石舟が動き出すと同時に気温が戻って、凍結ひだるさまも動き出す。 豆蔵くんと定吉くんが肩と腕に荒縄を食い込ませ石舟を曵く。豆蔵くんと定吉くんにひだるさまが容赦なく襲いかかってくる。シャムシールを見切った赤黒い襦袢の鎌爪が豆蔵くんの肉を裂く。月光の乳白色に血飛沫が上がる。定吉くんが青灰色の半纏の銀牙を腕で受ける。骨が砕ける音がして臙脂色にシャムシールが沈む。「二人が死んじゃう!」 あたしは銀製フォークを振り上げ、自分の太もも目掛けてブッ刺した。銀製フォークが弾かれて態勢が流される。見ると豆蔵くんがシャムシールをこちらに差し出していた。それで銀製フォークを払ったのだ。「う」 必要ない。豆蔵くんが言った。「う」 これくらいなんともない。定吉くんが肘から先がなくなった二の腕をあげた。そして逆の手で臙脂色の中からシャムシールを掴み出し、自分の腕を咥えた青灰色の半纏の素っ首を刎ねて、笑って見せたのだった。「わたしも闘います」 鈴風が瞳を金色にして石舟を降りようとすると、「う」 お前たちが降りたら神事は終わる。 豆蔵くんに引き止められた。 豆蔵くんと定吉くんはひだるさまの猛攻に耐え、決して荒縄を離さなかった。片腕のない定吉くんなどは荒縄を口に咥えシャムシールを降るっている。それでも限りなく襲い来るひだるさまは少しづつ二人の美しい身体を削って行く。それをみかねた鈴風が舳先に立って二人に降りかかる災忌を防ぎ始めた。あたしは石舟から鈴風の腰に、冬凪はあたしの体にしがみついて落ちないようにするので精一杯だ。鈴風は素手だ。武器を持たない手でひだるさまの銀牙や鎌爪を防ぐので鈴風の手先はすぐにザクザクになってしまう。それでも手先がなくなることはないのはヴァンパイアの再生力のおかげだろう。 でももう限界
Last Updated : 2025-11-05 Read more