Tous les chapitres de : Chapitre 81 - Chapitre 90

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1 キラキラした時間

大浴場から出ると、そこには3人がいた。「えっ!びっくりした。3人揃ってどうしたの?」知らない場所でみんなが揃うと、あまりにもイケメン過ぎて圧倒されてしまう。家にいる時ももちろんだけれど、今のこのシチュエーションにおいては、さらにドキドキを煽られる。「結姉。一緒に写真撮ってよ」「えっ?しゃ、写真?」「うん。一緒に撮りたくて待ってた」嘘……もしかしてそのためにここで私を待っていたの?「いや、ダメダメ。こんなスッピンでは撮りません」「昼間ちゃんと撮れなかったので、もう少し一緒に撮りたいと思って」文都君が言った。「う~ん、ごめん。今は本当にスッピンだから、ちょっと……。やっぱり恥ずかしいよ」「結菜ちゃんのスッピンはいつも見てるけど」「そ、そうだけど、写真となるとちょっと抵抗あるから」「結菜ちゃんのスッピンは普通のスッピンじゃないから大丈夫だよ」祥太君のいう「普通のスッピンとは違う」とはどういう意味なんだろう。「うん、わかる。結姉のスッピン、可愛すぎて化粧してる時より好きだから」「僕は、どちらも好きです。どちらか選べません」「文都君、それはズルいよ。俺ももちろんどっちも好きだけど、どちらかと言えばスッピンだって言いたかっただけ」颯君が口をとがらせた。「まあまあ、2人とも。まとめると、結菜ちゃんのスッピンはとっても可愛い。化粧してても、してなくても関係ないってことだね」「そう、それ」「はい。そうです」「だって。だから結菜ちゃん、みんなで一緒に撮ろうよ」そんなこと言われても……スッピンの話題で盛り上がってくれるなんて、すごく恥ずかしい。申し訳ないような気もする。30歳の私は、もうピチピチお肌じゃないのに。それでも、そんなことはお構い無しに、わがままな兄弟のように私を引っ張って写真を撮ろうとした。こんな私と……楽しそうに。まずは1人ずつ。祥太君は、私の腰に腕を回して。文都君は、照れながら私に頭を近づけた。颯君は、肩を抱き寄せた。スッピンの写真はあまりみたくなかったけれど、それでも、みんなでワイワイ言いながら撮影を楽しんでくれたから……不思議と、まあいいかと思う気持ちになっていた。3人と私で、笑顔いっぱいの写真も撮った。「この写真、私にもちょうだいね」「もちろん、ちゃんと渡すね」「ありがとう」フレームの中
last updateDernière mise à jour : 2025-08-15
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2 キラキラした時間

「まずはトランプでもやろうか。旅と言えばトランプだからね」「あら、颯君、いいわね~。トランプなんて何年ぶりかしら」「楽しそう。私もトランプは久しぶり」「昌子さんも結菜ちゃんも久しぶりなんだ。だったらやろう。何やる?」「定番のババ抜きか七並べがいいんじゃないかな?」「私も祥太君に賛成よ。あまり複雑なのはわからないわ」「じゃあ、七並べにしましょうか」文都君が言った。トランプを切り、みんなに配る役は颯君。「上手いね、颯。何かプロみたい」マジシャンみたいに手馴れた手つきがかっこ良くて、祥太君が訊ねた。「昔、手品にハマってた時期があって。カードマジックたくさん練習したから」「いろいろ趣味があっていいわね」お義母さんも興味津々だ。「はい。カードが行き渡ったから始めよう。7を持ってる人は出して」6人のトランプ大会。子どもの頃に戻ったみたいでワクワクする。いろいろなトランプゲー厶をし、みんなで大いに盛り上がった。「じゃあ、祥太兄、カードを1枚引いて」「もしかしてマジック?」「さあ、どうぞ」颯君に言われた通りに祥太君がカードを1枚引いた。そのカードをカードの束に戻し、颯君がどのカードか当てる……単純なマジックではあるけれど、一同、とても驚いた。「颯君、そんな才能もあったんだね。びっくり」「ただの遊び程度だけど。今でもたまに練習してる。そうだ、結姉、どっちか選んで」颯君は、そう言って、両方の手をグーにして私の前に出した。「えっ?うわぁ、どうしよう」「何も怖いものは出てこないから。どっちにする?」「あ、うん……じゃあ、こっち」右側を指さす。手のひらには何もない。「こっちだったの?」左側を開いても何も出てこない。「結姉……」颯君は、長くて細い指をしなやかに動しながら、右手を私の顔の前まで持ってきた。そして、親指と人差し指で支えた小さな「花」を差し出した。「えっ……」「プレゼント」「うわぁ、すごい。どこから出てきたの?何も持ってなかったのに」その赤い花はマジック用の小道具だろう。だけれど、とても綺麗で可愛くて……幸せな気持ちになった。「すごいですね。颯君は手品の天才ですね」「天才は言い過ぎ。これは基礎中の基礎だから」「颯がするからかっこ良く見えるんだよ。手先が器用なんだな」「ありがとう。練習した甲斐があっ
last updateDernière mise à jour : 2025-08-16
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3 キラキラした時間

「結姉、ごめん。俺、ひなこちゃんに告白されたから」「……」颯君の言葉に体が固まった。「黙ってるの嫌だし、あの雰囲気だとみんなにも勘づかれてるだろうし……。俺、ちゃんと言ったよ。結姉が好きだから、ひなこちゃんとは付き合えないって」「えっ……」「泣いてたし、可哀想だと思った。だけど、俺の気持ちはひなこちゃんには無い。俺は、結姉が好きなんだ。どうしようもないくらい、好きで好きでたまらない。だから、中途半端にひなこちゃんに希望を持たせたくなかった」「颯君……」ひなこちゃんには申し訳ないと思っているのに、情熱的な言葉に体は勝手に反応し、ドキドキしてしまう。「ズルいな、颯。結菜ちゃんはお前1人だけのものじゃないよ。俺も結菜ちゃんのことを考えると苦しくなる。こんなに好きなのに、一生振り向いてもらえないと思うと怖くなるんだ」「わかります。僕も同じです。結菜さんがいなくなったらどうしようとか。時々、不安で仕方なくて……」今起こっていることは、映画の中のフィクションなのか?あまりにも信じられないセリフが飛び交っていて不思議な感覚に包まれる。「祥太兄と文都君の気持ち、痛いほどわかる。……ほんと、なんでみんな結姉が好きなんだよ」「好きになってしまったんだから仕方ない。それだけ結菜ちゃんには魅力があるんだよ。無条件に……惚れさせるだけの魅力が」「魅力なんてないよ。魅力がないから……私はあの人に女扱いされなかったんだよ。魅力があれば、私はもっと愛されてたはず」「健太さんは特別だ。あの人は結姉の良さをひとつもわかろうとしなかった。本当の結姉は、こんなに素敵な女性なのに。可愛くて、優しくて、一生懸命いろんなことに努力して。目の前にこんな最高の女性がずっといたのに。結姉を手に入れておいて、本当にバカだ」颯君の言葉にもキュンとなる。「僕もそう思います。健太さんは本当に寂しい人です。大切な物に気づけないまま大人になってしまった。結菜さんには、僕らがまだ見つけられていない魅力がたくさんあります。それを、僕は全部見つけていきたい」「文都君……」
last updateDernière mise à jour : 2025-08-17
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4 キラキラした時間

「そうだな。俺も結菜ちゃんのこと、全部知りたい」「嬉しいよ。みんなの気持ち……まだ信じられないけど、やっぱり嬉しい。でもね、私の全てを知ったら、絶対に嫌な部分が見えてしまうと思うの。心も体も。特に女性は、体に年齢の差が出てしまうんだよ。いくら年齢は関係ないって言われても、若い時とは違うの。そんな嫌な部分、みんなにわざわざ見せたくない」私は何を言ってるのだろうか?誰も、私の体を見たいなんて言ってないのに……「嫌な部分なんて言わないでよ。それだけ、結菜ちゃんが頑張って生きてきた証なのに。もっと自分に自信を持ってよ」自信なんて、今さら持てないよ……「祥太君、みんなもおかしいよ。何だかもう……3人とも意地になってない?私をそれほど知らないのに、好きだって言ってしまったからあとに引けなくなって」「意地になってるなんて、そんなことあるはずないです。僕達はそれぞれに結菜さんを好きになって、たまたま3人が同じ人を好きになっただけで、だからって、意地になって取り合いみたいになってるわけじゃないです」「真面目な文都がこんなにも熱くなってるんだ。結菜ちゃんもそろそろ受け止めてくれない?俺達は、それぞれに真剣なんだって」「……」ここまで言ってくれているのに、どうして言葉が出てこないのか?私は……やっぱり怖いのかも知れない。ちゃんと恋愛をして、また……傷つくのが……「無理に誰かを選ばなくていい。健太さんと別れてすぐに恋愛なんてできないかも知れないし」「颯の言う通り。俺達、かなり無理なことを言って結菜ちゃんを困らせてるから。だからゆっくり自然でいいよ。焦らなくて全然いい。それで、もし誰かを選べるようになったら……その時はちゃんと言って。もちろん、他に好きな人ができた時も。俺達は全て受け止めるよ。結菜ちゃんの決断ならばね」祥太君の言葉は、すごく有難かった。今の私には、誰かを選ぶなんて到底できないから。3人は、私を守ってくれている騎士のよう。それとも、キラキラ輝いている王子様か――本当に……素敵過ぎる。「そろそろ寝ようか」私は、みんなと別れて部屋に戻った。ふかふかのお布団の中で、お義母さんとひなこちゃんはもう眠っていた。私も布団にもぐりこみ、1人、いろいろ考えた。みんなは、私を本気で想ってくれている。今日1日一緒にいて、改めてよくわかった。で
last updateDernière mise à jour : 2025-08-18
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1 私の夢

次の朝、私は早くに目が覚めた。まだ外は薄暗い。温かい布団の中で、私はまた1人考えた。大切な4人の同居人とお義母さん、そして、あの大事な別荘を守るために、私はどうするのが1番いいのかと――私には子どもの頃からの夢があった。別荘をペンションにしてお客様をお迎えし、食事を提供したり、たくさんの花々を植えてお客様に喜んでもらいたい……そんなぼんやりとした夢だ。昔は子どもが考えただけの夢物語だった。だけれど、いつしかそれは現実的な願いとなり、あの人と結婚した時も、その話はしていた。旦那も「いつか一緒にやりたいね」って、最初の頃は本当にそう言ってくれていた。なのに……気がつけば、そんな話ができるような状態ではなくなり、夢を追いかける気力も無くなっていた。子どもの頃に描いた淡い夢は、だんだん真っ黒になって、いつの間にか心の隅の隅に追いやられてしまっていた。でも、不思議と今は、諦めていた夢を実現させたい――との思いがどんどん強くなっていて、私の中で再び輝き出していた。そんな私のわがままを叶えるためには、今の同居人4人とお義母さんにも了解をもらわなければならないし、了解を得たとしても、不便な思いをさせてしまうことは間違いない。食事もお風呂も、何もかも、今まで通りにはいかない。お客様優先になれば、みんなのためにしてあげられることは限られてしまう。だからといってみんなを追い出すなんて絶対できない。いや、したくない。本当にどうすればいいんだろう。その時、ふとある考えが巡った。もしかして、私から離れた方が彼らのためにはいいのではないか――私を好きだと真剣に言ってくれた彼らには、この先、キラキラ輝く大切な未来がある。祥太君はピアニストとして、ますます磨きをかけ、スポットライトを浴び続けるだろう。文都君は、お医者さんになって、たくさんの患者さんを救うという崇高な使命を果たす。颯君は、画家となって、海外でも認められて幅広く活躍するかも知れない。料理の才能だって、どんな風に開花するかわからない。私と離れれば、新しい恋ができるかもしれない。彼らにとっては、違う人生に向かってスタートを切れるチャンスなのかも……
last updateDernière mise à jour : 2025-08-19
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2 私の夢

このまま私といて、3人が間違った方向に進むことを考えると、とても怖くなる。確かに、尽きることのない悩みに頭を抱えながらも、旦那と別れて、消えかけていた夢が1歩前に進んだのも事実。私にとっても最後のチャンスかも知れないんだ。答えを出すには、やはりまず3人に相談するしかないだろう。「あら、おはよう」「おはようございます、お義母さん」「結菜さん、早いのね」「何だかあまり眠れませんでした。楽しくて頭が興奮してるのかも知れませんね。そろそろ支度しましょうか。朝ごはんも、とっても美味しいそうですよ」「本当に幸せだわね。私も支度しなきゃ」「……おはよう……ございます」まだ眠そうなひなこちゃんも目を覚ました。私達はみんなで朝食会場に向かい、美味しい朝ごはんをいただいた。「こんなに美味しいご飯を食べて嬉しいけど、これで終わりだと思うと寂しいわね」「本当に……楽しかったですもんね。お義母さんやみんなと来ることができてよかったです」「今度は違うところに行こうよ。また俺が最高の場所を予約するから。このメンバーで絶対行きたい」「そうだね。颯のおかげでこんな良い旅館を満喫できたんだし、次回も颯に頼みたいな」「祥太兄、任せてよ」「僕も今から楽しみにしてます」「私もそれまで元気でいなきゃね」「昌子さんはまだまだお若いですから、次もみんなで行きましょうね」「ありがとう。祥太君やみんなのおかげで、私も人生が楽しいわ」お義母さんは、満面の笑顔だった。もちろん、みんなも――たった1泊だったけれど、心の中に一生残る素敵な思い出ができたことに感謝しかない。その後、私達はいくつかの観光名所を回り、充分満喫して旅を終えた。ひなこちゃんは今日も元気に振舞っていた。颯君とも普通に話している。だけれど、私とは全く口をきいてくれない。ひなこちゃんとはこのまま交われないのだろうか……若い女の子の気持ちを理解するのは難しい。自分にも若い頃はあったのに、その頃の気持ちなんて、とうの昔に忘れてしまっていた。とにかく、3人が企画してくれたおかげで、素敵な部屋と最高の温泉、美味しい食事……そして、みんなとの時間に癒され、リフレッシュできた。だから、何があっても笑顔で、明日からまた頑張らないと……本当にみんな、ありがとう。忘れられない思い出を胸に、私は別荘に着いてす
last updateDernière mise à jour : 2025-08-19
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3 私の夢

それから数日経って、ひなこちゃんが私に話しかけてきた。「大家さん、私、ここを出ます」「えっ?」「颯君の顔を見るのつらいし。あなたのことも、これ以上嫌いになりたくないですから。楽しくもないのに笑うの……もう疲れたから」「ひなこちゃん……」「颯君があなたを見てるのが苦痛で仕方ないです。だからもうこれ以上は……颯君とも、あなたとも一緒にいたくないんです。今日、夕方のバスで出ていきます。最後に、みんなで旅行に行けて良かったです。お世話になりました。颯君にも、みんなにもよろしく伝えてください」「ちょっと待って。ひなこちゃん、こんなに急に?」「はい、止めても無駄です。一人暮らしする部屋ももう見つけてますから」「そんな……」全く相談もないことはとても悲しいけれど、仕方がないのかも知れない。逆の立場ならやはり……ひなこちゃんの決意は……固いようだった。「わかった。ひなこちゃんの新しい人生、応援してるよ。本当に……ずっと一緒に暮らしてたのに、何もしてあげられなくてごめんね」心が痛くて涙も出そうになる。だけれど、グッと我慢した。「ありがとうございました」今日は、3人もいない、お義母さんも。そんな日を選んで、ひなこちゃんは出ていった。颯君にさよならするのがつらいのだろう。その気持ちはすごくわかる。私だって、あの3人と別れると思うと……でも、私は大家としては失格だ。智華ちゃんもひなこちゃんも支えてあげられなかった。あまりにも情けない。こんな私がペンションをやりたいなんて虫が良すぎるのだろうか……女の子2人さえも幸せな気持ちにできなかったのに。また、いろんな感情が溢れ出す。そして、夕食の時間――ひなこちゃんのいない食卓。お義母さんも今日は帰らないそうだ。素敵なお相手と会っているらしい。私は3人にひなこちゃんのことを話した。「そっか……。仕方ないよね。結菜ちゃん、元気出して。結菜ちゃんが笑顔じゃないと、俺、寂しいから」祥太君は、こんなダメな私を励ましてくれた。「僕も……。結菜さんが悩む必要はないと思います。ひなこちゃんの人生は、彼女が決めることですから。きっと大丈夫ですよ。彼女なら」「ひなこちゃんがいなくなったのは俺のせい。勝手な意見ではあるけど、俺も彼女なら大丈夫だと思う。吹っ切れれば、きっと俺よりも良い奴と……。だからさ
last updateDernière mise à jour : 2025-08-20
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1 新しい1歩

「ねえ、ごめんね、その前にみんなに話しておきたいことがあるの」3人が一斉に私を見た。ドキッとするくらいのカッコ良さに圧倒される。この特殊な環境に慣れることはもはや無理かもしれない。「あのね……」「待って!いきなり出ていってとかは無しだよ」颯君が言った。まだ何も言っていないのに……でも、もしかしたらそうなるかも知れないんだ。私のわがままで……「ごめん、聞いて、颯君。私、子どもの頃からずっと夢を持ってたの。ペンションをやりたいっていう夢。旦那がいたから、あきらめてたっていうか、ずっと無理だと思ってた。でもね、今、あの人と別れて、私……」「もしかしてペンションをやりたいってこと?だったらすごくいいね。俺は応援するよ」祥太君は、すかさず言ってくれた。だけれど、その素早い反応には少し戸惑った。「うん、もちろん僕も応援します」文都君まで……「颯は?どう思う?」「祥太兄……。文都君も。結姉がペンションをすれば、俺達はここにいられなくなるんじゃないの?みんなはここを出て行くってこと?2人ともそれでいいの?」颯君は真剣な表情で言った。「まさか。文都と俺は出ていく気なんて全くないよ。そうだよな、文都」「もちろんです。僕もそんなつもりは全く無いです」平然と言う2人の言葉に驚いた。「でも、ペンションをやるなら、俺達は……やっぱり邪魔だよね?」「……颯君、邪魔とかではないの。ただ、どうしてもお客様優先になるから……。みんなからちゃんと毎月のお家賃をもらっておいて、十分なおもてなしができなくなるから、それがすごく申し訳なくて。私のわがままだってわかってるの。急にこんな話をして、本当に……ごめんなさい。だから、遠慮なく、ここを離れてもらっても……」「なんで?なんでそんな事言うの?結姉は俺達がいない方がいいの?」「颯、そんな必死にならなくても大丈夫だよ。結菜ちゃんはそういうつもりで言ってるわけじゃないんだから」「そうですよ、颯君。結菜さんは、僕達のためを思って言ってくれてます。だけど、それは……僕達が望まない優しさです」「文都の言う通りだよ。俺達は、結菜ちゃんと離れるつもりはないよ」「もし、それが結菜さんのわがままだとすれば、僕らもわがままを言わせて下さい。僕ら3人はずっとここにいたいです」
last updateDernière mise à jour : 2025-08-20
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2 新しい1歩

「そんな……どうしてそこまで……。みんなには、未来があるんだよ。このまま私と一緒にいたら……」「結姉にはわからないの?俺達の未来は自分で決める。俺達は、自分でいたいと思うからここにいるんだ」「そうだよ。俺と、文都と、颯。3人ともここに残って結菜ちゃんを支えたい」「はい、僕も結菜さんを支えたいです。たいして役には立てないかも知れませんが」「みんな……」「俺は楽団、文都と颯は大学があるから、全面的に協力はできないけど、何か出来ることをさせてほしい。俺はもちろん無償でいいから」「それ、すごくいい!俺もお金はいらないからペンション手伝わせて。バイトもして、家賃は必ず払うから」「僕はどこまでお手伝いができるかわかりませんが、2人と同じ気持ちです。お金なんかいらないです、何でもさせて下さい」「俺達はここを出ていくなんて1ミリも考えられない。結菜ちゃんを本気で支えたい」「でも……」「俺達の食事なんか気にしないでいいよ。自分らで勝手に食べるし。お客様優先で全然いいし、俺らにちゃんと甘えてほしい。何よりも結菜ちゃんの夢を叶えてほしい」「そんな訳にはいかないわ。ペンションなんて想像もしなかった世界でしょ?そこにみんなを巻き込むなんて……」「結菜さん。僕らのこと、もっと頼って下さい。みんな側にいてあなたを守りたいんです」「そうだよ。結姉のそばで、結姉のために何かしたい。出ていくなんて俺は絶対に嫌だ。俺達には、おもてなしとかそんなの、一切考えなくていいから」みんなの優しさが痛いほど胸に迫る。どうしていつもそんなに優しいのか……1番年上なのに、いつだって励まされてばかり。自分の夢なのに、自分で何も決められないなんて本当に情けない。「ごめんね、みんなを巻き込んで。本当に甘えてしまっていいのかな……。私1人のわがままのために」「あたりまえだよ。颯や文都君の言う通り、しっかり甘えてくれればいい。結菜ちゃんの夢が叶うと思うと自分のことみたいに嬉しいよ。結菜ちゃんが決心したんなら、俺もちゃんと父親と向き合ってケリをつけないとね」
last updateDernière mise à jour : 2025-08-21
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3 新しい1歩

「祥太君……本当にありがとう。うん、そうだよね。祥太君もお父様と向き合うんなら、私も頑張らないとね」「うん、ちゃんと向き合う」「祥太君のお父様、絶対にわかって下さるよ。祥太君には素晴らしい才能があるんだから」「ありがとう。いつも背中を押してもらってるね、俺。本当に感謝してる」祥太君が、軽く頭を下げた。「とんでもない。背中押してもらってるのは私の方だよ。すごく感謝してるから」みんなへの感謝の大きさは、誰にも負けない自信がある。「僕も結菜さんの夢が叶うなら本当に嬉しいです。まだまだ先にはなりますが、絶対医者になって、僕も結菜さんみたいに人の役に立てるよう頑張ります。結菜さんのおかげでますますヤル気が出てきました」文都君のガッツポーズ、初めて見た。「文都君は最高のお医者さまになるね。本当に尊いお仕事だから、私の何倍も大変だと思うけど、みんなで応援してるから頑張ってね」「ありがとうございます。結菜さんやみんなの応援は本当に有難いです。すごく嬉しいです」文都君は、嬉しそうに笑ってうなづいた。「じゃあ俺も!絶対有名な画家になる。あと、料理も頑張って結姉を助ける。そうだな……料理もできる画家っていいと思わない?」「画家でシェフ、それすごくいい。颯なら絶対できるよ」祥太君はそう言って、颯君の頭をくしゃくしゃに撫でた。それを見て、みんなで笑う。「颯君の絵はとても繊細で素敵だし、料理だってきっともっと上達するから。だから頑張ってね。みんなを巻き込んでしまって申し訳ないけど、でもすごく嬉しい。まさか……本当に夢が叶う日が来るなんて……幸せだよ」私は、みんなの後押しのおかげで、この別荘をペンションにする決意が固まった。「じゃあ、祥太兄。お祝いのピアノ聴かせて」「ああ、もちろん」祥太君が、ピアノの前に座る。その瞬間、ピアニストの顔になった。背筋をピンと伸ばして深く息を吸って、そして、ゆっくりと吐き出した。
last updateDernière mise à jour : 2025-08-21
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