All Chapters of ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文): Chapter 371 - Chapter 380

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3-110.十六夜、だよね?(2/3)

 足元を見下ろすと、遥か下方に漆黒の空間が口を開いていた。そこを見ると目の焦点が合わせられない真の暗黒だった。見つめていると目が離せなくなって目玉から脳幹ごと吸い取られそうな感覚。深淵を覗けば深淵がとかいうセリフが生優しすぎることを知った。「これって、ブラックホールに吸い込まれてるんじゃ?」「ワンチャン、あるかも」(死語構文) この時ほど死語構文がクソだと思ったことはなかった。あたしたちがここで死んだら死語もクソもないからだ。 足元のブラックホールは巨大すぎる上に、暗黒の水晶玉が光をバグらせてそこに近づいているかどうかは分からなかった。けれどリング端末の赤いポイントはさらに点滅を激しくしカナメにますます近付いて来ているようだった。「あそこに何か見えます」 鈴風が下を指さして言った。足元のずっと下には光が溢れる銀河の中心に暗黒の巨大水晶玉が嵌っているのが見えた。そこに突き刺さった光の束がこちらに迫り上がってあたしの視野を埋め尽くし光の世界樹になっているのだった。その幹にあたる部分にそこだけ光が歪んでいる場所がある。光の流れが何かを迂回するように外側に出っ張っている。世界樹が大きすぎて実際の距離は分からなかったけれど、それは手を伸ばせば届きそうだった。リング端末を見ると赤い点は点滅を止めカナメにベッタリくっついてしまって役に立たないくなっていた。「これ、スワイプ出来るっぽい」 後ろから冬凪が差し出して来たリング端末のマップの背景は白一色でなく濃淡があった。あたしも自分のリング端末のマップを指でスワイプしてみた。すると平板な画面に濃淡が出来て来て何かを表示し始めた。さらにスワイプする。どんどんその形がはっきりしてくる。「いざよい?」 そこに現れたのは光に包まれた十六夜の顔だった。光の流れが十六夜の髪を洗っている。額は艶やかで美しく、目を優しく瞑り、鼻筋がスッと通って、少し開けた口から牙がのぞいている。頬はピーリング後にニベアしたくらいツルツルだった。その十六夜は、まさに光輝くフードを被った聖母だった。「見て!」 冬凪が小さく叫んだ。光の世界樹を見た。そこにはリング端末で見たままの十六夜が存在していた。全身を世界樹の光の中に包まれれ、顔だけ外部に突き出している。ただ縮尺がバグっていた。その顔は8千メ
last updateLast Updated : 2025-11-08
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3-110.十六夜、だよね?(3/3)

 ただその十六夜は、何といえばいいのか分からないのだけれど、あたしが螺旋の中心に見た人ではなかった。 言えば、螺旋の中で見た十六夜は世界樹に磔にされて悲惨な様子をしていたけれど、あの十六夜はあたしと園芸部で10円アイスを食べたJKだった。でも今目の前に見えている十六夜は、同じように世界樹にまとわりつかれているけれど、あの十六夜とは違っていた。何が違うのか。よくは分からないけど聖母に見えたり、巨大すぎたりということとは関係ないような気がした。「「なんか違う」」 冬凪と同時だった。冬凪にもあたしと同じ違和感があったみたいだった。「十六夜、だよね?」 思わず口をついていた。 その違和感の正体が何なのか分からなかったけれど、ビジョンに異変が起こったのは分かった。つまり、あたしが螺旋の中に見た時と何かが変わったために、その中心である十六夜に違いができてしまったのだ。「産まれてしまったのかも」 志野婦がだ。そうだとするとここにいる十六夜は何者なんだろう。「鈴風には分かるの? 産まれたかどうか」 最後尾の鈴風がおずおずと答える。「本当ならわかります。私がかけた術ですので。でもこれまでとは感じが違う気がします」 十六夜に志野婦を植え付けたのはクチナシ衆だというのは宮木野線で聞いていた。でもそれが鈴風のしたことだということはここで初めて知った。いや、そうではない。エニシの切り替えの時、そして石舟のアクティベートの時、あたしは鈴風の全てを知った。だから鈴風がしたことが当たり前すぎて、取り沙汰しなかっただけだ。そんなこと気にする必要はないと思っていただけだった。トリマ、鬼子のエニシに聞けばわかることだけど、鈴風に言って欲しかった。「どういうこと?」 語気がつよくなってしまった。「ごめん。説明してくれる?」 鈴風の説明はこうだった。この幻術は志野婦が宿主と入れ替わることで劣化した体を再生するためのものだ。志野婦が身中にいる間は、母体から十分な養分を吸い取れるように赤子に擬態する。そして機が熟すと、つまり出産になると志野婦は再生された元の姿で出てくる。「母体は?」 語気なんて気にしていられなかった。十六夜の体はどうなる?「身体の中心線で二つに割れて、中から志野婦が出て来た後は、着物を脱いだように皮一枚になってしまいま
last updateLast Updated : 2025-11-08
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3-111.死せる者と目覚める者と(1/3)

「まるで屍蝋化した聖者のよう」 冬凪が言った。世界樹の光の中の十六夜は、薄く開けた目蓋の中の瞳に生気がなかった。鼻の穴は狭く、唇は乾いて銀牙にへばり付いている。頬はこけ顎は尖り傾いだ首に見たことのない皺ができていた。「鈴風さんこれはどういうことなの?」 冬凪が聞くと鈴風は声を振るわせながら、「初めての事なので」 とだけ答えた。残酷に聞こえるかもだけど、赤子がどうなったかなんて知らない。そもそもあれは志野婦なんたから。それよりも母体が損なわれたこと、十六夜が死んでしまったことの方が一大事だった。十六夜が志野婦を宿した時の心の内を思い出す。安心し切って新しい命への期待に溢れていた。腹の子が擬態した志野婦なんて考えていなかった。十六夜は我が子を抱く夢を見たまま逝ってしまったのだ。どんな気持ちだったろう。エニシを切った今となっては心の内を覗くことはできないけど辛いだろうのは分る。可哀想な十六夜。涙が出た。「十六夜が!」 冬凪が叫んだ。世界樹の十六夜が前のめりになり光の柱から抜け出し始めていた。頭を下に向けて後頭部をこちらに見せてくる。髪が巻き付いた首がぬるぬると出て来たあと幅広の肩が続き、さらに広大な背中が露わになった。「何が始まるんだろう」 その言葉が終わらないうちに十六夜の背骨に沿って光のスジが走った。そこから世界樹の光を圧する、さらに眩い光が放射される。「何か出てくる」 嫌な予感しかしなかった。あの映画で魔界衆に堕した宮本武蔵も背中を割って出て来たからだった。その予感は当たってしまった。すぐ後その光の放射から人の頭がにじり出て来たのだ。そしてその顔面が露わになった時、「志野婦様!」 鈴風の表情は分からなかったけれど、その声には明らかな動揺があった。あんたの幻術が完成したんだから喜
last updateLast Updated : 2025-11-09
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3-111.死せる者と目覚める者と(2/3)

 世界樹が作る境界のずっと上方に光を爆発的に放射する点があった。その光は世界樹の樹皮を削り光のチップを撒き散らしながら上昇を続けていた。極彩色の光の尾を引くその爆光こそ、さっき十六夜の体を脱殻にして自分だけギューンした志野婦だった。あたし、冬凪、鈴風が乗る石舟は、志野婦の極彩色の尾に引っぱられて光速を超えたようだった。「どこ行くんだろ」「そんなの(ry」(死語構文) ぬるギレ省略。 上へ上へ。志野婦は光に包まれながら突き進んでいた。石舟は世界樹を横に見てそれに追従する。 どれくらいか分からないけどかなりの時間が経ったはずだった。石舟の上で何回も寝たから。景色は世界樹の光の境界と視界の先を爆進する志野婦の光の点だけだから見てるのに飽きた。それでうとうとして夢を見て覚める。またうとうとして夢を見て覚める。それを何巡もした。見た夢で憶えているのもあるけど誰が見た夢か分からないようなものばかりだった「枝分かれしてる」 冬凪が言ったのは世界樹の光の密度のことだった。それまでは分厚い光が視界を遮って、認識の境界(冬凪)、世界の果て(あたし)にしか見えなかった世界樹が光の流れを分岐させていた。上に行くほど光の流れが枝分かれして別の光の流れを作る。新しくできた光の流れは他の光の流れを避けながら、さらなる分岐を繰り返すけれどそれらの光の流れはどれひとつ絡まることはない。未来に起こることを知っているかのように、時間を逆行するかのように。そうやって世界樹は枝を伸ばすように自らの領域を大銀河に広げていた。これこそ万物流転だった。十六夜と雨の校庭で見たアマゾン川と同じ万物流転を示すもののように感じたのだった。 気のせいか、石舟の速度がさらに上がったように感じた。世界樹の光の逆流が前より速くなったから。おそらく志野婦の爆光がさらに速度を上げたのだろう
last updateLast Updated : 2025-11-09
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3-111.死せる者と目覚める者と(3/3)

 頭上に迫る光のトンネル。微かに奥行きが見て取れる。「つっこむよ」「5」「4」「3」「「「!!!!!!!!!」」」 カウント間違えたった。 ゴリゴリーン! ゴリゴリーン! 呼び鈴? バスのアナウンス? どっちにしても場違いな音だった。 いや、ちがう。これは光の衝撃に体が擦り潰される音だ。あたし死んだな。 意識が遠くなって世界が暗転。 ―――そして、再びボクは目覚めたのだった。誰か状況を説明してくれないか?ボクの体が刹那ごとに死と再生を繰り返してるのはいい。光が満ち溢れてるのもいい。硬い石のベンチに跨ってるのも許す。でも、なんで後ろのあの子が死にそうなんだ?つまりボクはあの子を、冬凪を守らなきゃなんないってことか。ボクは死にかけ生き直しながら後ろを振り向いた。背中からゴリゴリーンって音がしている。真後ろに向き直ると、全身が溶けて肉塊になりつつあるあの子を抱き寄せる。まだ命は残っていた。 よくがんばったね。さすがボクの鬼子使いだ。 ボクの魂を半分与えてやる。こうすれば鬼子の再生力が移行して体が溶け切らないで済むはずだ。光の中にもう一人いるのが見えた。体が形を保っているってことは、鬼子か、ヴァンパイアか。 大丈夫か? 助けがいるか?「なんとかいけそうです」 それでも相当の負荷がかかっていそうだった。しばらくして光の圧力が小さくなった。あの子の再生に勢いがつきだした。あとちょっとすれば元に戻るだろう。それまではそばにいてあげたい。 光が悪さをしなくなって少しの間そこに止まっていた。あの子が元の姿を取りもどしたので与えた魂を撤収する。あの子が目を覚ます。その目がボクを見つめ
last updateLast Updated : 2025-11-09
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3-112.水底の人たち(1/3)

 気づくとあたしは石舟の上で後ろを向いてみんなと向かい合っていた。なんでか冬凪と鈴風も真っ裸だ。あたしは猛烈な光の暴力に晒されて死んだかと思ったけれど、生きてみんなの無事を確認することができたのはよかった。「大丈夫?」「う、うん」 冬凪は生まれたばかりの赤ちゃんのように全身ツヤツヤで光に包まれ輝いて見えた。その崇高さに目が離せないでいると、「ちょっと見つめすぎ」 目を伏せて胸を隠した冬凪を見て我に帰る。冬凪とは小さい頃に一緒にお風呂入った仲とはいえ、この状態でいるのはあたしだって気恥ずかしい。まずは前に向きかえる。「じゃ、じゃあ、また後で」 照れ隠しに何を言ってるあたし。 見上げるトンネルの中は光に満ち溢れていた。ずっと上で志野婦の爆光が、光の境界を穿って突き進み光のチップを撒き散らしているのが見える。それがキラキラ輝きながらこっちに降り注いでくる。光の粉があたしの体を包み込む。あったかい。まるでおくるみのよう。 あたしが気を失っていた間、何があったのか鈴風が教えてくれた。「十六夜が?」「鬼子の姿で。でもいつのまにか夏波先輩だったので確かなことは」 あたしが銀製のフォークをブッ刺すのだって、何も瀉血したくてやってるわけではない。それは魂に危機を知らせて身中に鬼子を呼ぶためだ。だから光の衝撃で死にかけたあたしが鬼子になったというのはわかった。でも、それってもともと十六夜が鬼子の魂を分け与えてくれたからではなかったの?十六夜が死んでしまって鬼子の魂が彷徨ってるってこと?それとも、まだ十六夜が生きてるとでも?ありえるんだろうか?あんなシワシワになったのに。 ブラックホールに落ちた十六夜の抜け殻が気になって振り向いた。けれど目に入って来たのは胸を隠そうとする冬凪の姿だった。あたしそんな変態な目で見
last updateLast Updated : 2025-11-10
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3-112.水底の人たち(2/3)

 志野婦の光は石舟を置きざりにして暗雲の中をまっすぐに進みやがて地の果てに消えた。それにつれて石舟に繋がった極彩色の尾も消えてなくなっていった。「落ちてない?」 重力を感じた。すっと鼻に抜ける感じも懐かしかった。下がこんなにはっきりわかるのは久しぶりな気がした。「海?」 眼下に地表が黒々と見えていて、そこに白い波がいくつも立っていた。そこから見張らせる世界は黒い海と真っ赤な溶岩が覆う大地。まるで原初の地球のような。「ここ知ってる」 言ってる間に落水した。高度から落水したらコンクリと一緒って聞いたことがあったけど、案外25メートルプールで飛び込んだくらいの衝撃しかなかった。それでも水に濡れた感覚はあった。水はちょっと酸っぱくて塩味があった。「助けてください」 水面でジタバタしなが鈴風が言った。「石舟に掴まって!」 言ってすぐ冬凪は自分の言葉の矛盾に気がついたらしかった。石舟は自然の法則に従ってずっと前に沈んでしまっていた。「立ち泳ぎだよ!」 急いで別解を提示する。「私泳げないんです」 ツンでるじゃん! そこで、思い出した。「このまま沈もう」「溺れちゃうしょ」 ここが以前来た原初の海だったら。 あたしは全身の力を抜いて沈むことにした。「夏波! 何する気?!」 いったん顔をだして、「ワンチャン、あるかも」(死語構文)「何がよ?!」 冬凪が本ギレで答えたのだった。 夕霧物語を思い出す。夕霧太夫と伊左衛門は最後、青墓のエリクサー湛える伝説の池に沈んだ。その時夕霧は、「またすぐ会える」 と言ったのだ。そして実際に二人は再会している。紫子さんと鞠野フスキとして。だから鬼子は
last updateLast Updated : 2025-11-10
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3-112.水底の人たち(3/3)

 あたしはの説明を聞いた凪が、「でも、十六夜はもう」 やばい。そうだった。また助けに来てくれる気になってた。どうすれば?白砂の底を見渡してみた。すこし離れたところに岩陰が見えた。歩いて近づくと原初の海に沈んだはずの石舟が舳先を上にして白砂に突き刺さっていた。「トリマ、あれを使ってみよう」 石舟に取り付いて、横倒しにしようとしたが力が足りない。なんでかやっているのは冬凪とあたしだけだった。鈴風を探す。いた。最初にいたあたりで突っ伏したまま両手を掻いて白砂を巻き上げていた。「ちょっと行ってくる」 鈴風の元に戻ると、目を固く瞑り頬を膨らませてもがいていた。「鈴風。何してる?」「泳いでます」「あーね。でもいらなくね?」「だって泳がないと溺れますからー」 あたしは振り回している鈴風の腕を掴んで、「歩いてみ」 と立たせた。すると反対の腕をさらに激しくブン回しながら、「泳げました。介助ありがとうございます」 あたしは瞑っている鈴風の目を指でこじ開けて、「歩いてるから。息できてるから」 鈴風はしばらく目にしている景色と体感とをくらべてるみたいだったけど、「あっ」 あっ、じゃねーのよ。VRネーティブって設定どうした?ここに来て「しょーわ」に戻んの何なん? 鈴風を石舟のところまで連れて来て、3人で石舟を起こす作業に取り掛かったのだった。 石舟が倒れて白砂が水中に舞い上がった。それが海底に落ち着くのを待って、改めて自分たちの格好を確認した。みんな水に洗われたせいで光のマライヤ・キャリー状態は全盛期を過ぎてしまっていたけれど、ギリR指定には引っかからない程度には残っていた。つまり大事なところは見えてなさそうだった。3人の格好を見比べてみて、冬凪とあたしは鈴風より子供っぽかった。もう少し体のラインを誤魔化せられる服が欲しいと思ったのだった。
last updateLast Updated : 2025-11-10
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3-113.真六道園の庭師(1/3)

 白砂の海底で、あたし、冬凪、鈴風の順に石舟にまたがってみた。以前あたしがここに来た時、十六夜は長竿で移動してきたけど、そもそもそれは理屈で動いていたのではなさそうだった。「足で漕いでみようか」 三人して足で海底を蹴ってみることにした。「「「せーの」」」 蹴立てた白砂を舞い上がらせながら石舟がずるずると動き出した。「結構簡単でしたね」 鈴風が言った。でも、どうすれば六道園プロジェクトにロックインするか全然分からなかった。「どっか、ROCK・INのアイコンとかない?」 水中にそれらしいのがないか探してみた。ぐるっと見回したが全然なかった。「十六夜はどうやったの?」 あの時あたしは、助けられて安心しきっていたから何も見ていなかった。気が付いたら暗転して横ずれしてて……。 突然体がすっと横に引っ張られる感じがした。目の前が真っ暗になった。「冬凪、何した?」「なんもしてないよ」「じゃあ、鈴風」「何もしてないです」 目の前が明るくなったと思った次の一瞬、見覚えのある池の上空に浮かんでいて、すぐ落水した。「わたし泳げないんです」しょーわはいいからそのバタバタやめろ。「立てるし水じゃないから」 池の水を両手でかき混ぜる鈴風の二の腕を持って立たせる。「ありがとうございます」 あたしたちは池から池の中にある島にあがった。見回すとそこは日本庭園だった。美しく切り整えられた植栽にf値のアンジュレーションが効いた緑の絨毯と州浜。清浄な水をたたえる池の築山が際立っていた。「六道園だよね」 たしかにそうだった。でも十六夜の「元祖」六道園でもあった。州浜が十六夜が提案した白黒の波紋を描いていたから。どちらなのか。庭園の周りを歩いてみる。中島の北にある木橋を渡り遊歩道を歩く。植栽を観ると汀の草まで手入れが行き届いている。敷石の流れが整って見える。ここの庭師は腕がいい。「夏波、あれ見て」 冬凪に呼ばれて庭園の北西を見ると、銀色の円盤を屋上に載せた三角形のビルがそそり立っていた。20年前に倒壊した辻沢町役場だ。「ここって六道園プロジェクトじゃなくて」「辻沢町景メタバース移植プロジェクトだ」 もともと六道園を再生するプロジェクトは、ゴリゴリバース内に失われた辻沢町を移植する大きなプロジェクトの一部だった。それがいまここ
last updateLast Updated : 2025-11-11
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3-113.真六道園の庭師(2/3)

「いつのまに?」 伊礼社長も全体が完成するには20年はかかると言っていた。あたしたちはそんなに長い間、銀河宇宙を航行していたんだろうか。「今浦島ってこと?」 ならここだけじゃなく他の箇所も辻沢町が移植されているはずだ。プランでは六道園が完成したら西山を借景することになっていた。アクセスポイントの石橋まで行ってみた。そこから植栽を抜ければ西の景色が見える。石橋に辿りついたところで、「これはこれは、匠の御方」 築山から聞き覚えのある声がした。築山の須弥山の裏から人影があらわれた。懐かしい小柄なシルエット。丸い背中を曲げて頭をチョコンと下げる。ゼンアミさんだった。やっぱりゼンアミさんがここのプロマネなんだ。「素晴らしい景観ですね」「全て辻沢女子高等学校園芸部の皆さんのお力です」「あたしたちの力、とはよ」 あたしたちが関わった六道園は開発環境までで運用環境にディストリビュートはしていなかった。「姫様と匠の御方の六道園を私ども庭師AIがこちらに移殖いたしました。多少のバージョンアップはございますが、これこそ真の六道園でございます」つまりこれはあたしらの六道園てこと?植栽の隙間に潜って下草を刈った。遊歩道に這いつくばって敷石の粒を揃えた。池水に潜って余計な水藻を刈り尽くした。景観に合わせて石の陰影をマージした。それを全部十六夜と並んでやった。ロックイン制限を忘れて、何回電痛アラームにお尻を刺されたか。 十六夜とあたしが思い描いた真の六道園がここにあった。万物流転が再現されていた。十六夜と一緒にこの景色を観たかった。でももう叶わないと思うと涙が込み上げて来た。 ゼンアミさんが池の水面を歩いて来る。「少し一緒に歩きましょう」 手をう
last updateLast Updated : 2025-11-11
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