生優しすぎることを知った。「これって、ブラックホールに吸い込まれてるんじゃ?」「ワンチャン、あるかも」(死語構文) この時ほど死語構文がクソだと思ったことはなかった。あたしたちがここで死んだら死語もクソもないからだ。 足元のブラックホールは巨大すぎる上に、暗黒の水晶玉が光をバグらせてそこに近づいているかどうかは分からなかった。けれどリング端末の赤いポイントはさらに点滅を激しくしカナメにますます近付いて来ているようだった。「あそこに何か見えます」 鈴風が下を指さして言った。足元のずっと下には光が溢れる銀河の中心に暗黒の巨大水晶玉が嵌っているのが見えた。そこに突き刺さった光の束がこちらに迫り上がってあたしの視野を埋め尽くし光の世界樹になっているのだった。その幹にあたる部分にそこだけ光が歪んでいる場所がある。光の流れが何かを迂回するように外側に出っ張っている。世界樹が大きすぎて実際の距離は分からなかったけれど、それは手を伸ばせば届きそうだった。リング端末を見ると赤い点は点滅を止めカナメにベッタリくっついてしまって役に立たないくなっていた。「これ、スワイプ出来るっぽい」 後ろから冬凪が差し出して来たリング端末のマップの背景は白一色でなく濃淡があった。あたしも自分のリング端末のマップを指でスワイプしてみた。すると平板な画面に濃淡が出来て来て何かを表示し始めた。さらにスワイプする。どんどんその形がはっきりしてくる。「いざよい?」 そこに現れたのは光に包まれた十六夜の顔だった。光の流れが十六夜の髪を洗っている。額は艶やかで美しく、目を優しく瞑り、鼻筋がスッと通って、少し開けた口から牙がのぞいている。頬はピーリング後にニベアしたくらいツルツルだった。その十六夜は、まさに光輝くフードを被った聖母だった。「見て!」 冬凪が小さく叫んだ。光の世界樹を見た。そこにはリング端末で見たままの十六夜が存在していた。全身を世界樹の光の中に包まれれ、顔だけ外部に突き出している。ただ縮尺がバグっていた。その顔は8千
Last Updated : 2025-11-08 Read more