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3-112.水底の人たち(2/3)

last update Huling Na-update: 2025-11-10 11:00:52

 志野婦の光は石舟を置きざりにして暗雲の中をまっすぐに進みやがて地の果てに消えた。

それにつれて石舟に繋がった極彩色の尾も消えてなくなっていった。

「落ちてない?」

 重力を感じた。すっと鼻に抜ける感じも懐かしかった。

下がこんなにはっきりわかるのは久しぶりな気がした。

「海?」

 眼下に地表が黒々と見えていて、そこに白い波がいくつも立っていた。

そこから見張らせる世界は黒い海と真っ赤な溶岩が覆う大地。まるで原初の地球のような。

「ここ知ってる」

 言ってる間に落水した。

高度から落水したらコンクリと一緒って聞いたことがあったけど、案外25メートルプールで飛び込んだくらいの衝撃しかなかった。

それでも水に濡れた感覚はあった。

水はちょっと酸っぱくて塩味があった。

「助けてください」

 水面でジタバタしなが鈴風が言った。

「石舟に掴まって!」

 言ってすぐ冬凪は自分の言葉の矛盾に気がついたらしかった。

石舟は自然の法則に従ってずっと前に沈んでしまっていた。

「立ち泳ぎだよ!」

 急いで別解そりゅーしょんを提示する。

「私泳げないんです」

 ツンでるじゃん!

 そこで、思い出した。

「このまま沈もう」

「溺れちゃうしょ」

 ここが以前来た原初の海だったら。

 あたしは全身の力を抜いて沈むことにした。

「夏波! 何する気?!」

 いったん顔をだして、

「ワンチャン、あるかも」(死語構文)

「何がよ?!」

 冬凪が本ギレで答えたのだった。

 夕霧物語を思い出す。夕霧太夫と伊左衛門は最後、青墓のエリクサー湛える伝説の池に沈んだ。

その時夕霧は、

「またすぐ会える」

 と言ったのだ。

そして実際に二人は再会している。紫子さんと鞠野フスキとして。

だから鬼子は

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     気づくとあたしは石舟の上で後ろを向いてみんなと向かい合っていた。なんでか冬凪と鈴風も真っ裸だ。あたしは猛烈な光の暴力に晒されて死んだかと思ったけれど、生きてみんなの無事を確認することができたのはよかった。「大丈夫?」「う、うん」 冬凪は生まれたばかりの赤ちゃんのように全身ツヤツヤで光に包まれ輝いて見えた。その崇高さに目が離せないでいると、「ちょっと見つめすぎ」 目を伏せて胸を隠した冬凪を見て我に帰る。冬凪とは小さい頃に一緒にお風呂入った仲とはいえ、この状態でいるのはあたしだって気恥ずかしい。まずは前に向きかえる。「じゃ、じゃあ、また後で」 照れ隠しに何を言ってるあたし。 見上げるトンネルの中は光に満ち溢れていた。ずっと上で志野婦の爆光が、光の境界を穿って突き進み光のチップを撒き散らしているのが見える。それがキラキラ輝きながらこっちに降り注いでくる。光の粉があたしの体を包み込む。あったかい。まるでおくるみのよう。 あたしが気を失っていた間、何があったのか鈴風が教えてくれた。「十六夜が?」「鬼子の姿で。でもいつのまにか夏波先輩だったので確かなことは」 あたしが銀製のフォークをブッ刺すのだって、何も瀉血したくてやってるわけではない。それは魂に危機を知らせて身中に鬼子を呼ぶためだ。だから光の衝撃で死にかけたあたしが鬼子になったというのはわかった。でも、それってもともと十六夜が鬼子の魂を分け与えてくれたからではなかったの?十六夜が死んでしまって鬼子の魂が彷徨ってるってこと?それとも、まだ十六夜が生きてるとでも?ありえるんだろうか?あんなシワシワになったのに。 ブラックホールに落ちた十六夜の抜け殻が気になって振り向いた。けれど目に入って来たのは胸を隠そうとする冬凪の姿だった。あたしそんな変態な目で見

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     頭上に迫る光のトンネル。微かに奥行きが見て取れる。「つっこむよ」「5」「4」「3」「「「!!!!!!!!!」」」 カウント間違えたった。 ゴリゴリーン! ゴリゴリーン! 呼び鈴? バスのアナウンス? どっちにしても場違いな音だった。 いや、ちがう。これは光の衝撃に体が擦り潰される音だ。あたし死んだな。 意識が遠くなって世界が暗転。 ―――そして、再びボクは目覚めたのだった。誰か状況を説明してくれないか?ボクの体が刹那ごとに死と再生を繰り返してるのはいい。光が満ち溢れてるのもいい。硬い石のベンチに跨ってるのも許す。でも、なんで後ろのあの子が死にそうなんだ?つまりボクはあの子を、冬凪を守らなきゃなんないってことか。ボクは死にかけ生き直しながら後ろを振り向いた。背中からゴリゴリーンって音がしている。真後ろに向き直ると、全身が溶けて肉塊になりつつあるあの子を抱き寄せる。まだ命は残っていた。 よくがんばったね。さすがボクの鬼子使いだ。 ボクの魂を半分与えてやる。こうすれば鬼子の再生力が移行して体が溶け切らないで済むはずだ。光の中にもう一人いるのが見えた。体が形を保っているってことは、鬼子か、ヴァンパイアか。 大丈夫か? 助けがいるか?「なんとかいけそうです」 それでも相当の負荷がかかっていそうだった。しばらくして光の圧力が小さくなった。あの子の再生に勢いがつきだした。あとちょっとすれば元に戻るだろう。それまではそばにいてあげたい。 光が悪さをしなくなって少しの間そこに止まっていた。あの子が元の姿を取りもどしたので与えた魂を撤収する。あの子が目を覚ます。その目がボクを見つめ

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     世界樹が作る境界のずっと上方に光を爆発的に放射する点があった。その光は世界樹の樹皮を削り光のチップを撒き散らしながら上昇を続けていた。極彩色の光の尾を引くその爆光こそ、さっき十六夜の体を脱殻にして自分だけギューンした志野婦だった。あたし、冬凪、鈴風が乗る石舟は、志野婦の極彩色の尾に引っぱられて光速を超えたようだった。「どこ行くんだろ」「そんなの(ry」(死語構文) ぬるギレ省略。 上へ上へ。志野婦は光に包まれながら突き進んでいた。石舟は世界樹を横に見てそれに追従する。 どれくらいか分からないけどかなりの時間が経ったはずだった。石舟の上で何回も寝たから。景色は世界樹の光の境界と視界の先を爆進する志野婦の光の点だけだから見てるのに飽きた。それでうとうとして夢を見て覚める。またうとうとして夢を見て覚める。それを何巡もした。見た夢で憶えているのもあるけど誰が見た夢か分からないようなものばかりだった「枝分かれしてる」 冬凪が言ったのは世界樹の光の密度のことだった。それまでは分厚い光が視界を遮って、認識の境界(冬凪)、世界の果て(あたし)にしか見えなかった世界樹が光の流れを分岐させていた。上に行くほど光の流れが枝分かれして別の光の流れを作る。新しくできた光の流れは他の光の流れを避けながら、さらなる分岐を繰り返すけれどそれらの光の流れはどれひとつ絡まることはない。未来に起こることを知っているかのように、時間を逆行するかのように。そうやって世界樹は枝を伸ばすように自らの領域を大銀河に広げていた。これこそ万物流転だった。十六夜と雨の校庭で見たアマゾン川と同じ万物流転を示すもののように感じたのだった。 気のせいか、石舟の速度がさらに上がったように感じた。世界樹の光の逆流が前より速くなったから。おそらく志野婦の爆光がさらに速度を上げたのだろう

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    「まるで屍蝋化した聖者のよう」 冬凪が言った。世界樹の光の中の十六夜は、薄く開けた目蓋の中の瞳に生気がなかった。鼻の穴は狭く、唇は乾いて銀牙にへばり付いている。頬はこけ顎は尖り傾いだ首に見たことのない皺ができていた。「鈴風さんこれはどういうことなの?」 冬凪が聞くと鈴風は声を振るわせながら、「初めての事なので」 とだけ答えた。残酷に聞こえるかもだけど、赤子がどうなったかなんて知らない。そもそもあれは志野婦なんたから。それよりも母体が損なわれたこと、十六夜が死んでしまったことの方が一大事だった。十六夜が志野婦を宿した時の心の内を思い出す。安心し切って新しい命への期待に溢れていた。腹の子が擬態した志野婦なんて考えていなかった。十六夜は我が子を抱く夢を見たまま逝ってしまったのだ。どんな気持ちだったろう。エニシを切った今となっては心の内を覗くことはできないけど辛いだろうのは分る。可哀想な十六夜。涙が出た。「十六夜が!」 冬凪が叫んだ。世界樹の十六夜が前のめりになり光の柱から抜け出し始めていた。頭を下に向けて後頭部をこちらに見せてくる。髪が巻き付いた首がぬるぬると出て来たあと幅広の肩が続き、さらに広大な背中が露わになった。「何が始まるんだろう」 その言葉が終わらないうちに十六夜の背骨に沿って光のスジが走った。そこから世界樹の光を圧する、さらに眩い光が放射される。「何か出てくる」 嫌な予感しかしなかった。あの映画で魔界衆に堕した宮本武蔵も背中を割って出て来たからだった。その予感は当たってしまった。すぐ後その光の放射から人の頭がにじり出て来たのだ。そしてその顔面が露わになった時、「志野婦様!」 鈴風の表情は分からなかったけれど、その声には明らかな動揺があった。あんたの幻術が完成したんだから喜

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     ただその十六夜は、何といえばいいのか分からないのだけれど、あたしが螺旋の中心に見た人ではなかった。 言えば、螺旋の中で見た十六夜は世界樹に磔にされて悲惨な様子をしていたけれど、あの十六夜はあたしと園芸部で10円アイスを食べたJKだった。でも今目の前に見えている十六夜は、同じように世界樹にまとわりつかれているけれど、あの十六夜とは違っていた。何が違うのか。よくは分からないけど聖母に見えたり、巨大すぎたりということとは関係ないような気がした。「「なんか違う」」 冬凪と同時だった。冬凪にもあたしと同じ違和感があったみたいだった。「十六夜、だよね?」 思わず口をついていた。 その違和感の正体が何なのか分からなかったけれど、ビジョンに異変が起こったのは分かった。つまり、あたしが螺旋の中に見た時と何かが変わったために、その中心である十六夜に違いができてしまったのだ。「産まれてしまったのかも」 志野婦がだ。そうだとするとここにいる十六夜は何者なんだろう。「鈴風には分かるの? 産まれたかどうか」 最後尾の鈴風がおずおずと答える。「本当ならわかります。私がかけた術ですので。でもこれまでとは感じが違う気がします」 十六夜に志野婦を植え付けたのはクチナシ衆だというのは宮木野線で聞いていた。でもそれが鈴風のしたことだということはここで初めて知った。いや、そうではない。エニシの切り替えの時、そして石舟のアクティベートの時、あたしは鈴風の全てを知った。だから鈴風がしたことが当たり前すぎて、取り沙汰しなかっただけだ。そんなこと気にする必要はないと思っていただけだった。トリマ、鬼子のエニシに聞けばわかることだけど、鈴風に言って欲しかった。「どういうこと?」 語気がつよくなってしまった。「ごめん。説明してくれる?」 鈴風の説明はこうだった。この幻術は志野婦が宿主と入れ替わることで劣化した体を再生するためのものだ。志野婦が身中にいる間は、母体から十分な養分を吸い取れるように赤子に擬態する。そして機が熟すと、つまり出産になると志野婦は再生された元の姿で出てくる。「母体は?」 語気なんて気にしていられなかった。十六夜の体はどうなる?「身体の中心線で二つに割れて、中から志野婦が出て来た後は、着物を脱いだように皮一枚になってしまいま

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