All Chapters of ボクらは庭師になりたかった~鬼子の女子高生が未来の神話になるとか草生える(死語構文): Chapter 381 - Chapter 390

397 Chapters

3-113.真六道園の庭師(3/3)

 あたしの後ろにいたのはゼンアミさんではなく、小柄な体形はしていたけど、シルエットではなかった。頭はツルツルで茶人のような和装をして顔はおじいさんだかおばあさんだかわからない人。人相がめっちゃ悪いんだけど。「トラギク!」 トラギクは築山に飛んで言った。「藤野姉妹、お久しゅうございます。御覧ください。見事な石の立ち姿を。これもみな、辻沢の神、志野婦のおかげでございます」 そう言いながら池水の上を歩き出す。あたしたちは植栽に隠れながら、相手の出方を伺う。トラギクはあたしたちから目を離さないで、クルクルと水面を滑っている。「ところで、藤野姉妹はどうやってここに来たのですか?」 トラギクが懐に手を入れて何かを取り出した。「そもそも、これがなければここへは来られないはずですが」 握った拳を差し出して上に向けそれを開いて見せた。その小さな掌には肌色の枝のようなものが乗っていた。右手の薬指がチクリとした。あれはあたしの薬指なのだ。「それに、どうしてクチナシ衆などと一緒なのです?」 その黄色い瞳で鈴風のことを睨みつける。鈴風も最大限の警戒をしているようで、植栽に隠れる場所を探している。「なるほど、道理で西の果てで石が立たぬという報告があったのか。貴様ら大殿の贄に一体何をした?」 そう言い放つとトラギクは両腕を大きく広げ、それを前後にゆすって呪を唱えだした。「出よ、地獄の亡者よ。閻魔の斗卒よ。この者どもを奈落へ連れて行け」 地鳴りがして植栽が揺れ、湿った風が吹き土埃が舞い、六道園の地水が沸き立ち、真っ赤な色に染まっていく。すると、その血の池の中から、ひだるさまが現れて来たのだった。それも一匹でなく、数限りなく。「これは無理でしょ。逃げるよ」 あたしが先頭で走り出す。鈴風と冬凪がそれについて来る。「逃げるってどこへ?」「あそこに、響先生の高級車ある」
last updateLast Updated : 2025-11-11
Read more

3-114.逃げろ園芸部!(1/3)

 ひだるさまの大群が迫る中、鈴風はエクサスLFAのアクセルを踏み込んだ。エンジンが高音の唸りを上げ、後ろでタイヤを軋ませる音が響く。でもなかなか進まない。その場所でノーズを激しく上下に振るばかりだった。「どした?」「わかりません。進まないです」 あたしは冬凪と一緒でぎゅうぎゅうになってる助手席で後ろを振り返る。見にくっ! 後ろ窓こんなちっさいの?外を見るとひだるさまの鎌爪がいくつも車体にブッ刺さっていた。このせいで発進できなかったのだった。「もっと出力上がらない?」「これ以上やったらエンジンが焼けてしまうかも」 エンジンって鉄なのに焼けるんだ。VRブースに火入れるみたいな?余計なこと考えてるうちに、ひだるさまは車体にさらに群がって来ていて、上に登ったやつの鎌爪が天井を貫き通してきた。深く刺さったものがシートを切り裂いて、もう少しで冬凪の頭を真っ二つにするところだった。しまいにフロントガラスも破られてしまい、2億円のエクサスは使う前にスクラップ状態になった。「脱出しよう」「どうやって?」「足で蹴破って」 鎌爪の攻撃でフロントガラスは粉々だった。「そんなのハリウッド映画でしか観たことないよ!?」「やってみる!」 どうやっても足が届かんのだけど。鈴風はハンドルが邪魔で無理って首を振ってるし。 するとうまいことに助手席側のドアが弾け飛んだ。鎌爪に引っ掛けられたらしい。「こっちから!」 転げながら外に出ると、次々に鎌爪が攻撃を仕掛けてきた。それをギリで避けながら体勢を整え走る。振り切ったと思って後ろを見ると、ついて来てるのは冬凪だけだった。鈴風はまだエクサスのそばにいて、中から這いずり出て来たばかりだった。「鈴風を助けに行く!」 取って返し2億円の残骸に群がるひだるさまに向かって走る。対抗して来るひ
last updateLast Updated : 2025-11-12
Read more

3-114.逃げろ園芸部!(2/3)

 トリマ、手にしたクラッチレバーを捨て、下界を真っ黒に染めているひだるさまを見下ろす。その中心にトラギクがいるはずだけれど分からなかった。「トラギクが本当にあそこにいるなら逃げないよ」 でも、あれはゼンアミさんをアバターにしてロックインして来ただけだ。だから、「トラギクは別の場所にいる」「どこにいると思うの?」 それは分からないけどと言おうとしたら、 プップッピーピー。 場違いな音、バモスくんのクラクションが頭の上から聞こえて来た。 見上げると、おもちゃかってくらいシンプルな底を晒した四輪車がゆっくりと降下して来ていた。「誰だろ? ブクロ親方? 鞠野フスキ?」 バモスくんは着地で盛大に弾み銀色の円盤の縁から落ちそうになった。ギリギリのところでバックしてあたしたちの近くに戻って来たけれど、運転席には誰も乗っていなかった。「どういうこと?」「乗れってことかな?」「こういう時はたいがいそうですよね」 で、あたしたちはバモスくんに乗り込んだ。運転席はヘルメット男の時みたいになんかいそうだから、鈴風には助手席に座ってもらい後部座席に冬凪とあたしが座った。すると、 プップッピーピー。 今、全速力で行きましょうって聞こえなかった? バモスくんは円盤の縁に向かってノロノロ走り出す。大丈夫だよね。落ちたらひたるさまの群れに呑み込まれちゃうけど。 円盤の縁から飛び出た時、ちょっとだけ、いやずいぶん落下した。10階の屋上から3階くらいまで落ちた。もう少しでひたるさまの鍵爪が届くくらいだった。でも、そこからは六道園の上空を旋回しながらゆっくりと上昇を続けたのだった。 上空からは六道園から溢れた出たひだるさまが町役場の周囲を埋め尽くしていて、真っ黒な地面がウズを巻くようにゆっくりと回転しているのが見えた。 充分高くまで上昇するとバモスくんは西に方向を変えた。  
last updateLast Updated : 2025-11-12
Read more

3-114.逃げろ園芸部!(3/3)

 冬凪が何か思い当ったらしい。さらに近づくと駐車場に停まっている高級車がはっきりと見えた。「メルセデス・マイバッハだ」 その近くで人が手を振っている。小太りながら決して不健康な印象を与えない、しまった体躯。少し剥げ上がった頭にトレードマークのもみあげ。いつも青色のサングラスをしていて、その奥の目は眼光鋭くこの世界を睥睨している。「伊礼社長?」 辻沢町景メタバース移植プロジェクトって人まで再現する仕様だったの?一抹の不安を抱えながら、あたしは辻女園芸部の絶対的スポンサー、ヤオマンHD社長、伊礼魁氏に再会したのだった。 バモスくんが芝生の庭に乱暴に着地した。バウンドした車体の揺れがようやく収る。頭がくらくらしながら見たら伊礼社長がゆっくりとこちらに近づいて来ていた。あたしが車から降りようとすると冬凪が腕を掴んで止めた。「夏波。なんか変だよ」 そう言われて伊礼社長をよく見てみた。「どこが?」「目の中が」 伊礼社長の青サングラスの奥を見た。その瞳の中にはあたしたちが石舟で見てきた大銀河が渦巻いていた。「あなたは誰?」 伊礼社長はうっすらと笑顔を貼り付けたような表情をして言った。「伊礼ですよ。本物の」「本物?」「あなたたちが今まで会っていたのは私のアバターです。今、目の前にいるのが実物の私なのです」 ヤオマンHDのお嬢である十六夜が実物の伊礼魁氏に会ったことがあるかは分らない。けれど確かにあたしは伊礼社長にリアルで会ったことはなかった。VRセッションでしか関わったことがなかったから。「その本物さんがあたしたちに何の用なの?」 バモスくんまで引っ張り出して来てまるで味方のような振る舞いだけど、目の前にいる本物の伊礼魁からは不穏な雰囲気しか感じられなかった。「冬凪、鈴風。逃げるよ」(小声)
last updateLast Updated : 2025-11-12
Read more

3-115.鈴風の裏切り(1/3)

 鈴風は、本当は一緒に来る必要なんかなかった。それをわざわざ激痛に2度も耐えてエニシの切り替えまでしてついて来た。エニシの月、巨大真球に激突して死んだかもで、50万光年ぶっ飛んで、光の枝に突入して全身ドロドロになりながら生きながらえて、ひだるさまに八つ裂きにされそうになって。このままだったらマジでありがとなんだけど。そうまでしてついて来てくれた鈴風が裏切った。園芸部員なのに。流石にそれは|堪《こた》えた。ただし表面上は。ここで萎えていては全てがダメになるから、おとなしく伊礼魁の策略に従うことにする。 ところでここはいったいどこなんだ?最初は六道園プロジェクトの中、つまりゴリゴリバースの中だと思った。それが辻沢町景メタバース移植プロジェクトだとしても同じことのはずだ。でも伊礼魁は自分の事を「本物」だと言った。じゃあ今いる冬凪や鈴風、あたしは本物なのか? アバターなのか?エニシの月に激突するまでは確かに現実だった。じゃあ、その後は?ほっぺをつねるのはVRネーティブなら絶対に出来ない。それが誰かに知れて拡散されたら、VRタトゥーになってしまうから。 冬凪とあたしは鈴風の小脇に抱えられたまま伊礼魁の後をついて行く。白亜のモダン建築の中へ連れて行かれるようだ。無駄に巨大な玄関が開き、中に入ると空気がひんやりとしていた。とても冷たい、人の温もりを感じないこの空気に覚えがあった。いつか来たことがある気がする。 そう思ったら体に震えが来た。雄蛇ヶ池で経験したデジャヴュの時と同じだった。ただ今度は薬指でなく右の掌が痛かった。誰かにぎゅっと握られている感じだ。その掌を目に近づけてみた。誰かの手があたしの手を握っていた。それは幼い、小学生くらいの女の子だった。あたしはその子に見覚えがあった。 ―――ユウ?
last updateLast Updated : 2025-11-13
Read more

3-115.鈴風の裏切り(2/3)

 伊礼魁は後ろ歩きになって、延々辻沢町景メタバース移植プロジェクトの自慢話をし出した。 何がいいのか? 昔の風情を残しつつ生活感ある空間になっていること。派手な建物や統一感のない意匠はいっさい排除して出来た理想の辻沢、なんだそう。でもそれって移植でなくないか?だって、好きに配置して気に食わないものは間引きしたってことでしょ?ゼンアミさんなら、いちいちエビデンス下さいってうるさく言ってそうさせてくれないけどな。「でも、あのド派手な町役場は移植したんですね。やっぱり町のシンボルだからですか?」 冬凪が質問を投げた。さすがミユキ母さんの血脈を継ぐ学究の徒だね。こんなときでも知的好奇心を抑えらんない。「違うのだよ。シンボルだからではない。あの建物はメタボ建築の巨匠、|菊竹清訓《きくたけせいくん》先生のお弟子さんのお弟子さんのお弟子さんが設計したもので歴史的意義があるからだよ」 ひ孫弟子って、セークン先生メッチャ薄まってそうだけど、大丈夫そ?(死語構文) でも、そんなにエライ人だったってことだね。それよりメタボってのが気になってしまった。だからひだるさまや蛭人間ってメタボ腹だったの? ちがう? 廊下が長かったのか話が長かったのか。きっと両方だろう、突き当たりの真っ黒な観音開きのドアの前に来る頃には、冬凪もあたしも、なんなら鈴風まで疲れて目にクマ、頬がげっそりだった。 伊礼魁が重そうな扉の前に立つと真ん中に白い筋が入った。扉が開いて光が溢れ出して来て目が開けられなくなった。目が慣れて見ると正面に作業服姿の人が頭を下げていた。「いらっちゃいませ」 赤さんだった。顔を上げると鼻の下に口がなかった。クチナシ衆デフォスタイル。鈴風がそっちなら赤さんも、佐々木さんや曽根さんだって同じなはず。赤さんの後ろに居並ぶ口のない人たちの中に二人の姿を見つけた。いつもマスクをしていたので口が無くなっても違和感ない。
last updateLast Updated : 2025-11-13
Read more

3-115.鈴風の裏切り(3/3)

 巨樹の根元には人が一人立てるくらいの幅と高さの窪みが二つ並んでいる。いやな予感しかない。おそらくこれは、「人柱用ですか?」 冬凪が先に質問をする。この二つの窪みに人を埋めるということか。「そう。ここに辻沢の神を埋めます」 辻沢の神とは、おそらく志野婦。もう一人はその姉の宮木野のことだろう。二人は辻沢ヴァンパイアの始祖で、その力は強大で誰にも制御できないはずだ。「どうやって?」 伊礼魁はわざとらしく意外だといった表情をあたしたちに向けてきた。「あなた方が連れて来てくるのですよ」 イミフ(死語構文)なことをシラッという。そのために十六夜を救いに来させたのかもしれないけれど、志野婦はまんまとどこかに飛んで行ってしまった。それ冬凪とあたしとで連れて来いと? 伊礼魁は冬凪を見ながら十六夜に志野婦を孕ませた理由を説明した。鈴風が使った妖術「|身中蛹化《しんちゅうようか》」(忍法|○界転生《○かいてんしょう》じゃなかった)は、最初は胎児の形をしているけれど、大きく成長してくると外郭以外の中のものは全てドロドロになる。それを蛹化というのだけれど、その時、母子はそれぞれの特性を混合して一体化する。そして完成すると子だけが羽化するのだそう。「つまり、鬼子の特性を持った志野婦に生まれ変わるというわけです」「それでどうしてあたしたちが志野婦を連れてこられることになるの?」「冬凪さんは十六夜嬢の何でしたか?」 伊礼魁が冬凪に向き直って言った。冬凪は、はっとして何かに気づいたようだ。「鬼子と鬼子使いの仕組み」 どういうことかというと?「鬼子は鬼子使いの言うことを聞くから、あたしが呼べば十六夜の鬼子の性分が反応して志野婦がやって来る」「そうだった! それか、気づかなかった!」 ちょっと大げさに驚いて見せった。「でも、そんなことするくらいなら、お腹の
last updateLast Updated : 2025-11-13
Read more

3-116.風鈴の謀反(1/3)

 赤さんたちは伊礼魁と鈴風が立っているところにVRブースを付けた。その他のクチナシ衆がストレッチャーを横付けにする。VRブースの中には鬼子の顔をしたブレイズ髪の人が座っていた。あたしの薬指が疼いたので鬼子顔の人の手を見ると薬指がなかった。それであたしはユウさんだと確信したのだった。ユウさんはヤオマン屋敷の十六夜のように入院服を着せられ沢山のチューブやコードが医療機器に繋げられていた。二の腕に嵌った金属の管から出ている赤いチューブはきっと瀉血用のものにちがいないけれど何のためなのかは分からなかった。十六夜と違ったのはVRゴーグルを被っていないのと、上半身と太ももにある金属の拘束具で身動きが出来ないようにされていることだった。あきらかに意志に反して拘束されているようだった。「ユウさん?」 近づこうとすると赤さんの両刃が首に食い込むので声だけ掛けた。けれどあの時の十六夜と同じく鬼子の顔をしたユウさんは目をつぶったまま反応がなかった。「ユウさんをどうする気?」 それは言わなくても分かっていた。十六夜のように鈴風の「|身中蛹化《しんちゅうようか》」を掛けるつもりなのだ。でもそれが何で高倉さんなのか分からなかった。高倉さんを見てみた。高そうな和服を着ているのはいつもと変わらなかった。ストレッチャーで横になり目をつぶり胸の上で腕を組んでいる。その姿に見覚えがあるような気がした。山椒の木の下の横たわった和服姿の女性。「遊女宮木野」「わがちをふふめおにこらや」 冬凪が続けた。鞠野ノスキと訪ねた旧町役場のホールにあった銅像だ。「この人が遊女宮木野? 母宮木野だよね。じゃあ高倉さんは宮木野と志野婦のお母さんだっていうこと?」それには冬凪がいつもの指をL字にしてあごに当てるポーズになって、「待って。世界樹に空いた二つの孔。片方に志野婦が入るなら、もうひとつにはそれに見合う何かが入るはず。始祖の双子は母宮木野
last updateLast Updated : 2025-11-14
Read more

3-116.風鈴の謀反(2/3)

 伊礼魁はさっき聞いたような話をしている。長くなりそうなので世界樹の孔の中で大人しくしている志野婦を見てみた。髪の毛も銀色をしていて、産んだ十六夜の面影はまったくなかった。美しい青年のような顔をしていた。目が金色で口の端から銀牙が出てなかったら普通にお付き合いしたくなるイケメンだった。そうだ、この人がクチナシの人なのだった。なるほどみんなが推しちゃう理由が分かった。自分の胸の中にある暖かい何かを刺激しまくる魅力がある。もっと見ていたいってなる。近づいて触れたくなる。「夏波!」 冬凪に呼ばれてわれに返った。もう少しで虜になるところだった。血を差し上げたいって思ってた。「風鈴よ。まだ術は始まらないのか?」 鈴風はユウさんと高倉さんの薬指を重ねて握り最初のように呪文を唱え続けている。「どうした。この間はすぐに志野婦が抜け殻になっていたではないか。何か問題でも? 何を黙っている。報連相はどうした? ビジネスの基本ぞ」「もう少しかかります。VRブースの方、かなり抵抗力が強く、なかなか術を受け入れようとしません」「そうか。分かった。夕霧ともなると女子高生とは違うな。で宮木野は?」「こちらの方も同じく」「宮木野と夕霧。最強の二人を重ね合わせて真正宮木野が生まれる。それはそれは強い存在となろう」 その時だった。真っ白い空間が広がる場所で爆発が起きた。煙が立ち上り空間が崩れて出来た瓦礫を乗り越えて、真っ黒な一団が侵入して来た。赤襦袢と青半纏。両手の大きな鎌爪を振りかざしてこちらに近づいてくるのは、ひだるさまの大群だった。「何事?」 伊礼魁の周りにクチナシ衆が集まる。「大殿を別室へ」 赤さんの号令で佐々木さんに手を引かれ伊礼魁は見えない扉の中に消えた。そして、「ブースとストレッチャーを安全な場所へ」 さらに指
last updateLast Updated : 2025-11-14
Read more

3-116.風鈴の謀反(3/3)

 冬凪とあたしはひだるさまとクチナシ衆が闘っているのを横目に、世界樹の根元に向かった。世界樹の周りは人手が足りてないのか、VRブースとストレッチャ―が放置されていた。ただ一人、鈴風だけがそのそばで立って見張りをしているようだった。「お疲れ。鈴風。もーそろ謀反しない?」「……」 鈴風の真面目な表情は園芸部でVRブースのメンテをしている時を思い出させた。「いやでも、志野婦は貰ってゆくよ。あとユウさんと高倉さんも」「それは……」 断られなかったので、VRブースからユウさんを出してあたしが背負い、ストレッチャーから高倉さんを下ろして冬凪が背負った。そして志野婦に向かって冬凪が、「行くよ」 と言うと、世界樹の孔の中で窮屈そうにしていた志野婦が、「君たち、遅いよ」 といって伸びをしたのだった。「そうだ。それよりこの服、何とかできないかな。紐ないと前がはだけて恥ずい」すると鈴風が空間にコマンド画面を出して、「何がいいです? 青血のセーラー服か、恋血のブレザーか。ハピ血の赤いのか」 夜野まひるの制服を勧めてくれたけれど、あれ着ると歌って踊りたくなるから、「いや、辻女の制服でいいよ」 鈴風は残念そうな顔をしながらも冬凪とあたしを辻女のセーラー服に着替えさせてくれた。「わたしもそうします」 と鈴風も着替える。そしてコマンド画面を閉じようとしたら背後から、「ボクも同じので」 志野婦が言ったのだった。ならユウさんも高倉さんも辻女の制服に着替えて貰い、みんなで辻女生になった。「これからどこ行こ?」 冬凪がいたずらっぽい表情で聞いて来た。知ってるくせに。「もちろん一番大事な人たちの所だよ」 あたしが応えると、冬凪は満足そうな顔をした。 クチナシ衆と六道衆、二派の闘争を横目に、真っ白い空間を歩き出す。
last updateLast Updated : 2025-11-14
Read more
PREV
1
...
353637383940
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status