「どうだった?」書斎で仕事をしていた小夜は、外の物音を聞きつけると、慌てて扉を開けて問いかけた。だが、その声に応えるよりも早く、樹が胸へ飛び込んでくる。「ママ、青山おじちゃんが僕に意地悪した!ママにも会わせてくれなかったんだ!」小夜は樹を抱き止め、どういうことかと視線で後ろの青山に尋ねた。青山は笑みを浮かべて頷き、声には出さず「もう大丈夫」と口の動きだけで伝える。小夜にも、おおよその事情は察せられた。樹の髪を撫でながら、なだめるように優しい声で言った。「そんなに意地悪されたの?じゃあ今夜は、ママと二人で遊びに行こうか。青山おじちゃんは連れていかないでおこうね」樹の目がぱっと輝いた。「うん!」青山は思わず笑った。「まったく、ちゃっかりしてるな」だが、その顔に腹を立てた様子はない。「ふん!」樹はママの腕の中へ隠れ、振り返って青山にあかんべえをした。ママにとって一番大切なのは僕なんだから。これからも僕を怒らせるなら、ママに相手にしてもらえなくなるからな!これが僕を怒らせた罰だ!小夜も、青山が本当に樹を納得させられるとは思っていなかった。わずかな時間で、樹はまだ怒っている素振りを見せながらも、婚約そのものには反発しなくなっていた。とはいえ、機嫌が直ったわけではない。青山を見送ったあと、スマホで彼から事の顛末を聞いた小夜は、樹を連れて出かけた。樹の好きなように思いきり遊ばせ、ようやく胸に残っていた不満を吐き出させることができた。何はともあれ、これで樹のことはひとまず落ち着いた。翌朝早く、玄関のチャイムが鳴った。小夜が扉を開けると、青山が外で待っていた。「行こうか」今日は、婚約披露パーティーで着る衣装を選ぶ日だ。日程はかなり迫っていた。パーティーは二日後で、今から一から仕立ててもらう時間はない。最近発表されたオートクチュールブランドの新作から、すでに仕立て上がっているものを選ぶしかなかった。珠季からは、スプレンディドへ直接行くよう言われている。二人が帝都にあるスプレンディドの本店へ着くと、貸し切りにされた豪華なホールは静まり返っていた。早くから待っていた店長が歩み寄る。「高宮社長、小林様。こちらへどうぞ」小夜はスプレンディドのイギリス本社で要職に就いているため、店長も役職で呼
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