颯君は、まず、鉛筆でデッサンしているようだった。私を見て、キャンバスに向かって描いて……そして、また私を見る。しばらくはその繰り返し。鉛筆を動かす指がとてもしなやかで、なぜかその手に男性としての色気を感じずにはいられなかった。真剣な眼差しの颯君――今日はとても大人びて見える。きっと、この人の魅力は、絵を描いている時に最大限に引き出されるのかも知れない。「結姉。すごく……綺麗だよ」無防備な心に突然飛び込んできた言葉に驚く。目が合っている状況が恥ずかしい。「お、お世辞は言わなくていいよ」「お世辞なんか言わない。本当に綺麗だ……」今度は、キャンバスに描かれた私を見ながら言った。「大人を……からかわないで。私、綺麗なんかじゃないし。旦那も言ってたでしょ?私には魅力が無いって」思い出したくないことが勝手に頭に浮かんだ。「……」「それに、私にお世辞を言ってもお家賃は安くならないわよ~」思わず言い慣れない冗談を言って笑ってみせた。これは、完全なる照れ隠しだった。なのに、颯君は何も言わない。「ちょっと、颯君、何か言ってよ。バカなこと言って、恥ずかしいじゃない」「……ごめん」「ねえ、颯君。朝もだけど、今日はなんか変だよ。どうしたの?」「別に変じゃないよ、俺は。朝は、健太さんが結姉のことをバカにしたから」旦那は、私を女としては見ていない。若い時は、もう少し大事にされてたのに……今の私のことは、ただのおばさん扱い。「仕方ないのよ。本当のことだから。あの人は、智華ちゃんやひなこちゃんみたいな若くて可愛い子だけが女だと思ってるんだから」「仕方ないなんて……」「颯君が心配しなくても、私は大丈夫なの。実際、自分が若い子とは比べ物にならないって……ちゃんとわかってるから」「どうして?どうして結姉がそんなこと言われなくちゃならないんだ?」「……颯君、やっぱり変だよ。朝のことはもう……いいの。あっ、私が今言い出したから気にさせちゃったんだよね。ごめん、ごめん。冗談のつもりだったの。本当よ」「結姉……」突然、颯君が立ち上がった。「えっ?」次の瞬間、颯君は、座ったままの私を大きな腕で包むように優しく抱きしめた。嘘……ひざをつきながら、更に腕に力を込める颯君。「……やめて……ちょっとダメだよ。離して……」今のこの状況が理解でき
Huling Na-update : 2025-07-01 Magbasa pa