*テスト結果
日高くんとのこと、ちゃんと向き合おう。そう決意して翌日も一緒に帰ろうとしたら、何故か美智留ちゃんに先を越されてしまった。
あたしが決意したことは知っているはずだから、邪魔するつもりではないと思うんだけど……。
そもそも邪魔する理由がないんだから、もっと別の理由に決まってる。それに本当に何か用事がある様子だったし。
それも翌日の朝になったらすんなり理解した。日高くんを見た瞬間髪が綺麗になっていたんだもん。
ボサボサだった髪はボリュームが抑えられたためか落ち着いて見えるし、痛んだ毛先はしっかり切られていたし。それを美智留ちゃんが切ったってのはびっくりしたけれど。
ちなみに沙良ちゃんも中学の頃からずっと美智留ちゃんに切ってもらってると言うのも初めて知った。将来理容師か美容師になりたいと言っていた美智留ちゃん。
そんな彼女が日高くんの髪を切りながら何を話したのか分からないけれど、朝会った瞬間に肩を掴まれて言われたことがある。
「日高とちゃんと向き合うって言ってたけど、焦らないでね? ゆっくりでいいんだからね?」何故か急ぐなと念を押された。
しかも「日高のためにも……」なんて言われてさらに良く分からないことになる。
日高くんのためにって言うなら、ちゃんと向き合って早めにあたしの気持ちをハッキリさせた方がいいんじゃないのかな?あれ? 違うの?
何だかよく分からなくなってきたし、美智留ちゃんの目は真剣そのものだったから「分かった」と了承した。 そんなこともあって、無理に日高くんと二人きりになろうとせずいつもの様に仲間内で集まりながら過ごす。そうしているうちに、本格的にテスト勉強が始まりあっという間に中間テストが終わった。
終わった瞬間に工藤くんと小林くんが
「実は日高って、超絶イケメンだったんだよ」「……」 沈黙が流れる中、あたしは内心絶叫していた。 そうだよ! あたしだってメガネ取って美智留ちゃん達に素顔見られたんだから、日高くんだって見られててもおかしくないじゃない! 秘密がバレちゃったってこと!? 日高くんはどうしたいの!? 混乱と絶叫が心の中で吹き荒れていた。 ギギギ、と音が鳴りそうな動きで日高くんを見ると、意外にも落ち着いている。 それを見て、あたしはやっと落ち着くことが出来た。「工藤……お前それ秘密にしろよって言っただろ?」「でも仲間うちには話しても良いって言ってただろ?」 文句を言う日高くんに、工藤くんはケロッとしている。「え? ってことは本当なの? 冗談じゃなくて?」 沙良ちゃんが今度は少し本気で驚いたといった感じに言う。 二人のやり取りを見るまで本気にしていなかったんだろう。「ほら日高、納得してねぇみたいだから見せてやれって」 ニヤニヤしながら小林くんが促す。 日高くんは不満そうにしながらもメガネを外した。「ったく、お前らちゃんと隠しとけよ?」 そう言って彼は沙良ちゃんとさくらちゃんに見えるように顔を上げる。 湯上り姿の日高くんは、メガネなしだと更に破壊力が高かった。 その状態で流し目なんてされたので、あたしは恥ずかしさで思わず目を逸らしてしまう。 何これ!? イケメン通り越して美人なんだけど!!? テンパるけれど、逸らした目線の先にいた美智留ちゃんを見てあれ? と思う。 美智留ちゃんは日高くんの顔を見ず、周囲を警戒するように見張っていた。「……あ、日高メガネ戻しな。誰か来るよ」
校外学習一日目は美術館での芸術鑑賞と、工芸品の施設へ行って見学と制作体験をするものだった。 一学年全員で行くものだし、大して騒げるわけでもないので無難に終わったという感じ。 大抵の生徒は明日が本番って気分だし、お楽しみは宿泊施設に着いてから何て言っている人もいた。 宿泊施設もそこそこ良いところで、築年数は多少いってるけれどそこまで古臭い感じはしない。 しかも百パーセントかけ流しの大浴場はリフォームしたばかりとあって皆楽しみにしていた。「灯里ってメガネ取るとそんな顔してたんだ……? 普通に可愛いじゃない」 脱衣所で服を脱いでいると、沙良ちゃんに突然そんなことを言われた。「え? そ、そう?」 学校では地味子で通そうとしていたから極力メガネを外さないようにしていた。 外で皆に合うときも確かにずっとつけていたから、外したところを見せるのは今回が初めてかもしれない。「顔もそうだけれど、実はスタイルも良かったのね。胸が大きいとかってわけじゃないんだけど、何て言うかバランスが良いわ」 少し離れた場所から美智留ちゃんが言った。 上から下までジッと見られているみたいで恥ずかしい。「しかも肌すべすべ。しっとりしてて何か触り心地良さそう~」 そう言って手を伸ばしてくるのはさくらちゃんだ。 さくらちゃん、それ、何かオジサンのセリフみたいだからやめて欲しい。 何だか一斉に褒められて気恥ずかしくなったあたしは、話を逸らすために「皆だって」と矛先を変える。 でも皆は自分のコンプレックスを上げて、やっぱり灯里は良いなぁとなり話が戻ってしまう。 仕方ないので、あたしはさっさと全部脱いで風呂場に先に向かった。 お風呂から上がると、部屋までの道に男子生徒がチラホラ固まっているのが見えた。 後は寝るだけだし、皆部屋に戻らないのかな? と不思議に思
「え? でも校外学習の話してるとき今まで一度もそんな事言わなかったよね?」 街を良く知っているなら、自由行動のスケジュールを決めるときに教えてくれても良かったはずだ。 そう思って疑問を口にしたけれど、すぐにそれが無理だったことを理解する。「俺が総長やってた時に歩き回ってた街だぞ? ボロが出ても困るから黙ってたんだよ」「あ」 そうだった。 日高くんの地元という事はそういう事で、元不良仲間がいてもおかしくない場所なんだ。「それで口数も少なかったし、考え込んでいたんだ?」 確認のためそう聞くと、日高くんは「ああ」と返事をしつつ浮かない顔をしている。「何か心配ごとでもあるの?」 続けて問うと、眉間にしわを寄せながら答えてくれた。「まあ、平日だし同中の奴らとかはいねぇだろうけどよ。火燕のメンバーの大人組とか、敵対してたやつらとかは出歩いてねぇとは言い切れねぇ。いくら地味な格好してるとは言え、気付く奴は気付くしな……」 と不安を吐露する。「……気にし過ぎじゃない?」 普通に校外学習していて、不良に絡まれるなんて想像もつかない。 あたしがそう言うと、日高くんも「そうは思うんだけどな」と返しつつあたしを見た。「万が一、お前にまで危害が及ばねぇかと気が気じゃねぇんだよ」 少し照れた様に、それを誤魔化すためになのかぶっきらぼうに言う日高くん。 あたしは何度か瞬きをして、どんな顔をすれば良いのか分からなくなる。 そんな事あり得ないと笑い飛ばせば良いのか。 心配してくれてありがとうと言うべきなのか。 迷って、結局は無難に「大丈夫だよ」と二ヘラっと笑った。「気にし過ぎだって、不良の溜まり場に突っ込むわけじゃないんだし。それに何より楽しみにして行った方がいいでしょう?」 座っていたベンチから立ち上がり
何だかんだで中間テストが終わると、すぐに校外学習の準備が始まる。 HRの時間を使って、主に二日目の自由行動について決めていく。 先生からはいくつか指定されたお寺や神社など観光名所のうちどこか一つに必ず行くように、とだけ伝えられ、他は時間までに集合時間に来れる様スケジュールを好きに決めて良いらしかった。 ただ、そのスケジュールを先生たちが確認するので変な場所やただ遊びに行くためだけの場所は控えるように、とだけ伝えられる。 行くな、ではなく控えるように、と言っている辺り多少羽目を外してしまうのは仕方ないと思われている気がする。「ま、あくまで学習だからなー。取りあえず指定された場所決めて、その付近で他の場所決めるのが一番じゃね?」 という工藤くんの言葉に皆同意し、まずは指定の場所を見ていく。 指定の場所については、あとでレポートを書かなきゃならないらしいので少しでも興味のある所に行くといいかも、と意見が出る。 確かに興味のある方が熱心に話とかも聞けそうだし、良いかもしれない。「武家屋敷とかカッコ良くね?」 小林くんがそう言ったけれど、花田くんに「カッコ良さだけで決めて、どうレポート書く気?」と聞かれて即座に却下した。「あたしだったら断然ここ」 そう言ってそば打ち体験が出来る場所を指したのは沙良ちゃんだ。 そこから取りあえず自分の行ってみたいところを出してみる。「あたしは……服飾の歴史博物館とか……」 少しでも美容に関係ある方が関心持てるかなと思って言ってはみたけれど、男性陣、主に工藤くんと小林くんに不評ですぐに候補から無くなった。 そうしてあーだこうだと相談した結果。 無難な形で動物園になった。 動物が嫌いな人はいなかったし、何種類もいるから興味のある動物に絞ればレポートも書きやすいだろうということで。 そして午前中
*テスト結果 日高くんとのこと、ちゃんと向き合おう。 そう決意して翌日も一緒に帰ろうとしたら、何故か美智留ちゃんに先を越されてしまった。 あたしが決意したことは知っているはずだから、邪魔するつもりではないと思うんだけど……。 そもそも邪魔する理由がないんだから、もっと別の理由に決まってる。 それに本当に何か用事がある様子だったし。 それも翌日の朝になったらすんなり理解した。 日高くんを見た瞬間髪が綺麗になっていたんだもん。 ボサボサだった髪はボリュームが抑えられたためか落ち着いて見えるし、痛んだ毛先はしっかり切られていたし。 それを美智留ちゃんが切ったってのはびっくりしたけれど。 ちなみに沙良ちゃんも中学の頃からずっと美智留ちゃんに切ってもらってると言うのも初めて知った。 将来理容師か美容師になりたいと言っていた美智留ちゃん。 そんな彼女が日高くんの髪を切りながら何を話したのか分からないけれど、朝会った瞬間に肩を掴まれて言われたことがある。「日高とちゃんと向き合うって言ってたけど、焦らないでね? ゆっくりでいいんだからね?」 何故か急ぐなと念を押された。 しかも「日高のためにも……」なんて言われてさらに良く分からないことになる。 日高くんのためにって言うなら、ちゃんと向き合って早めにあたしの気持ちをハッキリさせた方がいいんじゃないのかな? あれ? 違うの? 何だかよく分からなくなってきたし、美智留ちゃんの目は真剣そのものだったから「分かった」と了承した。 そんなこともあって、無理に日高くんと二人きりになろうとせずいつもの様に仲間内で集まりながら過ごす。 そうしているうちに、本格的にテスト勉強が始まりあっという間に中間テストが終わった。 終わった瞬間に工藤くんと小林くんが
内側は少し長めに切り、すきばさみを使う。 外側を被せる様な感じにするため、内側の髪は結構思い切って切っていく。 ようは顔が隠せる長さがあれば良いんだろうから、前髪や横の髪を出来るだけ残す様にしていく。 切りながら会話も出来れば良いんだけれど、緊張感をもってはさみを使おうと思うとまだ上手く会話を弾ませられない。 理容師か美容師、どちらになりたいのかあたしはまだ悩んでいる。 どっちかにはなるとは決めているものの、カット技術が優れているという理容師も憧れるし、髪結いなども出来る美容師も素敵で。 最近は顔そりが出来るか出来ないか、女性にパーマを掛けれるか掛けれないかの違いしかほとんどないけれど、別々の国家資格が必要だから迷ってしまう。 何か切っ掛けでもあれば良いんだけどな……。 そんなことを思いながらカットを進めていくと、日高の方から話しかけてきた。「……それで、話ってのは何なんだ? 髪切ることなのか?」 暗にそんなわけないよな、って感じに聞かれる。 事実その通りだ。 髪を切るのはやりたいことであって話したい事じゃない。 そして一番言いたいことはまだ口に出していなかった。 チラリとお父さんたちの方を見る。 話が盛り上がっているようで、こちらのことは気にしていなさそうだ。 大声を出さなければ聞こえないだろう。「……日高さ、いきなりキスはまずかったんじゃないの?」 少し考えてから、あたしは話し始めた。「灯里は思ってた以上に鈍感みたいだったからさ、告白する前にそういうことしたらからかってるとか遊ばれてるとしか思わないんじゃない?」 というか、ほぼそんな感じだった。 昨日ちゃんと告白してもらったのと、あたし達との夜のメッセージのやり取りで自分の気持ちともちゃんと向き合うって言ってくれたけれど…&hel