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3-112.水底の人たち(2/3)

last update 最終更新日: 2025-11-10 18:00:59

 あたしはの説明を聞いた凪が、

「でも、十六夜はもう」

 やばい。そうだった。

また助けに来てくれる気になってた。

どうすれば?

白砂の底を見渡してみた。

すこし離れたところに岩陰が見えた。

歩いて近づくと原初の海に沈んだはずの石舟が舳先を上にして白砂に突き刺さっていた。

「トリマ、あれを使ってみよう」

 石舟に取り付いて、横倒しにしようとしたが力が足りない。

なんでかやっているのは冬凪とあたしだけだった。

鈴風を探す。

いた。最初にいたあたりで突っ伏したまま両手を掻いて白砂を巻き上げていた。

「ちょっと行ってくる」

 鈴風の元に戻ると、目を固く瞑り頬を膨らませてもがいていた。

「鈴風。何してる?」

「泳いでます」

「あーね。でもいらなくね?」

「だって泳がないと溺れますからー」

 あたしは振り回している鈴風の腕を掴んで、

「歩いてみ」

 と立たせた。すると反対の腕をさらに激しくブン回しながら、

「泳げました。介助ありがとうございます」

 あたしは瞑っている鈴風の目を指でこじ開けて、

「歩いてるから。息できてるから」

 鈴風はしばらく目にしている景色と体感とをくらべてるみたいだったけど、

「あっ」

 あっ、じゃねーのよ。VRネーティブって設定どうした?

ここに来て「しょーわ」に戻んの何なん?

 鈴風を石舟のところまで連れて来て、3人で石舟を起こす作業に取り掛かったのだった。

 石舟が倒れて白砂が水中に舞い上がった。

それが海底に落ち着くのを待って、改めて自分たちの格好を確認した。

みんな水に洗われたせいで光のマライヤ・キャリー状態は全盛期を過ぎてしまっていたけれど、ギリR指定には引っかからない程度には残っていた。

つまり大事なところは見えてなさそうだった。

3人の格好を見比べてみて、冬凪とあた

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