Semua Bab 優しい愛に包まれて~イケメン君との同居生活はドキドキの連続です~: Bab 21 - Bab 30

71 Bab

2 旦那の痛い言葉

「もちろん」私はうなづいて、キッチンに行こうとした。「いいよ、自分で入れるから。良かったら結姉も一緒に飲もうよ。いいでしょ?」颯君の人懐っこいその一言に癒され、何だかホッとした。「……そうね。じゃあ、私ももらおうかな」確かにまだ胸の辺りがモヤモヤする。だけど、今は颯君の優しい気持ちに甘えようと思った。キッチンの中で、颯君はコーヒーメーカーを使った。「はい、結姉。どうぞ」「ありがとう。いただきます」「きっと美味しいよ、俺がいれたコーヒー」「……うん、そうだね」温かいコーヒーに口をつける。「どう?」「美味しい。とっても」「良かった」「誰かにいれてもらうコーヒーって、久しぶりかも。いつも自分でいれてたから」「そうなんだ」「うん。颯君のコーヒー、すごく美味しいし、身も心も癒される」「当たり前だよ、だって……」「……?」「結姉に美味しいって言ってもらいたくて、心を込めていれたんだから。他の誰でもない、結姉に」いいのだろうか、私なんかがこんなに優しい言葉をもらっても……そんな気持ちが胸に押し寄せる。「あ、ありがとう……」私達は、今、広いダイニングテーブルにたった2人。向かい合って座っている颯君は、あまりにもオシャレでカッコ良い。何日一緒にいても、まだまだこの状況には慣れない。でも……さっき見た旦那と智華ちゃんは、もうすっかり慣れた感じだった。私には見せない笑顔。あんな雰囲気で話せる関係って……「あのさ、この前の話しだけど……」颯君の声で我に返った。旦那のことなんて、今は考えたくないのに……「えっ、ん?この前の話……って、何の話だった?」「忘れた?」「えっ……」「俺さ、やっぱり結姉に絵のモデルになってもらいたいんだ」「あ……モデルの話……」「そう」私は、そのことに対してすぐに返事ができなかった。戸惑ってる私を、颯君がずっと見ている。整った眉にキラキラした瞳。色白で、少しハーフモデルのような……とっても綺麗な顔をしている。そんな颯君にこの私が絵のモデルを頼まれているなんて、やっぱり信じられない。「俺、結姉のことキャンバスに描きたい。絶対に……描きたいんだ」颯君は、まるでわがままな子どもみたいに言った。どうしてここまで真剣に、こんな私なんかを描きたいと言ってくれるのか……私には理解できなかっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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3 旦那の痛い言葉

そう言って頭を下げる颯君に、何ともいえない誠実さを感じた。「頭を上げて。最高の作品だなんて、すごく嬉しいけど、本当に……私でいいの?正直、全然自信がないから……。せっかくの颯君の作品を汚してしまわないか心配で」「は?なんで結姉が俺の作品を汚すの?そんなことあるわけない」「……でも……」「俺は結姉を描きたいんだ。お願いだから、描かせて」「どうしてそこまで言ってくれるのかわからないけど……でも、ほんの少しでも颯君のお役に立てるなら……」「ほんと!?モデルになってくれるの?」颯君は、私の返答にかなり食い気味に自分の言葉を被せた。「私は見た目も中身も綺麗じゃないけど、それでもいいなら……後悔されてしまうかも知れないよ」あまりにも颯君が真剣だったから……私はその熱い思いに負けてしまった。「俺はありのままの結姉を描きたい。後悔なんか絶対しない。めちゃめちゃ嬉しい……本当にありがとう。勇気出してお願いして良かった」こんなにも無邪気に喜んでくれたら、思わず私まで笑顔になってしまう。今まで、誰かに自分を描いてもらうなんて想像したこともなかった。素直で優しい綺麗な心を持った颯君には、私がどんなふうに映るんだろう?汚い部分も……見えてしまうかも知れない。私の醜い感情を引き出されてしまったら、とんでもないことまで暴かれてしまいそうで、少し怖いけれど……「じゃあ、俺、いろいろ準備する物があるから買ってくる」「え?今から?仕事はいいの?」「大丈夫。それはちゃんとやるから。早く結姉を描きたいんだ。じゃあ、行ってくるね」さっきまで不機嫌だった私――なのに、颯君に描いてもらえることになって、もう機嫌が直ってる?女って……本当に調子のいい生き物だ。私は自分に対して苦笑いをして、また掃除を始めた。みんなは、今、この別荘でそれぞれ思い思いの時間を過ごしている。男女5人の同居人がやって来てから、私の生活は180度変わった。ねえ、パパ――これがパパが与えてくれた私の新しい人生なんだよね?いろんなことがあるけど、でも、私、精一杯頑張るね。この別荘……絶対に、大事に守るから。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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4 旦那の痛い言葉

そのうちお義母さんも智華ちゃんも出かけて、買い物に出た颯君が戻ってきた。「おかえりなさい、颯君。買い物どうだった?」「うん、画材、いろいろ買えたよ。まだまだ欲しいのがあるから違う店にも行きたいと思ってる」「そうなんだ……私は絵のことが全然わからないから、きっと絵の具ひとつにしても、いろんな種類があるんだろうね。子どもの頃、学校の授業で描いた程度だけど、絵の具を混ぜて新しい色を作るのって、確かに楽しかった記憶がある」「本当?何か嬉しいな。俺も絵の具が好きで、綺麗な色が出来たらすごく嬉しかった。でも二度と同じ色って作れないから、なんか切なくなったりもして」「本当だね。同じ色は……絶対に作れないよね。颯君、さすがだね。私とは感性が違うね。きっとそういうところが画家さんに向いてるんだよね。画材を大切に思ってるとこ……素敵だと思う」「ありがとう。あんまりこういう話ができる人いないから、嬉しかった。あっ、そうだ。お昼、サンドイッチ買ってきたから一緒に食べない?他に誰かいる?」「あ、ありがとう。うん……旦那がいる」「健太さんいるんだ。じゃあ、3人で食べよ」颯君は、買ってきてくれたサンドイッチを綺麗にお皿に移して、ダイニングテーブルに並べてくれた。たまごサンドにハムサンド。有名なパン屋さんの手作りだからすごく美味しそう。何も言わなくても手際よくお茶の用意までしてくれる颯君は、いつもいろいろ手伝ってくれるから助かる。部屋に戻っていた旦那を呼んで、私達は3人でランチをした。「健太さん、今日は仕事休みなんですか?」颯君も、さすがに40歳の旦那には敬語を使う。「ああ、今日は休み。暇を持て余してるとこ」「そうなんですか。健太さん、趣味とかはあるんですか?」「趣味か……特に無いな」女の子と話すこと――だよね、あなたの趣味は。本当はそう言ってやりたかったけれど、でも、やめておこう。「颯君は絵を描くんだろ?どんな絵を描くんだ?」「……そうですね。今は勉強のためにいろいろ描いてます。風景も、人物も……」「そうか、今は勉強中なんだ。へえ、人物も描くんだ。モデルとか雇うの?」「えっ……」少しの沈黙。何かを考え、颯君はゆっくりと口を開いた。「自分の男友達を描いたり……まあ、写真を模写したり……いろいろです。わざわざモデルを雇うことはしません。でもね
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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5 旦那の痛い言葉

「結姉。健太さんの言ってることなんて、絶対気にするな」私の沈んだ顔を見て、優しい言葉をくれる颯君。ダメだな、私。デリカシーの無い言葉を笑って流せず、思いのまま顔に出てしまって……「だ、大丈夫だよ。旦那はああいう人だから。でも……だから言ったでしょ。私より若い子にした方がいいって。男はみんなおばさんより若い子がいいに決まってるんだから」そう言いながらも胸が苦しくなる。「ねえ。それ、誰が決めたの?誰の正解?俺の中には、そんな考えは1ミリも無い。それに、俺、結姉のことをおばさんだなんて思ってないから」「颯君……」「何度も言っただろ。俺は結姉を描きたいんだって。悪いけど、智華ちゃんやひなこちゃんを描きたいとは思わない。嘘じゃないよ」そんなこと……めちゃくちゃカッコ良い顔で言わないで……私……颯君に甘えたくなってしまう。ずっと年下の君に――「……嘘じゃないと言われても、やっぱりそれってお世辞なのかな?とか、同情してくれてるのかな?とか……いろいろ考えてしまう」「結姉……何で信じてくれないの?」「私ね、恥ずかしいけど、もうずっと前から旦那には女として見られてないの」「えっ?」「でもね、仕方ないの。若さにはどう頑張っても勝てないから。肌のハリもシワも……そういうのって、あの人の言うように絵にも出ちゃうのよね、きっと。私は、あの人に言われる通りのおばさんだから……颯君にも本当はそう思われてるんじゃないかなって……」自分で言って悲しくなる。私はなぜここまで自分を卑下しているのだろう。「だとしたら、健太さんは女性を見る目が全くない。結姉は肌だってすごく綺麗だよ。お世辞じゃない。健太さんは馬鹿だよ。こんなすぐ近くに結姉みたいな……」「……颯君?」「……ごめん、俺、もう部屋に戻る」「えっ、ちょっと、どうしたの?」なぜか慌ててキッチンから出ようとする颯君は、去り際、振り返って言った。「結姉、健太さんの言葉。本当に気にするな」「あっ、ちょっと」そのままいなくなった颯君は、何だかつらそうな顔をしていた。なのに、上手く声掛けもできずにごめんね。本当に……母親役の難しさを痛感する。私には颯君の気持ちをどう捉えればいいのか、正直、わからなかった。それにしても、私に対する旦那の言葉にはどんどんトゲが増えていく。触ると怪我をしてしまいそうな鋭
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
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1 大切な悩み相談

「ただいま」「おかえりなさい、祥太君。楽団の練習終わるの早かったんだね」「うん、連絡しなくてごめんね。急に早く終わることになったから……急いで帰ってきた」「そんな慌てなくても大丈夫なのに」「早く……帰りたかったからね。結菜ちゃんのカレーが食べたかったから。いい匂いする。お腹空いたなぁ」優しい目をしてキュンとする言葉を言う祥太君。「あっ、ごめん……。バタバタしちゃって、まだ出来上がってないの。今、煮込んでるから、もう少し待ってね」「いいよ、まだ待ってるから。気にしないで。煮込んだ方が絶対美味しいし」そう言って、祥太君は手を洗ってから席についた。「そのサンドイッチ、颯君が買ってきてくれたの。カレーができるまでよかったら食べてね」「美味しそうなサンドイッチだね。せっかくだから少しだけもらおうかな」私は紅茶を入れて、祥太君の前にマグカップを置いた。「ありがとう、結菜ちゃん。いただきます」「はい、どうぞ」祥太君の食べ方が綺麗で育ちの良さがうかがえる。チラッと見た横顔が本当に素敵で、まだ若いのに充分過ぎるほどの色気を持ち合わせている。その大人びた顔立ちに、思わずグッと見入ってしまった。「うわ、このサンドイッチものすごく美味しいね」「そ、そうでしょ。美味しいよね」私は慌てて目を反らせ、何も見ていなかったように平然と返事をした。「うん。本当に美味しい」「こんなに美味しいサンドイッチ、私も作ってみたいけど、このハムサンドも卵サンドもツナサンドも、すごく絶妙な味付けで、なかなか真似できない感じで」「大丈夫だよ。結菜ちゃんが作るなら、これより絶対美味しいはずだから。今度作ってね」「そ、そう言われたら、美味しく作らないと祥太君を残念がらせてしまうね」祥太君は誰にでもこんなふうに言える人。この世の中に、勘違いしている女性がいったい何人いるのだろうか。「あっ、ねえ。祥太君……何か悩み事とか……あるのかな?」カレーができるのを待つ間、私は祥太君に聞いてみようと思った。それにしても単刀直入過ぎただろうか。「……結菜ちゃん、ごめんね』「えっ?」「今朝のこと、気にしてくれてるんだよね?」「……あ、うん。祥太君、何か言いたそうだったから……ちょっと気になって」「心配してくれてたんだ。やっぱり結菜ちゃんは優しいね。嬉しいよ」「一応、私はあ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
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2 大切な悩み相談

「俺、楽団に所属してピアノを弾いてるけど、それが自分の人生にとって1番いい選択なのか迷ってるんだ」祥太君から飛び出した言葉は、私を戸惑わせた。まさか、そんな話だとは思ってもみなかった。祥太君にとって、ピアノが1番大切だと思っていたから。「祥太君が所属してる楽団ってとっても有名だし、コンサートとかもチケットが即完売でなかなか取れないんだよね?」「まあ、うちの楽団はみんなそれぞれ素晴らしい演奏家達だからね。彼らのおかげでいつもコンサートは大盛況だよ。でも……実は俺、家の仕事を継いでくれって言われてて……」「そうなんだ……」そのまま数秒、祥太君は黙ってしまった。「祥太君、大丈夫?」「あっ、ごめん、大丈夫だよ。結菜ちゃんならわかるかな……お父さんが社長さんだったんだよね。今はお兄さんが跡を継がれてるって……」「祥太君、私の家のこと知ってるの?」「ごめんね……。俺がここに住みたいって言ったら、親が心配して勝手に調べたみたいで。それで、大家さんが有名な製薬会社のお嬢様なら大丈夫だ……みたいになって、家を出ることを許されたってわけ」「そうだったんだね。親御さんの心配する気持ち、すごくわかるよ」「そう言ってもらえたら嬉しいよ……ごめんね」「ううん。気にしないで」「……俺、ずっと会社を継げって言われてるのに、好きなピアノを諦められなくて……」「……」「勝手に楽団のオーディションを受けて運良く合格して……ずっと辞められずにいて……つまりは逃げてるんだ、俺」「そんな……逃げてるだなんて……」「大学で経営学も学んでたから、親は当たり前に一人っ子の俺が継いでくれるって思ってたみたいで。でも、その期待には答えられずにいるんだ」とても苦しそうに思い詰めた顔をする祥太君を見ていたら、私までつらくなる。「24にもなって、まだ答え出せなくて情けないよ。父親は、社長のポストをいつか俺に譲りたくて、そのためにまずは自分の会社で働いていろいろ勉強してほしいって……。でも、そうなれば、今の楽団にはいられない。間違いなく忙しくなるから、きっとピアノにも触れない」祥太君が好きなピアノに触れなくなることも、祥太君のピアノが聴けなくなることも……それはとても悲しい。「ご実家はどんなお仕事をされてるの?もし差し支えなければ話してくれる?」祥太君はうなづいた。「主に食品
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
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3 大切な悩み相談

「別にそんなにすごくはないよ」「充分すごいよ。祥太君は、日本を代表する大企業の御曹司さんなんだ」本気で驚いてしまった。山崎フーズは、うちの会社なんて比べ物にならないくらいの大会社。日本どころか世界中がお世話になっている。「正直、あまり知られたくはないんだけど……。結菜ちゃんには隠し事はしたくないからね。いつかは必ず話そうと思っていたんだ」「……うん」「山崎フーズは俺が作ったわけじゃないし、御曹司なんて言われて、何か……ね。でも、もし俺が御曹司なら、結菜ちゃんは製薬会社のお嬢様……だね」「そんなそんな。お嬢様なんて言葉は私には似合わないよ」私は、両手を胸の前で思いっきり振って否定した。「似合わないことないよ……。でもさ、やっぱり……御曹司とかお嬢様って何だか堅苦しいよね。俺、そういうのが苦手で……」気持ちはわかる。だけど、祥太君は明らかにスマートで爽やかなイケメン御曹司。誰が見ても違和感がない。私は……ただのやつれた寂しい女。お嬢様なんて、程遠い。「祥太君は、山崎フーズのお仕事は好きじゃないの?」私の質問に、祥太君の顔が少しだけ曇った気がした。「……」「あっ、ごめんね。いろいろプライベートなこと聞き過ぎたかな?言いたくなければいいのよ。無理しないで」首を横に振る祥太君。「仕事は……嫌いじゃないよ。むしろ、興味はある。でも、だから苦しいんだ。父親のことは、子どもの頃からずっと尊敬してきたしね。でも、ピアノも昔から大好きで、これからもずっと弾いていたいから……」祥太君の気持ちが痛いほど伝わってくる。「お父様とは、ちゃんと向き合って話し合ったの?」「……まだ……自分の思いを上手く言えなくて……」「偉そうにごめんね。でも、ピアノを弾いてる時の祥太君は本当に楽しそうだから。だから、まずはずっと弾いていたい気持ちをお父様に話してみた方がいいと思うよ。お父様のお仕事も、ものすごく大事だし、きっと、ちゃんと向き合って話したら、お互いの本当の思いが伝わるかもしれないし」「……そうだね。いつまでも逃げてたらダメだよね」「それで、もし平行線になったら、その時はまた考えればいいんじゃないかな。ちゃんとお父様を尊敬してることを伝えてあげてね。素直になって……」素直になるということが難しい人もいる。私の答えは、ある意味いい加減なのかも知れな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
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4 大切な悩み相談

でも、私の兄も父のことをすごく尊敬していた。祥太君と同じで、子どもの頃から父の近くで働く姿を見ていた。目をキラキラさせて、一生懸命父の役に立とうとして頑張っていた兄。そんな兄も、もしかしたら他にやりたいことがあったのかも知れない。それでも、決意をして父の会社を継いだ。きっと、それもとても大事な答え。だけど、1番大事なのは、自分らしく生きることなのかな……祥太君だけじゃない、私だってもっと自分らしく、自分に正直に生きたいと……不思議だけど、最近何となくそう思えるようになってきたんだ。この変化は私にとってはとても大きなことだった。「少し時間はかかると思うけど、いつか話すよ、必ず。父親と向き合う」私は、微笑みながら深くうなづいた。「結菜ちゃん、ありがとう。本当に……ありがとう」「そんなにお礼を言ってもらえるほど上手くアドバイスできてないと思うけど……。私なんかが偉そうに言ってごめんね。でも、頑張って。私は祥太君をいつだって応援してるから」「ありがとう。本当に……。あのさ、お礼に……1曲弾かせてくれないかな?優しくしてくれた結菜ちゃんのために」「えっ?」「行こう」祥太君は、そう言うと急に私の手を握って、キッチンを出た。「ちょ、ちょっと待って」私が、廊下で少しもたつくと、手を繋いだまま振り返って笑顔で言った。「早く」その笑顔があまりに眩し過ぎて、私は、このままどこかに連れ去られてもいいかな……なんて、バカなことを想像してしまった。祥太君は、結構、強引なんだ。でも……嫌な強さじゃない。この微妙な心の揺れが何なのか、自分でもわからないけれど、私の中で何かが少しずつ動き始めていた。ピアノのある部屋まで来ると、祥太君は私の手を離した。イスに座り、ピアノと向き合った。そして、深呼吸してからゆっくりと鍵盤を抑え、弾き始めた。とっても素敵なメロディー。心に響くバラードで、私の好きな曲調。優しく弾く指が、細くて長くてとっても綺麗で……時々、目を閉じる祥太君の長いまつ毛が印象的に写った。こんな素敵な人がコンサートホールで弾いていたら、きっとみんな目が釘付けになるだろう。他の人なんて視界に入らないくらいに――音の迫力の中に感じる繊細さと優雅さ。胸に響くあまりにも美しい旋律に、祥太君の真剣さが伝わってきて……とても胸が熱くなった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
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5 大切な悩み相談

「ありがとう。祥太君、すごく……ものすごく素敵な演奏だったよ」弾き終わった祥太君に拍手をしてお礼を言った。「聴いてくれてありがとう。心を込めて弾いたよ。あれ?結菜ちゃん、もしかして泣いてる?』そう言って、私の顔を覗いた。「そ、そりゃ、泣くでしょ。あんな素晴らしい演奏を聴いたら」思わず、顔をそらす私。そんなこと……こんな至近距離で言われたら恥ずかしいくてたまらない。「結菜ちゃんって……ほんとに可愛いね」「えっ……」祥太君はそう言うと、私に近づいて、そして……頭をなでてから、優しくそっと抱きしめた。「……」お互い黙っている。その行動があまりにも突然過ぎて、体が動かない。どうして……?ただ、そんな思いだけが頭の中を巡っていた。祥太君の腕の強さを感じ、何が何だかわからないのに、勝手に目頭が熱くなった。次の瞬間、祥太君のスマホが鳴り、私は我に返って祥太君から離れた。「あっ、で、電話みたいだね」「う、うん。そうみたい……。ごめん、今日はありがとう、じゃあ」それだけ言って、祥太君は振り向かずにそのまま部屋を出ていった。激しく打つ心臓の音が聞こえる……祥太君も、颯君も、いったいどうしたっていうの?2人とも……変だよ……ピアノの余韻と共に、私の体に残る祥太君の感触が切なくて……言葉にできない感情が、今、心の中にごちゃごちゃに散らかってしまった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-30
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1 真っ白なキャンバス

「結姉、さっきはごめん……」「颯君!」部屋に戻っていた颯君が、2階から降りてきた。「結姉、目が赤いけど……。もしかして泣いてた?」「な、何でもないよ。大丈夫だから」私は後ろを向いて目を拭った。「健太さんにまた何か言われたの?」「ち、違うよ」「……じゃあ、もしかして祥太君と一緒だった?今、階段で会ったから」「あ、うん。祥太君がね、ピアノを弾いてくれて……」「ふ~ん、それで感動したんだ。ズルいよな、祥太君は」不機嫌そうな顔で颯君が言った。「どうしてズルいの?」「ズルいよ。だって、ピアノはさ、弾いてすぐに相手に思いを伝えられる。でも、絵は……そういうわけにはいかないから」「そ、そうかな……。ピアノも絵も、私はどっちも素敵だと思ってるよ。颯君の絵も、一筆一筆に思いがこもってるんだよね」また、少し黙る颯君。「結姉、今からモデル頼める?」「えっ、今から?」「そ、今から」「どうしようかな、この後、夕食だし」カレーはもう出来上がっている。祥太君も降りてくる気配はない。「少しでいいよ。夕食までの間」「……うん、わかった」私はうなづいた。颯君の表情からとても真剣な思いが伝わってきて、断ることができなかった。ゆっくり階段を上がり、颯君の部屋に向かう。10畳ほどある少し広めの部屋。コーディネートカラーの黄色が、部屋を明るく感じさせている。入ってすぐに、イーゼルに立て掛けられた、大きくて真っ白なキャンバスが私の目に飛び込んできた。 「ここに座って」「あっ、うん」モデルなど慣れていなくてドキマギする。何をどうすればいいのか全然わからない。「緊張しなくていいよ。リラックス」「リラックス……って、難しいね」「大学ではみんな順番にモデルもしてるよ」「そうなの?モデルさんが来るのかと思ってた」「たまには違うところから呼んでくるけど、普段の練習はみんなで交代したり、まあ、志願するやつもいるけど」「そうなんだ。颯君もモデルとかするんだね」「するよ。モデルは退屈だけど、描いてもらうのはやっぱり嬉しいし。みんなに見られるのはちょっと恥ずかしいけど、そのうち慣れてくる」きっと、颯君がモデルなら描きがいもあるだろう。本物のモデル顔負けの颯君、もし私に絵の才能があればぜひ描いてみたかった。「慣れる……かな」「みんなリラックスし
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